新しい居場所へ
「叶、明日から私の家で暮らしていいわよ」
放課後の帰り道。歩きながら放った天の言葉に、私は一瞬言葉を失った。
けれど、すぐにこみ上げてくるものがあった。安心、嬉しさ、そして……少しの寂しさ。
「ほんと? 本当に……ありがとう、天!」
私は思わず笑顔になって、天の横顔を見つめた。
天は少し照れくさそうに顔をそらしながら言った。
「昨日、あなたが帰ったあとに、ちゃんと両親に話したの。
姉が行方不明なこと、弦水さんって人に四宮を頼れって言われたこともね」
「……ありがとう。迷惑かけちゃってごめんね」
「いいのよ。友達でしょ、私たち」
その言葉が胸にしみて、私は静かにうなずいた。
「今日は荷物の片付けでもしておきなさい」
「うん、わかった!」
***
帰宅してすぐ、私は部屋の中を見渡した。
住み慣れた家――けれど、今はどこか空虚に感じる。
姉がいなくなっただけで、家の中がこんなにも静かになるなんて思ってもみなかった。
スーツケースを開き、明日から必要になりそうなものを詰めていく。
下着や制服、タブレット、本、ちょっとした化粧品類。
なるべく生活に必要なものだけを選びながらも、自然と手が止まる。
「……この家とも、しばらくお別れね」
そう呟いて、私はリビングの窓から夕焼けに染まる空を見上げた。
次にこの家に帰ってこられるのは、いつになるのだろう。
「姉さん……生きてて欲しい。どこかで元気にしていて欲しい」
叶わないかもしれない。でも、願わずにはいられなかった。
***
玄関のチャイムが鳴った。
外には、黒いスーツを着た運転手の男性が立っていた。四宮家からの迎えだ。
「お待たせしました」
私が小さく頭を下げると、運転手は穏やかな声で言った。
「今日はご自宅で過ごされてもよろしいのですよ?」
「いえ。あなたを一日でも待たせるのは申し訳ないですし、何より……私自身が、早く出発したくて」
そう答えると、運転手はどこか納得したように微笑んでうなずいた。
「左様でございますか。では、出発いたします」
「すみません。お願いします」
私は軽く会釈して、スーツケースを引きずりながら車に乗り込む。
こうして私は、“星宮の家”を後にした。
後部座席の窓から、家が小さくなっていく。
その姿を、私はただ静かに見つめていた。
新しい生活が始まる。
少し不安。でも、私は前を向いていた。




