春休みの約束
「かな、今日は何か予定あるの?」
春らしい陽気が窓から差し込むダイニング。パンを口に運びながら、姉が私に尋ねてきた。
「みう達と遊ぶ約束してるよ」
「遊ぶのもいいけど、勉強もしっかりしなさいよ」
「分かってるってば」
「高校から春休みの課題、出てるのよね?」
「出てるわ。でも漢字と数学のドリルだけだから、そんなに量があるわけじゃないよ」
「ならいいんだけどね」
そう話していたところで、インターホンの音が鳴った。
「みうね! 行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
玄関のドアを開けると、笑顔のみうが立っていた。
「久しぶり!」
「卒業式からまだ一日しか経ってないよ?」
「そうね」
「春休みの課題やった?」
「もう、姉さんみたいなこと言わないでよ!」
そんなやりとりをしながら、私たちは最寄りのバス停へ向かった。
「それより、バスに乗ろう!」
「うん!」
──どうしてみうが私の家を知っているか。それは、卒業式の前日の出来事にさかのぼる。
***
『みう、明日の卒業式、一緒に登校しない?』
『いいけど、どこで待ち合わせする?』
『叶の家で待ち合わせしたい』
『え、私の家で? それって待ち合わせっていうの?』
『卒業式なんだから遊びに行くわけじゃないよ!』
『……』
みうは少し言葉を止めた後、真っすぐ私の目を見て言った。
『私はね、叶のこと親友だと思ってるの。だから、家くらい知っておきたいなって』
『親友……』
『嫌だった?』
『そんなことないよ。すごく嬉しい』
『よかった!』
『私もみうのこと親友だと思ってたから』
『じゃあ、これから家、行ってもいい?』
『もちろん! 両親いないし、姉さんと二人暮らしだから』
『えっ、両親は?』
『海外赴任中なんだ』
『へぇ……すごい』
そうして姉に連絡すると、すぐに「夕飯食べたら?」という返信が来た。
『みう!良かったら夕飯、食べていかない?』
『えっ、さすがにそれは……』
『姉さんが言ってるんだし、大丈夫だよ』
『じゃあ、お言葉に甘えて……』
***
「お邪魔します」
「君が、叶と仲良くしてくれてるみうちゃんね」
「姉さん!?」
「弟と仲良くして……あ、ごめん、妹だった」
「いえ、私の方こそ叶さんにはいつもお世話になってます」
「今日は焼肉よ、良かったら食べていって!」
「わぁ、焼肉大好きです!」
焼肉の香ばしい匂いに包まれながら、私たちは学校の話や将来の夢など、たわいもない話で盛り上がった。あの時間は、まるで家族みたいで……ちょっとだけ心が温かくなった。
***
「叶、着いたよ?」
「ごめん……今、みうと夕飯食べた時のこと思い出してた」
「楽しかったよね」
「うん!」
「昨日、ラウンドワンで遊ぼうって言ったじゃん」
「そうだった!」
私たちはカラオケに卓球、バスケットのシューティングゲームに挑戦しながら、夕方まで思いきり遊び倒した。
「もう、こんな時間……」
「遊びすぎたね」
「でも楽しかった」
「バス、まだあるかな」
「少し歩かないとバス停ないのよね」
「姉さんに迎えに来てもらうね」
「いや、ママが迎えに来てくれるって」
「よかったね」
「叶のことも送っていくって!」
「え、いいの? 申し訳ないよ」
「この前、夕飯ご馳走になったしね。おあいこ!」
「ありがとう、みう」
しばらくすると、みうの母が車で迎えに来てくれた。
「あなたが叶ちゃんね」
「はい、星宮叶です! いつも娘さんにはお世話になってます!」
「礼儀正しくていい子ね! お婿さんに来てほしいくらいだわ」
「ママ!叶は女の子だよ!」
「あら、そうだったかしら。でもね、同性愛もそれはそれで素敵だと思うのよ」
「母さんったら……」
「ごめんね、叶。いつもはこんなんじゃないんだけど……」
「ううん、大丈夫だよ」
「今度は、ぜひうちにも遊びに来てね」
「はい! 時間ができたら、ぜひ!」
「いつでも待ってるわ」
その会話が終わる頃には、もう私の家の前に到着していた。
「またね、叶!」
「うん! またね、みう!」
みうたちの車が走り去っていくのを見送りながら、ふと首をかしげた。
「あれ……なんで、みうの親は私の家を知ってたんだろ?」
でも、まあ――今はいいか。そんなことを思いながら玄関の扉を開けた。
「姉さん、ただいま!」
「おかえり。遅かったね」
「うん、遊びすぎちゃった」
「たまにはそういう日も必要でしょ」
私はその後、お風呂に入り、簡単な夕食を済ませて、ベッドにもぐりこんだ。
今日は、なんだかすごくいい日だった。
そして、春休みはまだまだ続く――。




