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  作者: 遊豆兎
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第4話 帰り道は?

 滝の裏にあったワープゲートに入り、過去に戦ったことのあるゴブリン上位種によく似た敵と戦うことになった。

 武器である棍棒を燃やされ、顎を砕かれて戦意を無くした敵は壁に背を当ててピクリとも動かない。

 それなら、と留めを刺すことなく俺は出口らしきドアを開くことにした。


「オープン、ザ、ドァー!」


 勝手に開いていくドアにそう声を掛ける。

 開ききったドアの向こうにも明かりは無い。ライトの魔法で光の球を宙に浮かべると、向こう側には石組の階段が上に続いていた。


「ここは地下室か?」


 部屋を出ると背後からギギギーと音がするので振り返ってみると、観音開きのアンティーク調のドアがゆっくり閉じている。

 古めかしくも豪奢なドアに対して無駄にハイテクな仕掛けに苦笑する。


 戦いの疲れは残っているが、こんな体験は初めてなので警戒心に対して好奇心が俺の中で勝利をあげると、息だけ整えて目の前の狭い階段を登っていく。

 突き当たりまで進むとそこは正方形の踊り場で、正面の壁は左右の壁と同じ石組みの壁になっている。

 つまりは行き止まりとなっている訳だ。


 だが恐らくこれは、あの滝の裏の岩と同じ原理に違いない。そう推測し、壁に手を当てると案の定だ。 

 ポッカリ黒い穴みたいに壁が姿を変えたので、ヨシヨシと思いながらその穴に足を突っ込む。


 スポッ!とかヒュンッ!て感じで黒い穴を通ると、その先に広がる光景に驚きの声を上げる。


「嘘~ん、ここ、廃墟だよっ!

 ここじゃ買い物なんて出来ないぞ」


 ワープゲートがあるのは恐らく礼拝堂で、礼拝堂があるのは村だったのだろう。

 石と木を組み合わせて出来た建物は、木の部分が大半は焼け落ち、石の部分は所々が何かで叩き壊されたみたいに崩れている。


 焼けた臭いなどは無いので、村が燃やされてからだいぶ時間が経っているはず。

 少し歩くと、もとは畑だったであろう場所には雑草が伸び放題で、井戸は涸れている。どう見てもここには人の住んでいる気配は皆無だ。

 これがゲームなら井戸の中に入れたり、壊れた民家に残る壷を割って薬草やメダルが出てくるんだけど。


 でもここはリアルな世界だから、そんな馬鹿なことは無い。

 手掛かり的な物を探してみても、死体の一つも無いし、金目の物も無い。


 近くに移住したのかも知れないなと考え直し、村の出口を探して歩くと朽ちかけた木の柵と壊された門の残骸が散らばっている場所に辿り着いた。

 何かが強引に門をこじ開け、村の建物を破壊して回ったってことか。


 足跡も車輪の後も消えてしまったのか、乾いた道路からは犯人の手掛かりを見付けることは出来なかった。


 その門の向こうには左右にポプラか何かの並木が続いている。

 とりあえず道を進んで行けば、多分人に会えるはず。

 しかし、ここで一つ大きな問題に気が付いた。


「今は朝っ!時差どうにかしてよ!

 ラ○ルータ!」


 当然昼夜逆転など起きる訳もなく。

 まだ十二歳の俺は眠気に勝てず、木陰に入って眠ってしまった…。



 ペチペチ…ペチペチペチ…


 頬に何かの刺激を感じ、目を覚ます。


「無事か?」


 俺の顔を覗き込んでいるのは、ちょっと勝ち気そうだけど美人のお姉さんだ。


「おはようございます」

と挨拶をして、腕を伸ばして大きなアクビをする。


「エラニア、そんな怪しい子供は放っておこうぜ」


 どうやら隣にもう一人、男性が居るようだ。カップルなら泣くぞ。


「バーウェイは冷たいよ。

 坊や、どうしてここに居るの?」

と優しく問い掛けてくるお姉さんにドキュん。

 だって母さん以外の女性に会ったのなんて十二年ぶりだし。


「わ…ゲートを出たら、廃墟だった。

 ここは何処?」


 ワープゲートなんて言わない方が良さそうだ。アレで転生者とバレたんだからな。


「ゲートって?

