ハッピーサンクスステージへようこそ
「ハッピーサンクスステージへようこそ、プリンセス・ヴィラン」
目を覚めした途端に空から降ってきたその声に、プリンセス・ヴィランと呼ばれた女性は困惑の表情を浮かべる。
ココはどこ?
ワタクシはだれ?
上体を起こし周囲を見渡せば、無限に広がる白、白、白。
途方もなく白いその空間に、軽快で明るい声だけが響き渡る。
「ある時はマーゴット、ある時はエリザベス、ある時はキャサリーン、ある時はプリシラ……そうして計8回も……え?11回だって?ああ…そういえばそんな短編があったね。昔のこと過ぎてすっかり忘却の彼方だったよ」
声は咳払いを一つすると「失礼。仕切り直しをさせてくれ」と一言断りを入れて、再び声を張り上げた。
「ある時はマーゴット、ある時はエリザベス、ある時はキャサリーン、ある時はプリシラ……そうして計11回も悪役として転生を繰り返してきた君の魂は、創造主である僕の引退をもってしてついに終焉を迎えることとなった!!」
「はあ?」
プリンセス・ヴィランは気の抜けた返事をして面倒くさそうにその場に寝転がる。
「君のおかげで僕の物語は大いに盛り上がった!特にマーゴット!マーゴットは中盤で投獄され退場したものの、それ以降ストーリーがどうにも盛り上がらなくてね。あらためて悪役として再登場してもらったくらいだ」
「マーゴット……聞いたことのある名前だわ。どうでもいいけど」
「まあそんなわけで。功労者である君へ感謝の気持ちを込めてこのハッピーサンクスステージを設けたんだ。一度くらいは君を主人公にして幸せな人生を送らせてあげたいと思ってね」
「ふうん……」
ということは、これまでの自分は幸せではなかったという事だろうか?
遠い記憶をたぐってみるが霧がかったそれを掴むことは出来ず、プリンセス・ヴィランは考えるのをやめた。
「まずこれを見てくれたまえ」
創造主の声とともに上空に大きな長方形の枠が現れる。その中に何やら走り書きがしてあるようだが、知らない文字であるため読むことが出来ない。
「読めないけど?」
プリンセス・ヴィランが上空を睨みつけると、「おーっと!これまた失礼!」という声と共にペチンと何かを叩く音がした。
「これは僕が提案する君の幸せ人生プランだ。この中から好きなものを選んでくれたまえ!まずは1番上のプランから説明していこうか」
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☆プリンセス・ヴィランに捧げるハッピーサンクスステージ☆
①プランその壱
→継母と義姉に虐げられていた主人公が悪い噂の絶えない辺境伯と無理やり結婚させられナンダカンダでザマアして誰もが羨む超美形ツンデレ大金持ちの辺境伯に溺愛されてハッピーエンド
②プランその弍
→魔法学園の落ちこぼれ主人公が学園のイケメンたちやモフモフに囲まれながらナンダカンダあって秘めたる力に覚醒し敵を倒して一応本命と結ばれるが逆ハーエンドを匂わせてハッピーエンド
③プランその参
→憧れの人を助けるため男装して宮廷に上がった主人公がイケメンに囲まれながらナンダカンダを経て恋のライバルと友情で結ばれ仕事もサクセスしたうえに憧れの人とラブラブハッピーエンド
④プランその四
→何でも真似してくる妹に聖女の地位も婚約者も何もかも奪われ復讐を誓った主人公がナンダカンダあってザマアした上に実は陰で支えていてくれた不器用イケメンに溺愛されてハッピーエンド。
⑤プラン伍
→濡れ衣を着せられ婚約破棄された主人公が領地でほのぼのスローライフを送りながらナンダカンダあって運命のイケメンと出会ってハッピーエンド
尚、設定は本人の希望にそって都度変更可とする。
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「ーーとまあ、こんな感じなんだけど。君の希望次第ではどうとでもなるよ。いらない設定を削るも良し、プランをミックスさせるもまた良し」
プリンセス・ヴィランは気だるげに立ち上がると人生プランをジーッと見つめた。
「読めないけど、1番上のプランの文字が1番勢いがある気がするわ」
「あ、わかっちゃった?そういうのが僕の得意分野なんだ」
「逆に1番勢いがないのが1番下のプラン……」
「いやあ〜苦手なんだよねえ、スローライフもの。でも5つの方がキリがいいかなって思ってテキトーに付け足したんだ」
創造主の言葉を聞いて、プリンセス・ヴィランは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「わたくし、1番下のプランにするわ!」
「ええ〜!苦手なのにい……」
「それから、運命のイケメンとやらは無しにしてちょうだい」
「ええ〜!それじゃあ話が盛り上がらないよ……」
「イケメンがなければモフモフを登場させればいいじゃない」
「イケメンとモフモフじゃ役割が違うんだよ〜」
「それから婚約破棄も悪役も面倒だから無しにしてちょうだい」
「それだとスローライフを始めるキッカケが……」
「もともと田舎に住んでいる庶民の娘にでもすればいいじゃない。高い地位はいらないわ」
「え〜そんなの気分がアガらなーい!」
「ブツブツうるさいわねえ。わたくしの好きにしていいって言ったのは貴方でしょ!」
プリンセス・ヴィランが一喝しても、創造主は「そうだけどさあ…」となおも不服そうである。
「すぐに終わっちゃうかもしれないよ?」
「どうでもいいわ。どうせ魂が終焉を迎えるんでしょ?」
「さあ!やるならさっさと始めてちょうだい」
ーーかくして、プリンセス・ヴィランは再び物語の地に降り立つこととなった。
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☆プリンセス・ヴィランに捧げるハッピーサンクスステージ☆
【採用】
⑤プラン伍(修正)
→庶民の娘である主人公がただの田舎でモフモフとスローライフを送りながらナンダカンダあって運命のイケメンと会うこともなくハッピーエンド
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全5話で終わる予定です。
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