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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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もう戻れない

「では、これから自己紹介をしてもらいます」


教壇の前で、担任の四葉先生がクラス全体を見渡しながら言った。

その声に、まだどこか緊張の残る教室内が少しざわついた。


「出席番号1番、阿部さんからお願いします」


「はいっ。阿部愛璃です。よろしくお願いします。趣味は――推し活ですっ!」


ちょっと恥ずかしそうに、でも堂々とした声。

クラスの中に小さな笑いと拍手が生まれる。


「阿部さん、ありがとう! 次の人!」


「井越悠。趣味は釣りです」


「坂井千春。食べることが好きです」


「芝本夏海。趣味はキャンプです」


「堂本零時。趣味は……バイクだ」


「先生に乗るのはまだ早いわよ」と四葉先生が軽くツッコミを入れた。


「まだ免許持ってません。見てるだけっす」


返された言葉に、教室がまた少し笑いに包まれる。


自己紹介が進んでいく中で、私は手のひらにじんわり汗をかいていた。

まだ名前を呼ばれていない。けれど、この雰囲気……悪くない。

少しだけ、緊張がほぐれてきた――そんな時だった。


「じゃあ、次で最後ね。えっと、星宮――」


教室のドアが突然開いた。


「すみません! 遅れました!」


ドアの向こうに立っていたのは、銀色のピアスが揺れる長身の男子生徒だった。落ち着いた眼差しと整った顔立ち。だが、第一印象は「自由すぎる男」という感じだった。


「初日から遅刻か、九条」


「すみません!」


「ついでに自己紹介して」


「九条凛。甘いものが好きです。よろしく」


そのまま続けて、別の生徒が立ち上がった。


「四宮天。よろしくお願いします」


落ち着いた声。長い黒髪が肩にかかっている。どこか、只者じゃない雰囲気を纏っていた。


「……じゃあ最後に、星宮」


とうとう私の番が来た。


「星宮叶といいます。よろしくお願いします」


静かにそう言うと、四葉先生が補足するように言った。


「星宮、なにか趣味とかないか? 四宮もそうだけど」


私が口を開こうとした瞬間、先に言葉が飛んできた。


「私の趣味は身体を動かすことだよ」


振り向くと、四宮天が微笑みながら手を挙げていた。

彼女の声が教室に響くと、私は小さく息を吸い込んだ。


「私は……これといって特にありませんが、アニメを見ることが好きです」


そう答えながら、私は彼女――四宮天の顔を見た。

目が合った瞬間、なぜか胸がざわついた。そして、すぐに視線を逸らした。


(……四宮。四条と、関係あるのかしら)


自己紹介が終わり、先生が声を上げた。


「これで自己紹介は終わりですね! それでは、次は校内見学に行きましょう!」


指示に従って、私たちは列を作り、教室を出て職員室へと向かった。


その途中――


「ねぇ、星宮ちゃん」


背後から話しかけられた。振り向くと、そこには四宮天がいた。


「何かな? 四宮さん」


「もう、天でいいよ」


「……天さん。私に何か用ですか?」


「後で話があるの」


それだけを、小さな声で伝えてきた。


「……わかった」


放課後。校内見学も終え、教科書の配布も終わり、ほとんどの生徒が帰宅するなか――

私は屋上へと向かっていた。


ドアを開けると、夕日を背にして彼女が立っていた。


「待ってたよ、叶ちゃん」


「天さん。すみませんがこの後、用事があるので早めにお願いします」


「叶ちゃんたら……もう、すっかり女の子だね!」


「……何を言ってるんですか。私は生まれてから女の子ですよ」


そう答えたけれど、それは嘘だった。

誰にでも言えるような話じゃない。ましてや、クラスメイトには。


「もう、嘘ついちゃってぇ……星宮叶太さん?」


心臓が跳ねた。背筋が冷たくなる。


「……なんのことだよ」


どうして……バレてる? 入学早々、クラスメイトに?


「勘違いしないでください。私はただ――伝えることがあるだけです」


天はそのまま続けた。


「あなた、薬を2回服用しましたね?」


「……ああ。で、それがどうした」


「結論から言います。――あなたは、もう男に戻ることはできません」


「……なんだって?」


耳を疑った。だが彼女は静かにうなずいた。


「最初に服用した薬と、2回目の薬は成分が違います。最初の薬は一時的に変化するもの。でも、2回目に服用した薬は……身体を完全に変えてしまうものです」


「……でも、風邪みたいな症状が出たぞ」


「副作用です。本来なら、その症状に気づいた段階で解毒薬を投与しなければならなかった」


「じゃあ……姉さんが、投与しなかったってことか……」


「お姉さんは、何か事情があったのかもしれませんね」


私は、しばらく黙っていた。心に押し寄せる衝撃が、うまく言葉にできなかった。


「……ありがとう、天さん。少なくとも、自分の身体がどうなってるかは理解できたよ」


「気にしないで。伝えるのが私の役目だっただけだから」


「それじゃ、また」


私は天に背を向け、屋上を後にした。


そして、向かうのは――四条家。


新しい現実と、新しい自分を受け入れるために。

私は、静かに歩き出した。

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