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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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18/70

姉の影

入学式が終わり、新しい制服にまだ慣れないまま私は家に帰ってきた。

春の陽射しが窓を照らしているけれど、心はどこか落ち着かない。


「姉さん、まだ帰ってないんだ……」


いつもなら先に帰ってきて、ソファでうたた寝しているはずの姉がいない。

気にしすぎかもしれないと思いつつも、どこか胸の奥がざわついていた。


そんな時、玄関のチャイムが鳴った。

時計を見ると午後七時を過ぎていた。こんな時間に誰だろう?


私は少し緊張しながらインターホンを取る。


「はい……どちら様ですか?」


「こんばんは。会津道明と申します。少しお話をしたくて……」


ドアを開けると、30代くらいのスーツ姿の男性が立っていた。

穏やかな声のトーンとは裏腹に、どこか張り詰めた空気をまとっている。


「姉のことで……何か?」


「えぇ。お姉さん、かなこさんに関することです」


「……その前に、会津さんがどういう方なのか教えてもらえますか?」


彼は軽く頷いた。


「私は、ある研究ラボに出資している者です。かなこさんが所属しているラボですね」


「ラボ……そうだったんですか。私、あまり詳しく聞いていなかったので……」


彼はうなずきながら、重い口を開いた。


「実は、そのラボでとても重要な薬の被験者リストが紛失しまして……それに、お姉さんが関与している可能性があるのです」


「えっ……姉が?」


「疑っているというよりは、何か事情を知っているのではないかと。連絡も取れない状況が続いているため、家に戻っていないかと思いまして」


「……私も、さっき帰宅したばかりなので……」


私は答えながらも、脳裏に浮かぶ姉の最近の様子が胸を締めつけた。


――ここ最近、明らかに姉の表情は曇っていた。

夜遅くまで帰ってこない日が増えたし、何か言いかけてやめるようなことも多かった。


「やっぱり……何か悩んでいたのかもしれません」


そう呟いたとき、私のスマートフォンが震えた。


「……姉さん?」


表示された名前に、私は思わず息を呑んだ。


「もしもし!? 姉さん、どこにいるの!?」


『叶ちゃん……ごめんね』


電話越しに聞こえる姉の声は、どこか遠く、そして震えていた。


「謝らないで、何があったの!? 今どこにいるの?!」


『それは言えないの。本当に、ごめんなさい』


「どうして……説明してよ!」


『叶とは、もう……一緒にはいられないの。さよなら、叶。バイバイ』


――ツー、ツー、ツー。


「……切れた……」


私の手の中でスマホの画面が消えた。


「……すみません、会津さん……」


「いいえ。……それでも、生きていれば、きっとまた会えますよ」


「……はい。信じます。姉が生きてくれていること。きっと、会えるって」


私は拳を握った。まだ何もわからないけど、あの声は確かに生きていた。


「それでは、私はこれで失礼します。カナさん」


「遅くまですみませんでした……被験者リスト、見つかるといいですね」


「きっと、大丈夫です」


彼が去ったあと、家の中に再び静寂が戻った。


そして私は……その静寂の中で崩れ落ちた。


「姉さん……いないと、やっぱり寂しいよ……」


涙が止まらなかった。玄関の冷たい床に座り込んで、ひとしきり泣いた。


――ひとりは、やっぱり辛い。


その夜、私は思った。


「弦水さんに頼んで、四条家で暮らせないか聞いてみよう」


気持ちが少し落ち着いたあと、明日の予定を考えながら布団に潜った。


「……そういえば、宿題してなかった。明日、みうに見せてもらお……」


そう呟いたあと、私はようやく眠りについた。

次の日も、きっと慌ただしく始まる。でも、姉を信じて、私は歩き続ける。

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