僕が“私”になった朝
朝起きたら女の子になっていた主人公の星宮叶汰。
彼の身体はどうなってしまったのか。無事もとに戻ることが出来るのか。そして佳奈子が叶汰を女にした本当の目的はなんなのか。
「う〜ん、眠いなぁ……」
まどろみの中、体を起こすと、ぼく——星宮叶汰は、いつも通りの朝を迎えた……はずだった。
場所は神奈川県横浜市、普通の住宅街に建つ家の一室。今日も眠気と戦いながら、ダルそうに髪をかき上げたその時だった。
「やぁ、おはよう、カナタ!」
「……姉さん?」
突然、部屋のドアを勢いよく開けて入ってきたのは、ぼくの姉・佳奈子だった。
「いきなり入ってこないでよ!」
「あら、ごめんごめん。でもさ、もしかして鏡、まだ見てないんじゃない?」
「え……? うん、見てないけど……なんで?」
「ムフフ……いいから、見てごらん?」
姉さんの意味深な笑みに若干の不安を覚えつつ、ベッドから立ち上がり、部屋の姿見へと歩み寄る。そして——。
「……えっ……なにこれ!? え、うそ……!」
ぼくは、鏡の中に映る“女の子”を見た。
——肩まである艶やかな髪、丸く整った顎、スラリとした首筋。どこからどう見ても、そこにいたのは“ぼく”じゃなかった。
「ど、どういうこと!? なんで女の子になってるの!? 姉さん!!」
「そんなに大きな声を出すんじゃない。落ち着きなさい」
「ご、ごめんなさい……」
混乱しながらも深呼吸し、気を落ち着ける。けれど、鏡に映る姿が戻ることはなかった。
「姉さん、説明してよ……どうして、ぼくは女の子になってるの?」
「うむ、気になるか?」
「当たり前だよ!!」
すると姉さんは得意げに胸を張って言った。
「それはな、私が愛してやまない最愛の弟・カナタを、私の研究の実験体に選んだからなのじゃ!」
「……実験体?」
「そう! 私の所属するラボでは、それぞれが自由にテーマを持って研究していてな。私はずっと考えていたのじゃ。“男が女になったら、どんな生活を送るのか”ってな。そこでふと思いついたのだ。最も観察しやすく、かつ変化に対する反応が楽しそうな存在……それがお前だったのじゃ!」
「……つまり……ぼくは、これから女の子として生きるってこと?」
「そうじゃ! ちなみに今日から名前も“カナ”に改めてもらう!」
「ちょっと待って、姉さんボケた? ぼくの名前はカナタだってば!」
「それが今日からは“カナ”じゃ。決定事項なのだ!」
「いきなりそんなの、無理だよ……」
「大丈夫、大丈夫! すぐ慣れるのだ!」
「そんな適当な……じゃあ、学校はどうすればいいの?」
「ふふふ……安心せい。既に手は打っておいた。来月から、女子として新しい学校に転入してもらうからな!」
「えっ……まじで?」
「制服も用意済み、転入手続きも完了済み。ついでに保険証の性別表記も切り替えておいたぞ!」
「どんだけ準備いいの!?」
「可愛い妹との新生活が始まると思えば、ワクワクが止まらぬじゃろ?」
「止まらないのは姉さんの暴走だよ……」
——こうして、ぼくの——いや、わたし“星宮カナ”の、波乱と困惑とちょっとドキドキが入り混じった、新しい日常が幕を開けたのだった。
半年ぶりに時間が出来たので書いてみました。面白く、そして楽しく読んでもらえたら嬉しいです。これからも書き続けたいと思いますのでどうかよろしくお願いいたします。