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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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春の邸宅と秘密の告白

「はじめましてと言った方がいいかの」


重々しい空気の中、老人の声が響いた。座っていたのは、杖を片手にした白髪の男性。年老いてはいるが、その目は曇りなく鋭く、静かな迫力を持っていた。


「はじめまして。星宮叶と申します」


私は自然と姿勢を正していた。こんなにも真っすぐ人の目を見るのは、いつぶりだっただろう。


「……わしは四条弦水じゃ」


その名に、私は少しだけ身を強張らせる。政財界にその名を轟かせる名家、四条家。まさかその主が、私を名指しで呼ぶなんて。


「ご隠居様……私は、なぜここに?」


「それはのう。お主が高校に入る前に、話しておかなければならんことがあるからじゃ」


「話しておかないといけないこと……ですか?」


私の中で、どこかで聞いたことのあるような、だけどまったく知らないことのような――妙なざわめきが広がった。


「そうじゃ。お主の中学には“みう”という者がおったな?」


「はい。今でも親友です」


「ふむ。では、お主――みうの考えていることが、時々わかることはないか?」


「……あります。時々ですが、なんとなく、ですけど」


弦水はその言葉を聞くと、深く、長くうなずいた。


「……決まりじゃな」


「え?」


私の眉が自然と寄る。


「あの、ご隠居様――どういう意味ですか?」


「わしのことは弦水でいい。もう形式ばったのはやめようや」


「……はい。では、弦水様。先ほどの“決まり”というのは?」


老人はゆっくりと息を吐いた。そして口を開いたその瞬間――。


「叶よ。お主とみうは、“双環そうかん”の契約者同士じゃ」


「……え?」


思わず言葉を失った。


“契約者”? “双環”? それはまるで物語の中のような言葉だった。


「あの、その前に一つ――」


「なんじゃ?」


「なぜ、弦水様はみうのことをご存知なんですか?」


「ああ、それか。みうの家とは、仕事上のつながりがあってな。わしも小さい頃から知っておる」


「……それで、みうは私と“そのような関係”だと知っているのでしょうか?」


「知らんじゃろうな。知っていたら、もうお主に言っておるはずじゃ」


「……言わなくていいんですか?」


「よい。じゃが、叶よ――みうはお主のことが、好きなのではないかの?」


「……分かりません」


それが正直な気持ちだった。


私が“男”であることを知らず、それでも笑ってくれる彼女が、本当は何を思っているのか。私は、彼女の表情を思い出すたびに、答えのない問いに苦しんでいた。


「……そうか」


弦水はそれ以上詮索せず、穏やかに目を伏せた。


「話は変わるが、叶よ。かなこ――お主の姉じゃな。家族のことで、何か聞いておるか?」


「いえ。父も母も仕事で海外にいるということしか……」


「そうか……」


老人は目を閉じた。しばらく静寂が流れたあと――彼はそっと、目を開いた。


「叶よ。もし次にこの屋敷に来ることがあれば、話したいことがある。お主の家族についてじゃ」


「……分かりました」


自分でも驚くほど、冷静に返事をしていた。

だが、心の奥では小さく雷が鳴っていた。


私の“家族”――。

そこに、まだ知らない真実があるのだろうか。



***


邸宅を出て、私はもうひとつの約束を果たすため、みうの家へ向かう。


彼女に会えば、きっと笑顔で迎えてくれるだろう。

だけど、その笑顔の裏にある気持ちを、私はこれまでよりもずっと近くで感じてしまう気がして、胸が少しだけ痛んだ。


春の風が、そっと頬をなでた。


あの日常の向こうに、知らなかった真実と感情が、少しずつ動き出しているのを感じていた。


──つづく。

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