 流行りの妖精隠し…の…アレかな?」


 神隠しならぬ妖精隠しね。それ、流行ってんのか? ヤバくない? 流行りと言われるほど転生が多いのかな。


「坊やは何処から来たのか分かるの?」

とお姉さんが優しく聞いてくる。


「山奥に住んでた…夜にゲートを通ったのに、出て来たのは朝だったから眠たくて…」


 晩メシ食った後に朝日を浴びるってことは、半日の時差だろ。この星の真反対から飛んで来たってことになるよね?

 でもそれでよく母さん達が買い物に行けたよな。ひょっとして、この近くに二十四時間営業のお店があるのか?


「そうか…可哀想に。

 服もこの辺りの物じゃなさそうだし、遠い所から飛ばされたんだね」


 飛んで来たのは間違いないけど、帰ろうと思えばワープゲートで帰れるんだから、そんなに憐れむ必要は無いんだけど。


「しかし夜に出て朝…長い間彷徨ったんだ。

 良く頑張ったね!」


 頑張ったのはゴブリン戦だけですけどね。歩いたのはたった五分程だし。

 それともあのダンジョン?の中は、外の時間と違ってゆっくり進んでいたとか?

 それだったら、俺って歳を取らない怪しいヤツになってしまうよ。


 エラニアと呼ばれたお姉さんが少し泣きそうな顔で俺にハグし、背中をポンポンと叩く。

 嬉しいんだけど、彼女の着る革鎧のせいで柔らかい感触が楽しめないのが残念だ。


「こいつ! 今の顔がエロかったぞ!

 トンデモねぇマセガキだ!

 エラニア、すぐ離れろ!」

とバーウェイがばっと手を振り、アッチへ行けと廃墟の方向を指差した。


 見た目は子供でも精神年齢はアラサーなんでスマンな、お前の指摘は全然間違っちゃねえんだょ。


「子供相手に何を嫉妬してんだか。

 そんなんだから、お前はいつまで経ってもモテないぞ」

「嫉妬なんかじゃねえって!

 それにオマエだってモテてねえしっ!」


 二人はカップルではないのか?

 それなら家族?

 エラニアさんは二十歳前、バーウェイは十代半ばで俺の兄貴と同じぐらいに見える。


「お姉さんは? あのお兄さんのお姉さん?」

「そうだよ。弟と二人で冒険者やってるんだ。

 今日は採取依頼を請けて来てるんだよっ」


 ニコニコしながらそう答えるエラニアさん。

 それにしても冒険者か!

 父さんも昔は冒険者だったって言ってたし。

 あ…そう言や父さんも母さんも名前を知らないや。何処の国に居たのか国名も知らないし。

 これじゃ俺、完全に痛い子扱いじゃないかょ。


「妖精隠しに遭ったんなら、元の場所には…あ、ごめん」


 うそ? あのワープゲートって一方通行?

 元居た場所には戻れないのが普通なの?

 でも父さん達はそんなこと言って無かったし。


 …そう言えばだけど、町に行くって言ってた二人が俺を置いて行った? どうして?

 すぐに追い掛けて来ると思ってたのに、どうして来ないんだろ?

 まさか本来の行き先と違う場所に出て来たとか?


「けど…ガキ、オマエどうすんだよ?

 働かなきゃメシも食えねえぞ。

 畑でもやるか? 任せられるような畑は余ってねえと思うけどな」


 畑でも…?

 はい? まさかここ、畑で野菜作ってる?


「あの…僕が居たとこ、野菜は倒して収穫してたから…畑はちょっと」

「はぁっ!? 野菜を倒す?

 ドーピングのピンじゃねえぞ!」

「ドーピング? ピン? それ、ボーリングの間違いじゃ?」


 文字数と韻は合ってるけど意味が全然違うし!


「バーウェイは馬鹿だから、そっとしておいてやりな」

「馬鹿はそのガキっ!

