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履き潰された十二個の靴

昔、ひとりの王様がいました。

王様には一番姫の二十四歳から、末っ子姫の十二歳まで、十二人のお姫様がいて、

そろいもそろって大変な器量よしでした。


お姫様達は、寝台をずらりとならべた大きな部屋で眠ります。

夜、お姫様達が寝床に入ると、王様は扉をぴたりと閉めて、閂をかけます。

ところが、朝、王様が扉を開けると、お姫様達の靴は踊りつぶされているのです。


いったいどうなっているのか、その謎は誰にもとけませんでした。


そこで、王様はおふれを出しました。

「誰でも、姫達が夜、どこで踊りを踊るのかつきとめた者には、姫達のうちから一人をえらんで嫁にとらせて、余が死んだら、次の王様にしてやる。

しかし、名乗り出て三日と三晩のうちに秘密を明らかに出来なければ、命を失うものと思え」


じきに一人の王子が名乗りを上げました。けれども、一日目の夜、王子はぐっすり眠り込んでしまい、二日目の夜も三日目の夜もまるで同じでした。

王子は、容赦なく首をはねられました。

それからもたくさんの人々が、この命がけの冒険に名乗りをあげましたが、どの人も、命を落としてしまったのです。




「ねえ一番姉さん、もうやめましょうよ。これで九十九人目になるのよ」


末っ子姫がそう言うと、一番上の姉さん姫はこう言いました。


「うるさいわね、呪いを解くにはこうするしかないの! それより、私達の今夜はく靴を揃えておいで。間に合わなかったら許さないからね」


末っ子姫は、しぶしぶお城の外へ出かけました。

けれども、靴屋は靴を売ってくれません。

この靴のせいで、三日ごとに人の首がとぶのです。

それに毎日十二足では、さすがに作るのが間に合いません。

国中の靴屋を回りましたが、どこもだめでした。

末っ子姫が泣いていると、妖精のおばあさんが言いました。


「国ざかいの森で、私の名付け子のアンデルさんが、靴屋をやってるよ。

たしか、赤いダンス靴ならまだ少しあったはず。私に聞いたと言えば、だしてくれるよ」


末っ子姫はおばあさんにお礼を言って、森の靴屋に行きました。

靴屋のドアをたたくと、末っ子姫と同じくらいの歳の男の子が立っていました。


「あなたが靴作りのアンデルさんなの?」


「はいそうです。去年、先代のおじいちゃんが亡くなって、ぼくが靴屋のアンデルさんの二代めです。歳は若いけれど、腕は確かですよ」


「赤いダンス靴を十二足欲しいの」


この店を教えてくれたおばあさんの事を話すと、アンデルさんは、奥から靴の箱を出して来てくれました。なんとか十二足ありました。


末っ子姫は、喜んで帰って行きました。


でも、朝になると靴は、踊りつぶされてしまいました。


「昨日の靴はすごく踊りやすくて良かったわ。穴もいつもより小さいから、同じ靴屋で直してもらっておいで」


一番姉さんにそういわれて、末っ子姫は穴が開いた十二足の靴を持って、アンデルさんの靴屋に直してくれと、言いに行くしかありませんでした。


「いったいどうやったら、一日でこんな風になるの?」


アンデルさんに聞かれても、末っ子姫は「言えないの」としか、答えられません。


夜までに十二足ないと叱られると、末っ子姫が言うので、

アンデルさんは、夜になる前に靴底を貼り直してお城に届けると、約束しました。


姫が帰ると、アンデルさんは前掛けの紐をほどき、結び目を三つ作り、地面をうちました。すると地面が割れて、小人が三人飛びだしました。働き者のドワーフ達でした。


「何をして欲しいの? アンデルさん」

三人同時に答えます。


「働き者の、ピフ、パフ、ポリトリー。靴の修理を手伝っておくれ。急ぎ仕事なんだ」


「はい、アンデルさん」

ピフが答えます。


「僕たち、ホルンテおとっつぁんの代からのお付き合いですから」

続けてパフが答えます。


「おとっつぁんは、死んだ先代の後を追ってどこまでも土に潜って行ってしまったけど、後を継いだ僕たちは、二代めとずっと一緒です」


ポリトリーが答えて、“アンデルさんの小人の靴屋”の、いつもの仕事がはじまりました。


こうして何とか靴を直すと、夕日の頃に、アンデルさんはお城につきました。

そして首を切り落とされた、九十九人の王子の話を聞いたのです。


アンデルさんは、靴の秘密をつきとめるため、百人目の名乗りを上げました。

末っ子姫は驚いて、泣いて止めたけれどだめでした。


アンデルさんは、用足しに行くと言って隅っこに行くと、結び目を作って、小人をよびだし、名付け親の妖精のおばあさんに、透明マントを借りてくるよう頼みました。


マントと、三人の小人を隠すと、お姫様の寝る部屋の隣の部屋で、見張りをすることになりました。


日が暮れると末っ子姫が食事を運んできて、お盆の下でそっと紐のついた皮袋を渡しました。


「中に海綿が入ってるから、一番姉さんが眠り薬入りのワインを持ってきたら、飲むフリをしてここにこぼすの。なんとか私達についてきて、本当のことをお父様に話して。

私もう、人が死ぬの嫌なの」

そう言い終わると、すぐ、一番姉さんがワインを持ってきました。

アンデルさんは飲むふりをして、すぐに寝床でいびきをかいて寝たふりをしました。


「この子だって、命を大切にしようと思えばできたのにねえ」

一番姫がそう言いました。


それからお姫さま達は、むくむくと起き上がり、タンスや長持や小箱をあけて、きらびやかなドレスをとりだすと、鏡にむかって身繕いをします。

お姫さま達は、踊りに行くのでウキウキして、そのへんをとびまわっています。


すると、末っ子姫が言いました。


「お姉さま達はうかれてるけど、私、胸騒ぎがするの。きっと何か良くない事がおこるわ。今日はやめにしない?」


「あんたったら、いつも白雁みたいにオドオドしてるのね。これまで、何人の王子がムダ骨折ったか、忘れたの? あの靴屋には、眠り薬なんて飲ませなくても、良かったぐらいだわ。目なんか覚ましっこないもの」


お姫さま達は、すっかり支度が整うと、アンデルさんの様子をうかがいます。


けれども、アンデルさんは目をぎゅっとつむって、ピクリとも動きません。

それで、お姫様達は、すっかり大丈夫だと思いこみました。





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