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秘密の地下の国で

そこで一番姫が、自分の寝台のわきへ行って寝台をたたくと、寝台がすうっと床に沈み、お姫様達は一番姫を先頭に、つぎつぎとこの開いた口から地下に降りて行ったのです。


これをすっかり見ていたアンデルさんは、あのマントをはおって、末っ子姫の後から一緒に降りて行きました。

末っ子姫は、アンデルさんがついて来てるかと、なんども後ろを見るので、遅れぎみでした。それでアンデルさんは、ちょっとドレスを引っ張りました。


「きゃっ」

末っ子姫は、ビックリして叫びました。


「シッ僕だよ、進んで」


アンデルさんの声にホッとした末っ子姫は、一番姫に


「どうかしたの?」と聞かれても、


「なんでもないの、ドレスが鉤に、引っかかったの」

とごまかしました。


下に降りると、そこはなんとも見事な並木道でした。

木の葉はどれもこれも銀でキラキラ輝いています。

アンデルさんは、

「証拠の品を持っていこう」

と考えて、ひと枝折りました。


すると木は、ポッキーンと、とてつもない音を立てました。


「何? 今の音」 

一番姫が、叫びました。


「あら、あれはお祝いの大砲の音よ。だって私達がもうすぐ王子様達を救ってさしあげるんですもの」


「そうかしら? だけど後三日通えば、呪いがとけて王子様達は自由になれるんですものね。そうしたら私達も一緒に、あのうるさいお父様から自由になれるのよ」

一番姫は、ニコニコしながらそう言いました。


「アンデルさん、もう音たてないで!」


末っ子姫がおびえきっていたので、アンデルさんは次の金の並木道も、ダイヤモンドの並木道も、もう枝を折るのはやめました。


それからもっと歩いて行くと、大きな川のほとりに出ました。

川には、小さな舟が十二艘浮かんでいて、きれいな王子が一人ずつ乗っていました。

十二人のお姫様を待ち受けていた王子達は、一人が一人ずつお姫様を乗せました。

アンデルさんは、末っ子姫の舟に乗りこみました。



その舟の王子が言いました。


「おかしいなあ、今日はいつもよりも舟がずんと重い。ありったけの力を出して漕がないと、ちっとも前へ進めやしない」


「それはね、今日はこんなにあたたかいせいよ。わたしも暑くてならないもの、ホラ、こんなに汗が出てる」

末っ子姫は、冷や汗をそう言ってごまかしました。


向こう岸には、あかあかと灯火のともった、りっぱな城がありました。

太鼓やらラッパやらの楽しげな音楽が聞こえてきます。

王子達とお姫様達は、川を漕ぎわたると城に入っていきました。

そして、王子達はいちばんお気に入りのお姫様をお相手にして、踊りだしました。


アンデルさんが、お姫様達の飲んだワインの盃を、ひょいひょいと証拠にもっていくので、末っ子姫は不安でなりませんでしたが、黙っていました。



見えないのをいいことに、アンデルさんも、一緒に踊って楽しんでいたその時、ポケットに入って隠れていたポリトリーが、小さく叫びました。


「アンデルさん、王子様達の靴の裏みて! 靴の裏の“d”のマーク、あれは、ドワーフの作った靴のマークだ。それも、僕達のおとっつぁんのだよ」

アンデルさんが、ここへ来たのは、姫様達の靴の謎をとくためでしたが、姫達が踊るお相手の靴を、いったいだれが作っているのかも、知りたかったのです。

だって、毎日十二足なんですものね。


どうやら靴を直しているのは、死んだアンデルさんのおじいちゃんの後を追いかけて、どこまでも土の中へと潜っていった、ホルンテおとっつぁんのようです。


アンデルさんと小人達は、必死に探しましたが、地下の世界は広すぎて探しきれませんでした。


お姫様達は、城で明け方の三時まで踊りました。

すると靴がぼろぼろになったので、もうやめなければならなくなりました。


アンデルさんは小人達に、地下に残ってホルンテおとっつぁんを探すよう頼むと、姫達について帰ることにしました。


王子達は、お姫様達を舟に乗せて向こう岸まで送って行きました。

アンデルさんは、今度は一番姫の舟にのりました。


王子が「重い、重い」と言うので、一番姫は「まあ、失礼ね」と怒ってしまいました。


岸に着くと、お姫様達は、それぞれお相手の王子にさようならをいって、

「今晩もまたまいります」と約束しました。


階段を上るとき、アンデルさんはいの一番に駆け上がって、寝床にもぐりこみました。


十二人のお姫様が、のろのろと疲れた足を引きずって上がってきたときには、アンデルさんは、ぐうぐうと高いびきをかいていました。


一番姫は言いました。

「この人なら、私達の秘密は見破られっこないわ」

そして、きれいなドレスを脱いでかたづけると、踊りつぶした靴を寝台の下にそろえて、横になりました。





 次の朝、アンデルさんは、知らんぷりをしていました。

そして、姫様たちの穴のあいた靴を直しに森へと帰ると、名付け親の妖精のおばあさんを呼びだしました。


「おや、アンデルさんや、マントはもういいのかい?」


「おばあさん、マントはあと二日貸しておくれ。それから、“時戻しの水薬”も出してほしいんだ。どうしても、修理の間に合わない靴があるから」


「おやおや、あの水薬は貴重品なんだよ。でもお前のおじいちゃんには、シンデレラの靴の時、お世話になったからねえ。あの頃は私も若かったよ……ところでいつもの小人達はどうしたんだい?」


「他の用事をさせてるよ。そうだ、おばあさんなら、地下に閉じ込められた十二人の王子達の噂を聞いたことないかな。呪いをかけられてると聞いたんだけど」


「そうだね、聞いたことはあるね。でもあれは呪いっていうより、罠だね」


「罠とは、どういうこと?」


「あの、地下の王子達は、地下から出たくて、自分たちの運命の身代わりをさがして、運命を取り替えっこしようとしてるのさ。

一年間一緒に踊り通せたら、王子達の運命は、相手にうつり、自由になって地上の世界へいける。でも相手をした姫達は、かわりに地下の世界に閉じ込められてしまうんだよ」


「もしかして、地下の世界って、死の国なのかい?」


「そうさ。死んだ人間が地上に戻ろうとするなんて、あっちゃあならない話さね」


「おばあさん、お願いだ。“時戻しの水薬”ひと瓶と、“時進みの水薬”ひと瓶、ぼくにくれないか? 助けなきゃならない人達がいるんだ」



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