 どこの世界に野菜を倒してゲットする奴が居るんだよ!」


 そう言われても、小っちゃい時から野菜も狩るがうちのスタンダードだったんだけど。

 おかしいな、常識が違ってる?

 確かに最初は俺もそれは変だと思ったよ。でも向こうでは普通に野菜として食べてた訳だし。


「魔物野菜か…嘘かホントかだけど、そう言うのが居るって書いてる旅行記があったような、無かったような…」

とエラニアさんが額に人差し指を当てて記憶を探っている。

 刃物野菜みたいに言わないで…あ、葉物野菜でした。


「あんなの嘘の作り話に決まってんだろ!

 なんつったっけ? ガールズバー旅行記?」

とバーウェイが怒鳴ると、

「やっぱりバーウェイはアホだょっ!

 それはガルバー旅行記だよ!

 旅先で女の子に接待してもらう旅行は多分してないからっ!」

とエラニアが額を押さえる。


 どうやらバーウェイがボケ役らしいが、リアルにこんなの相手にしてるエラニアさんのストレスは半端ないだろうね。

 でもそれを言うならガリバーだよ。転生者が伝えた物語にしては、なかなかファンタジーじゃないか。


「その旅行記はアッチに置いといて、本当に野菜の魔物が居たんだから!

 種をお日様に当てたら芽が出てくるんだ!」

「そんなの夢幻の如くなりだ! 人生たったの五十年だぞ」


 何か知らないけど、バーウェイが戦国武将のようなことを言う。

 でもホントに野菜は狩って手に入れてたんだよ、

信じてよー!


「そんなのが居たら農家が猟師にクラスチェンジだよ。あたしらの仕事も増えて有難いね」


 不貞腐れた顔のバーウェイに対し、少し可哀想な子を見る目をしながらエラニアさんが俺の頭を撫でる。


 どうしたら信じて貰えるの?

 あ、種があれば!

 ポケットをごそごそと探し…手に当たる硬くて丸い感触…あっ、あった!


「これなら信じてもらえる?

 出でよ! レンコンっ!」


 俺の親指より大きな黒い丸いボールをポケットから三つ取り出し、地面にコロコロっと放り投げて天を見上げて両手を翳す。


「なぁ…コイツ正気か? 精霊隠しの影響でアタマおかしくなってんじゃ?」


 おいおい、失礼な男だなぁ。確かに某漫画のをパクってるけど、こっちの世界にはそんなの無いし。


 おっと、レンコンの種は水を掛けておいた方が発芽が早かったんだ。


「『水掌(クリスタル)』アンド『散水(スプリンクル)』」


 超便利魔法、ジョウロのようにシャーと手から水を種に掛けてやると、それが効いたのか見る見るうちに種から芽が出て伸びていく。

 ちなみに魔物野菜で一番好きなのが、このレンコンだっただけだから!


「ウソっ! ドコに突っこめば良いの?」

「姉貴! 何でも良いからとにかく突っこめ!」


 慌てた時はエラニア呼びではなくなるらしい。姉と弟って本当みたいだね。

 と言うか、慌てることでもないのにね。


「君! 魔導師だったのね!

 それと信じてなくてゴメン!」

「つか! 動いてるやつ! キモっ!」


 みるみる内に身長三十センチ程に育ったレンコン達がオロオロ、ウロウロ。


「おかしいな。ホントならもっと大きくなるのに」


 向こうだったら、生まれたばかりのレンコンでも五十センチにはなるのだが。ここはレンコンの育成には適していない環境なのかな?

 これだと食べ頃に育つのに予定以上に時間が掛かりそうだな。


「そのレンコン…そもそもレンコンは動かないはずだけど…まぁレンコンと認めるとして、襲って来ないんだよな?」

「当たり前でしょ? だってレンコンだよ」


 言いたいことは分かるよ。

 でも、コレがこの世界の当たり前だと聞いて育ったから、どうして聞かれるのか分からない。


「どうしてって純粋な顔しないでっ!

 私の心が汚れてるみたいだから!

