桜の向こう、また会える日まで
「おはよう、叶」
まだ春の匂いが残る朝。カーテン越しに差し込む陽射しが、叶の頬をやわらかく照らしていた。
季節は巡り、卒業の時期がやってきた。中学校での三年間が、今日で終わる。
けれど――。
「……やっぱり、無理だったか」
両親は、今日の卒業式に来られない。急な仕事が入ったという連絡を受けたのは、昨晩のことだった。
電話の向こうで母が何度も「ごめんね」と繰り返していたのを、叶は笑って受け入れた。けれど電話を切ったあと、部屋の布団の中で小さく涙をこぼしていたのは、誰にも言っていない。
「叶、早く準備しなさい!」
階下から聞こえる姉の声。気を取り直して、大きな返事を返した。
「はーい!」
下へ降りると、姉が制服姿の叶を見て、にっこりと微笑んだ。
「卒業、おめでとう」
「ありがとう」
「来年は、父さんと母さんと会いたいわね」
「……うん、楽しみに、頑張るよ」
玄関で靴を履きながら、ふと後ろを振り返った。
「じゃあ、行ってきます!」
姉が笑って手を振る。
扉の向こう、春の空気に包まれて、叶は歩き出した。
「この道を通るのも、最後なんだよな……」
毎日歩いてきた通学路。いつもの電信柱、あの角の自動販売機、校門の前の桜の木。すべてが見慣れているはずなのに、今日はどこか違って見える。
懐かしさと寂しさが胸にあふれ、それを吹き飛ばすように深く息を吸い込んだ。
(よし、4月から頑張ろう)
校舎に着くと、教室には仲間たちが集まっていた。
「おはよー、叶!」
「おっ、来た来た!」
「卒業式、泣くなよー?」
笑い声が響く教室。ここで笑って、泣いて、ぶつかって、仲直りして……たくさんの時間を共有してきた。けれど、このクラス全員が揃うのは、きっと今日が最後だ。
教室に担任の先生が入ってきて、大きな声で告げる。
「お前ら! 席につけ!」
自然と背筋が伸びる。これが、最後のホームルーム。
卒業式の説明がされ、時間が過ぎていく。
そして――。
「卒業証書、授与」
名前を呼ばれ、壇上に立つ。見慣れた体育館の景色が、今日は特別な色をしていた。
一人ひとりに手渡される証書。拍手。送辞と答辞。涙。笑顔。鳴り止まない思い出たち。
式が終わると、先生が言った。
「明日から春休みだ!」
「イエーイ!」
「羽目外さないようにな!」
「はーい!」
笑いと歓声に包まれて、あたたかい空気が流れていく。
こうして――。
私の中学校生活は、幕を下ろした。
明日から、春休み。
そして、また新しい道が、私を待っている。
中学生編終わりました!読んでくれた皆様ありがとうございますございます。春休みの話を書いてから高校生編に進むことになります。
これからもこの作品をどうぞよろしくお願い致します。




