四宮家の扉の先へ
「四宮家にようこそ」
玄関の扉が開いた瞬間、天の明るい声が飛び込んできた。
きっちり制服から私服に着替えた彼女は、いつもより少し柔らかい雰囲気を纏っていた。
「待ってたわよ!」
そう言って、まるで昔からの親友のように私の手を取ってくる。
「ありがとうございます」
自然と笑みがこぼれた。緊張していた心が、少しだけ和らいだ気がした。
「叶ちゃん、いらっしゃい」
玄関の奥から、昨日も会った天のご両親が現れた。
お母様はエプロン姿で、お父様は落ち着いた笑顔を浮かべている。
「自分の家だと思って、くつろいでくださいね」
「……こちらこそ。お世話になります」
頭を下げると、お母様が微笑んで天に声をかけた。
「天、家の中を案内してあげなさい」
「うん、分かった! ついてきて、叶」
元気よく言って先を歩き始めた天のあとを追い、私は広々とした廊下を進む。
どこもかしこも整っていて、まるでモデルルームのようだった。
「ここが叶の部屋だからね」
そう案内されたのは、静かな中庭に面した部屋だった。
白を基調にした清潔感ある内装、シンプルだけど温かみのある家具が揃っていて、すぐにでも生活が始められそうな空間だった。
「ありがとう……!」
まさか部屋まで用意してくれているなんて思っていなかった。
胸が熱くなり、言葉が少し詰まる。
「次、行くわよ!」
天は遠慮なく私の手を引いて、どんどん家の中を案内してくれる。
調理室、洗面所、入浴場、家族用のリビングに、お庭まで。まるでお城の中を探検しているみたいで、私はどこを見ても驚きっぱなしだった。
「……こんなところかしら」
ひと通り終えて、天が振り返る。
「ありがとう!これで安心して住めるよ」
「慣れるまで大変だと思うけど、困ったことがあったらいつでも相談してね。私が何とかするから」
頼もしい言葉に、私は心から「ありがとう」と言った。
そして一息ついたところで、素直に告げた。
「……今日はちょっと疲れちゃったから、休ませてもらってもいい?」
「もちろん。無理しないで。ゆっくりして」
天は優しく笑って、私の肩を軽く叩いた。
***
自室に戻って、私はベッドに腰を下ろした。
少し硬いけれど、すぐに慣れそうだ。
窓の外からは、夕暮れの光が差し込んでくる。
知らない家、知らない空気、だけど……どこかあたたかい。
姉さん。
あなたがいない世界は、まだ怖いけど。
私、少しずつでも前に進んでみるよ。
今日から始まる、新しい日々の中で。