 でもねっ!

 普通のレンコンは泥水の中で育つのよ!

 そもそも野菜は魔物じゃないから!」

「そうなの?」


 驚愕の真実だよ…俺の今までの十二年間って一体何?


「野菜は倒して収穫する方がラクだよね?」

「それ、畑いらないだろ?」

「うん、うちは畑なくても野菜はたくさん採れてた」


 歩くレンコンに慣れたのか、バーウェイが普通に喋りかけてくる。

 それにしても、こうも常識が違ってると異世界から来た気分になるね。


「あの…レンコン?…は放っておいて大丈夫?」

「うん、食べ頃になるまで育つの待つだけ。空気中の魔力粒子を吸収して勝手に育つから」

「そう…それは良かった…」


 エラニアさんが疲れたような顔をしてるけど、大丈夫?


「でもキノコはホントにヤバイから、見付けたら逃げなきゃダメなんだって」

「ゴメン、もう私お腹いっぱい…バーウェイにパス」

「俺もこんな非常識なの、いらねぇよ!」

「煮たら美味しいのに」

「レンコンじゃなくて、オマエのことだよ!」


 なんて失敬な。

 それにしても困ったな。これじゃ俺が暮らしていくのは少し大変そう。

 仕方ない、一回家に戻ろうか。


「じゃ、俺帰るから」

「帰るって? どうやって?」

「ゲートがあるはず。お姉さん達はお仕事なんでしょ? 早く行かないと」

「そうだった! 姉貴、急がないと!」

「そうだけど…この子を置いて行けないわよ」

「平気平気! 一本道だったから迷子にならないし! じゃあね!」


 二人にはお仕事の都合もあるだろうから、ここは俺から去るべきだろう。

 それにお腹減ってきたから、とっとと家に帰って何か作って食べてから先のことを考えないと。


「う、うん…」


 心残りはあるけど…と言った感じのエラニアさんに手を振って、あの廃墟を目指して歩く。

 そんなに遠くまで来ていなかったらしく、廃墟はすぐに見つかった。


 礼拝堂らしき建物跡を探し、残っている奥の壁に手を当てると黒い空間が現れた。

 二度目だから特に考えることも無くゲートをくぐり抜け、階段を降りて行く。突き当たりにあるアンティーク調のドアに手を当てると、コレも同じく勝手に開いてくれる。


 中には寝る前に顎を砕いたゴブリンが居る…?

 あのゴブリンは居なかった。

 だが…違うゴブリンが魔法陣の中に立って、俺を値踏みするかのように見ているのだ。


「あのゴブリンとは違う…一つ上のクラスのゴブリンだっ!

 なんでだよっ?」


 まさかこのドアを一度通ると、あの魔法陣の中の魔物が次の奴に変わる仕組みなの?

 そうではないと願いつつ、

「コイツには勝てないからチェンジ!」

と叫ぶ。


 来るときはチェンジのコマンドで魔物が変わったので、帰りも同じだろうと期待して待つのだが。


「チェンジ! チェンジャー! チェンジェスト! 頼むから変わって!」


 だが目の前の硬そうな革鎧のゴブリンから、顎を砕いたゴブリンに変わる気配はまるでない。

 魔法陣からゴブリンが動かないのは、こちらが戦う意志を見せていないから?


「無理っ! 勇気と無謀、蛮勇と引力は違うって!

 戦略的撤退!」


 クルリと振り返り、開いたままのドアを通ると勝手にドアが閉まる。

 何となくゴブリンに舌打ちされた気がするけど、気のせいだろう。


 けど、これってまさか、ミノタウロスを倒さないとあの山には戻れないって仕掛けかよ?

 十二歳児にそんなの無理っ!

 そのワープゲートを使う条件を父さんが教えてくれなかったのって、こう言う仕様で俺がどの敵を倒せるかを試したってことか?

 確かにうちの父さん、そう言うの好きそうだ…。


 あと、顎のゴブリンっ! 留めを刺してなかったからアイテム落としてないんですけど!

 俺って絶対損してるよねっ!?

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