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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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14/70

秘密の扉と、大富豪の邸宅

春休みのある午後。


みうと遊んでから、少し時間が経った頃だった。心の中で、ずっと引っかかっていた小さな棘に、私はついに触れてしまった。


「姉さん……」


「どうしたの?」


食器を片付けていた姉が、手を止めてこちらを見る。


「私が……男だってこと。やっぱり、周りには話さない方がいいんだよね?」


姉はしばらく黙っていたが、やがて、静かにうなずいた。


「そうだね。だけど……もし叶が、心から信じられる友達ができたのなら、その時は、自分の判断で話してもいいと思うよ」


「本当……?」


「本当。嘘をついたまま関係を続けるほうが、きっと苦しいでしょ?」


「……うん」


その言葉に、胸の奥に溜まっていたモヤモヤが少しだけ晴れた気がした。

――私は、みうに何も話していない。それがずっと、心に引っかかっていた。


「そういえばさ、みうの母親がこの前、私のこと『お婿さんにしたい』って言ってたんだよ?」


その瞬間、姉の表情が一瞬だけピクリと動いた。私は見逃さなかった。


「え? 何か気になる?」


姉は口元を少し引き結び、目を細めた。


「……ちょっと気になるね」


「どうして?」


「薬の被験者の情報は、ラボの研究チームと、関係する出資者のごく一部しか知らないはずなの。みうの家の背景、調べた方がいいかもしれない」


「……え?」


姉の声が、どこか張りつめたものになっていた。私は戸惑いながらも頷いた。


「……とりあえず、今日みうの家に行ってみて」


「うん、分かった」


姉は静かにうなずき、そのまま自室へと戻っていった。私はスマホを手に取り、みうにメッセージを送る。


『今日、そっちの家に行ってもいい?』


すぐに返信が届いた。


『OK! いつでも来て!』


「よし……」


「姉さん、行ってくるね!」

一言声をかけて、私は玄関を出た。


──だが、歩きながら、あることに気づく。


「……そういえば、みうの家の場所、ちゃんと聞いてなかった」


慌てて電話をかけるが、なかなか出ない。諦めかけたその時――


「失礼。星宮叶様でいらっしゃいますか?」


見知らぬ声が背後から聞こえた。振り返ると、30代くらいのスーツ姿の男性が立っていた。


「そうですが……あなたは?」


「私は四条家の者です。ある方の依頼で、あなたをお迎えに参りました」


「四条家……って、あの大富豪の?」


「はい。ご隠居様が、星宮様に会いたいと申しておりまして」


「え? 私に……?」


戸惑いを隠せずにいる私に、男はさらに続ける。


「なんでも、『恩がある』と……」


「恩……?」


記憶にそんな人物はいない。だが、姉の言葉がよぎる。


(投資家……出資者……まさか、関係者?)


「……案内、お願いできますか?」


「ありがとうございます。では、お車へ」


黒塗りの高級車に乗り込み、しばらく街中を走ると、やがて広大な敷地に囲まれた大邸宅が現れた。私の想像をはるかに超える規模だった。


「こちらです。どうぞ」


車を降り、玄関の扉が重々しく開く。中にいた執事のような男性が、すぐに私を出迎えた。


「お待ちしておりました。ご隠居様が寝室でお待ちです。ご案内いたします」


館内は、まるで美術館のように静かで荘厳だった。絵画、彫刻、調度品――そのどれもが桁違いの価値を感じさせた。


そして、一室の扉の前で足を止めた執事が、ノックをする。


「失礼します。お客様をお連れしました」


「……入りなさい」


かすれた、しかし威厳ある声が返ってくる。


扉が開き、私はゆっくりと中へ足を踏み入れた。


そこには、杖を片手に椅子に腰かけた老人がひとり――。


年の頃は八十を超えているだろうか。背は丸く、顔には深い皺が刻まれているが、その目は鋭く、ただ者ではない風格があった。


「星宮叶くん……よく来てくれたね」


「は、はい……」


私の鼓動が、高鳴る。


この人は誰?

私に、恩があると言ったこの老人は――何を知っているの?


そしてこの出会いが、私の運命を大きく動かすきっかけになることを、このときの私はまだ知らなかった。


──つづく。

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