こちらは、学園放送部でございます。
「こちらは、学園放送部でございます。」
またきた……放課後、やっと聞き慣れていた放送が流れている。
クラスメイトは何も思わなかった感じで、帰り道に進んでいる。
私は春からH県の中学校に転校してきた普通の中学生だ。
この中学校はほとんど普通の中学校と同じく、あまり特筆すべき特徴がなかった。精々朝では十分間の自習時間があり、時々昼ご飯の時間帯で放送部が放送することがちょっと違うところだろう。
そして、この学校の放送部はとっても有名だったらしく、学校側が良く放送部に贔屓しているらしい。
しかし、その“有名”は実績や成績などが良いというわけではなく、“学生の安全面を守った”という変な理由だった。
その安全面というのは、放課後の放送の内容――「帰り道の安全ルール」だった。
学校の生徒はこの「ルール」を守らなければいけない。身の安全のためだったから。もし「ルール」を守らないと、生徒は安全に家に帰ることができない。
正直、私は初めて「ルール」のことを聞いた時、一体何のことを言っているのかまったくわからなかった。放送の内容がとてもおかしかった。他の人はあまりおかしくないと思ったが、その内容は普通の放送と違う。
だが、一回の経験をしていたら、「ルール」の重要性がわかる。
「こちらは、学園放送部でございます。
学園放送部は常に生徒たちの安全を尽くし、帰り道のルールを伝えております。必ず、『ルール』を守って、お帰りください。
もし、『ルール』が守れなかった場合、繕うことができるなら、必ず相応しい処置で行ってください。重大なミスや故意の場合、全ては自己責任です。
では――」
1.帰り道に商店街を通らなければいけない生徒たちは気をつけてください。
もし、赤いパーカを着ていて、黒いジーパン、花柄の靴下と青いサンダルを履いている優しそうなおじいさんに話しかけられたら、返事しないでください。
返事した場合、すぐ黒いシャツを着ているヤクザっぽいおじさんを見つけてください。おじいさんをその人に連れていってあげたら、大丈夫です。
ヤクザっぽいおじさんに連れていくまで、おじいさんにどんな要求をされても、応えないでください。応えた場合、自己責任です。
2.帰り道にX丁目の公園を通る生徒たちは気をつけてください。
もし、公園を通る前にもう友達と別れて帰っていたのに、後ろからその友達の声が聞こえても返事しないでください。
また、知り合いの声でも、家族の声でも、聞いた覚えがある声でも、本人の顔が見えていない状態なら、必ず無視してください。
もし返事した場合、公園のどこかに動物の鳴き声があるかを探してください。どんな動物の鳴き声でも構いません。前から動物の声が聞こえたら、どんな道でも振り返らずに即座で前の方向に走ってください。
「ウギャア」と野太い悲惨な男の叫び声が聞こえたら、家に帰れます。
3.帰り道にXX線を乗る生徒たちは気をつけてください。
もし、降りるべき駅名のアナウンスに雑音が入っていた場合、降りないでください。それは君が降りるべき駅ではありません。
降りた場合、自己責任です。
4.帰り道に自転車で帰る生徒たちは気をつけてください。
もし、自転車の駐車場では、隣に鍵が閉めていない汚い青い色の自転車が止まった時、今回は徒歩で家にお帰りください。帰り道の途中でコンビニらしいところを見たら、ちゃんとコンビニに寄り道をして、お帰りください。
ちなみに、コンビニで買い物しても構いません。ただし、鳥打帽の中年男性を見た場合、どんな形で話しかけられても、無視してください。
もしうっかり返事した場合、コンビニ店員に助けを求めてください。そして、何が起きてもコンビニから離れましょう。この場合、帰り道に見覚えのない警察署が見えます。
その警察署の中に一日を過ごしてください。生活用品はちゃんとそろえています。
以上の処置が行わないと、自己責任です。
5.帰り道に普段の場所を通る時に鳥居を見てしまった生徒たちは気をつけてください。
鳥居は神社と階段が付き添うものだから、地蔵がありません。また、神社の管理者は一人の坊主であって、着物を着ている二十代の女性ではありません。
二人ともに挨拶したいならできます。坊主が害はありません。ただし、二十代の女性に坊主のことを詮索しないでください。自己責任です。
「――以上、学園放送部がお送りいたします。
もう一度伝えますが、学園放送部は常に生徒たちの安全を尽くし、帰り道の『ルール』を伝えております。必ず『ルール』を守って、お帰りください。
また、今回の放送は雑音が入って聞こえなかった場合、校門付近に自称『教頭先生』の人をお探しください。『教頭先生』は必ず君の安全を守ります。」
初めて聞いた時、この放送は一体何の冗談だと思っていたが……
あの日、私はB君と一緒にXX線の電車を乗った。
B君はとても明るい人だった。少し内向的な私に話しかけて、友達になってくれた。降りる駅は私より一つ前だったから、ずっと私より先に電車を降りた。
その日、B君はとても疲れていた。しばらく寝たまま電車を乗っていた。もしB君の駅に着いたら、B君に起こしてくださいと言われた。
当然、転校したばかりの私にとって、あの校内放送は意味不明なものだったから、気にしていなかった。
もうすぐB君が降りる駅に着いた。私はB君を起こすつもりだった。
プープ……フ……ツツッ……と、まるでマイクが吹かれていたような雑音だった。そして、アナウンスが流れていた。
「間もなく、OO駅に着きます。OO駅に着きます。」
少しアナウンスが不自然な感じがしたけど、私はあまり考えていなかった。
「B君。起きて。もう着いたよ。」B君はとっても熟睡をしているようで、起こすにはちょっと難しかった。
「……うん?ああ、着いたんだ。ありがとう。じゃあ、また明日。」B君は眠そうにフラフラと電車を降りた。
「うん。また明日。」
よく思えば、電車のドアが閉まるまで時間が長かった。
よく思えば、B君が降りた後、すぐドアが閉まった。
そして、次の駅に着いたら、すぐ私の駅に着くはずだった。
私は反射の行動を取っているみたいに、学校のカバンを持って立っていた。
しかし、流れてきたアナウンスが違った。
「間もなくOO駅です。OO駅です。ちゃんと持ち物を用意して、お持ち帰りください。」
あれ……?OO駅って……B君がさっき降りた駅じゃなかったっけ?
私は目をこすって、駅のリストを確認した。間違いなくOO駅はB君が降りる駅……
私はおかしいと思ったが……すぐ考え直していた。
そういえば、あの駅のアナウンスって……駅員さんが喋っていたのだ。つまり、アナウンスは何らかの不具合が起きて、駅員さんがもう一つ前の駅を間違えてしまったのだ!
「いや……なんか悪いことをしたな。」でも、駅員さんが間違えたのだから、私が間違えたのもしょうがない。明日学校で会えたら謝ろう。それに、もう一度電車を乗れば帰れるし。
あの時、私はそんな軽い気持ちで考えていた。
しかし、あの日からB君の存在が消えていた。学校の座席や番号まで、全部B君の名前がなかった。まるで、元々B君がいなかったかのように、誰もB君のことが覚えていなかった。私以外に。
あの日、B君が降りた駅は何の駅だったのか、私にはわからなかった。
ただし、放課後の放送は相変わらず流れている。
その「ルール」が守らなければいけなかった。
もし、他の「ルール」を守らなかったら、一体どうなるだろうか……想像したくないね。