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『最年少レーサーが、ティン島PPレースで優勝!!』

1980年代、世間を騒がせたあの事件。

当時、まだ10代だった少年が、世界最大のレースで1位を取ったのだ。


その衝撃的なデビュー以来、彼は世界中の人々から大きな注目を浴びることとなった。


『あのレーサーがまたしても優勝。最年少記録、また更新です!』

『彼は本当に人間なのか?』

『今話題のあの人に独占インタビュー!』

そんな見出しの記事が毎日のように新聞の一面や雑誌の表紙を飾った。


少年は幸せだった。誰もが自分の事を知り、賞賛してくれた。

そして何より、恋人の笑顔を見ることができたからだ。


「ねぇ、ほら見て!また載ってるわよ!」

レースで勝つと、彼女はいつも笑ってくれる。そして、祝福の言葉をかけてくれる。

「さすが私の恋人ね!」

彼女の笑顔が好きだった。

彼女が喜ぶ顔が好きだった。


「私ね、いつも思うのよ。世界一速い人にエスコートしてもらって、前に誰もいない道を進んでいくの。まるでお姫様になったみたいじゃない?」

いつも、どこか寂しい顔をする彼女。そんな彼女の笑顔を見たい一心で、少年は走った。


しかし、次第に彼女は笑顔を見せなくなっていった。

 ――――俺がもっと速ければ、一番の景色を見せてやれれば…。

少年は今まで以上に速度を追求した。各国を飛び回り、様々な大会で記録を更新していった。

だが、それでも彼女が心から笑ってくれることはなかった。


そんなある日、アメリカにいた少年のもとへ一本の電話が入った。

『彼女が危篤だ。今すぐ来てくれ』

交通事故。信号を無視したトラックに、彼女は跳ねられたのだ。


少年は走った。ブレーキを踏み込む暇などなかった。

しかし、いくら速いとは言え、アメリカから本国までは、飛行機を使わなければ行けない。


チケットは数時間待ちだ。


俺が、もっと、もっと速ければ…。くそッ!何が世界最速だ。何がレーサーだ。


結局、少年は間に合わなかった。飛行機の中で彼女の訃報を聞いて…。それからのことはあまり覚えていない。


ついに笑顔を見せることなく彼女は死んだ。少年は自らののろまを呪った。



それから数か月が経った。葬式も終わり、彼女の遺品を整理していると、少年は一つの手紙を見つけた。彼女がこれを送るつもりだったのか、それは分からない。ただ、一言だけ


『置いてかないでよ』


とだけ書かれた便箋。


そうして、少年は気が付いた。


彼女から笑顔を奪っていたのは、俺だったのだ、と。

もっと彼女に寄り添うべきだった。

俺は彼女を置いて行ってしまっていたのだ。


少年は、自らの速さを呪った。


それから数年が経ち、レースに出なくなった少年が世間から忘れ去られた頃。

新聞の小さな一面に、こじんまりとした記事が一つ。


『世間を騒がせたレーサーが自殺。リボルバーで頭を打ちぬいた。』

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