四条家への訪問
午後の日差しが屋敷の白壁に反射してまぶしかった。重厚な鉄製の門を抜けると、手入れの行き届いた庭と噴水が目に入る。その奥に佇むのは、かつて姉と何度か訪れた、四条家の屋敷だった。
玄関まで進むと、ドアが開き、中から控えめに微笑むメイドが現れた。
「いらっしゃいませ、叶様。ようこそおいでくださいました」
きちんとした所作で一礼し、彼女は言葉を続けた。
「本日は当主様に御用ですか?」
「はい、弦水さんにお話があって来ました」
「かしこまりました。ただいまご案内いたします」
屋敷の中は静寂に包まれていた。絨毯の上を歩く足音だけが、時折反響する。案内された部屋の扉の前でメイドが立ち止まり、軽くノックしてから開ける。
「失礼します。お客様をお連れしました」
「入ってもらってくれ」
重厚な書棚に囲まれた部屋の中央、四条弦水がゆったりと椅子に腰掛けていた。彼の姿を見ると、不思議と胸の内が落ち着いた。
「ここへ来たということは、なにかあったかね?」
真っ直ぐな眼差しに、私はうなずいた。
「……はい。姉が行方不明になりました」
「かなこが、居なくなったか……」
弦水さんは一呼吸置き、少し視線を落とす。そして口元に手をやりながら、静かに問いかけた。
「かなこから両親の話は?」
「いいえ、何も聞かされていません」
「そうか……」
深く、重たい溜息が部屋の空気を揺らす。その沈黙が、姉の失踪の重大さを語っているようだった。
「来月の半ば頃、こちらにもう一度来れるかい?」
「はい。日付を指定していただければ、必ず参ります」
「分かった。またこちらから連絡しよう」
私は思い切って、もうひとつのお願いを口にした。
「それと……姉が行方不明になったことで、今の家にはもう住めません。新しく住む場所を探しているのですが……できれば、ここに住まわせていただけないでしょうか?」
沈黙。弦水さんは椅子にもたれ、考え込むように目を閉じた。
「なら、家に住めば――と言いたいところだが……あいにく今は多忙な時期でね。人の出入りも多い。少し時間をもらえるかな? 信頼できる知り合いに当たってみるよ」
「迷惑をかけてしまって……すみません。本当に、ありがとうございます」
「気にするな。困ったときはお互い様さ」
彼のその言葉に、私はようやく肩の力を抜くことができた。
屋敷を後にし、再び門をくぐる頃、少しだけ空の色が変わっていた。遠くに雲が流れ、蝉の声がどこか心細く聞こえる。
「次の住むところは、どこになるんだろう……」
心配と不安を胸に抱えながらも、それでも一歩ずつ歩を進め、私は帰路についた。




