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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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19/70

はじめましての距離

「おはよう」


教室に入ると、まだ見慣れない顔ぶれがポツポツと席に着いていて、そのうちの何人かが――まるで照れ隠しをするように――小さな声で挨拶を交わしていた。


もちろん、みんなが元気に「おはよう!」と声を張っているわけじゃない。恥ずかしがっている子もいれば、声が小さくて聞こえない子もいるし、「なんて話しかければいいのかわからない」っていう顔をしてる子もいた。

……その点は、私も同じだ。


みうと同じクラスになれなかった今年は、登校中に話す相手もいない。クラスに入って、誰にどう話しかけていいのかもわからず、私は自分の席に黙って腰を下ろした。


心細さを隠すようにバッグから筆箱を出していると、教室のドアが音を立てて開いた。


「席についてー!」


明るい声とともに入ってきたのは、私たちの担任――四葉先生だった。

少し茶髪で、笑いジワが印象的な女性の先生。きっと、まだ若い。


「はーい」と返事する子もいたけど、全体としてはまばらだった。


「今日は先生が号令をかけますが、月曜日からは日直さんにお願いしますね。……あの、返事をちゃんとしましょう」


静まり返った教室に先生の声がすっと通る。思わず私も背筋を伸ばした。


「はい!」という声があちこちから響き、教室が少しだけ明るくなった。


先生は黒板の前に立ち、生徒一人ひとりの顔をゆっくりと見渡してから、言葉を続けた。


「まだ慣れていないのは分かります。でも、挨拶はとても大切です。……話したいけど、なんて声をかけたらいいのかわからない。そう思っている人、この中にもいるんじゃないかな?」


ドキッとした。図星を突かれたように、私は胸が軽く痛んだ。


「でもね――あなたがそう思っているってことは、相手もきっと、同じように思ってるはずです。だから、最初はちょっと恥ずかしいけれど……勇気を出して、声をかけてみてください。挨拶からでいいんです。『おはよう』、それだけで、世界は少し変わると思いますよ」


先生の言葉が、じんわりと心に染みた。

私は、手帳に書いた「友達をつくる」という目標を、ふと思い出していた。


「……なんだか、長くなっちゃいましたね。じゃあ、15分休憩を挟んでから自己紹介を始めましょう」


「はーい!」


今度の返事は、教室にしっかりと響いた。


その時――


「ねぇ! あなた、名前なんて言うの?」


隣の席の子が、くるりとこちらに体を向けて話しかけてきた。


「あ、えっと……星宮叶よ。あなたは?」


「神宮寺真紀! よろしくね!」


真紀ちゃんは、ハツラツとした笑顔がまぶしい女の子だった。ショートカットの髪が跳ねるように揺れている。


「こちらこそ、よろしく」


みうとはクラスが離れてしまったけれど、こうして話しかけてくれる子がいるだけで、すごく安心する。


「先生の話、長かったよねー」


「そうね。でも……私は、良いこと言ってたと思うわよ」


「そうかなぁ?」


真紀ちゃんは首をかしげながらも、どこか楽しそうだった。


「先生、ああ見えて、人間関係で苦労してるのかもしれないわね」


「教師なのに?」


「教師も、人間よ」


「なんか叶ちゃん、すごいね。考え方が大人っぽい」


「そんなことないわよ」


そう話していると、チャイムが鳴り、再び先生が教室に戻ってきた。


「それでは、自己紹介を始めましょうか」


いよいよこのクラスでの最初の関門だ。

高校生活がどんなものになるのか――どんな友達ができるのか――この自己紹介で、ある程度決まってしまうような気がして、私はごくりと息を飲んだ。


(……失敗すれば、陰キャ確定かも)


内心でそう呟きながら、私は自分の番が来るのを待った。胸が、少しだけ早く鳴っていた。

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