92.神に届く想い
更新を止めてしまい大変申し訳ございませんでした。本日より再開いたします。よろしくお願いいたします。
神像を見つめた時、確かに冷たさを感じた。現に今も神像の周囲は体感温度が下がり続けている。だからこそ不在なのだと思った。
以前、突然あの空間に呼ばれた夜。あの時と同じように。
しかし、それならおかしいことになる。
私は自分の力ではあの空間へは行けないから。祈りを捧げてレビノレアと繋がり、レビノレアから引き上げられて、初めて私はあの空間に足を踏み入れることができる。
つまり、引き上げられた以上、レビノレアは間違いなく存在しているということだ。それはきっと、今も変わらない。
神殿とは、神を奉る一番神聖で力のある、神に最も近い場所。
だからこそ、レビノレアには通じるはずたと、思って名前を呼んだ。以前レビノレア自信が言った「やっと祈ってくれた」という言葉を信じて。
(ーーっ)
最大限の言葉を漏らした後、目を瞑らずに現実を捉えた。
輝くも毒々しい光が迫る。
これ以上回避しようのない状況で、硬直する数秒。光に覆われた直後、眩く美しい光がサミュエルの放った力とぶつかり合った。
その力は間違いなく、今回の回帰前に感じた光と同じものだった。
(レビノレア……)
「ルミエーラ様っ!!」
端から見れば何だかわからない、危険とも見える状況にもかかわらず、アルフォンスは手を伸ばして引き寄せてくれた。
その温かさを感じたと同時に、私は遠くへと意識を飛ばされた。
「サミュエル!!」
その最中、最後に聞こえたのはクロエさんの声だった。
◆◆◆
レビノレアが力を使ったとなれば、行き着く場所はわかっていた。
再びあの白い空間へと戻ってきたのだ。
(……力を貸してくれたみたい。ありがとう)
感謝の気持ちを伝えながらも、周囲を見渡す。以前と異なって、煙のようなもやが立ち込めていた。
「あぁ、成功したのだな……!!」
(!)
空間に、男性の声が響き渡る。
その声の主は残念ながらレビノレアではなく、サミュエルだった。
(レビノレア……)
私が願ったのは助力してほしいということ。その本意としては、サミュエルを説得する場が欲しかったのだ。さすがは神というべきか、願いの真意まで読み取り言葉通り力を貸してくれた。
(ここなら……声を出すことができる)
目の前に立つ男は、到底大神官としての雰囲気は欠片もなくなっていた。サミュエルは目が合うとニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「聖女、残念ながらお前の運命はここまでのようだ」
自分の計画が成功したと信じてやまない思考を、冷めた眼差しで見つめた。
「何一つ……成功などしていませんよ」
私が声を発した瞬間、サミュエルはピタリと動きを止めた。目を見開く姿からは驚く様子が見てとれたが、それもすぐさま表情を元に戻した。
「なんだ、喋れたのか。まぁ、今更声を出そうが、これまでお飾りの人形として生きてきた事実は変えられまい」
「その事実を変えるために声を出したのではありません」
「……」
反論されるとは思っていなかったのか、再び動きを止めたサミュエル。顔にはほのかに苛立ちが浮かび上がっていた。
「……人形のままの方が好みだな」
「便利の間違いではないでしょうか」
「ちっ」
苛立ちが増したのか、サミュエルは舌打ちをした。
「文句を言うために喋り始めたのか? ……まぁ聞いてやらんこともない。どうせあと僅かの命だからな」
自分の計画に酔いしれているサミュエルは、余裕たっぷりの表情でこちらに向き直した。
「何故、私の命が後残り僅かなんです?」
「わからないのか、哀れな聖女よ。以前にも教えた通り、お前の残りの寿命はクロエに捧げられる」
「……」
「ありがたく思うと良い。お飾りが人の役に立てるのだからな」
傲慢なその口ぶりは、神にでもなった気分であろうことをよく表していた。サミュエルに宣告される死を前にしても、私が動じることは一切なかった。
一息だけ間をあけると、私は静かに本心を言葉にした。
「哀れですね」
「…………なんだと?」
「哀れだと申し上げたんです」
「なんだ、自身がか?」
「いいえ。サミュエル・ライノック、貴方です」
「……なんだと?」
その瞬間、空気が一変し寒ざむしいものへと変わった。
「お気付きになりませんか。貴方の計画はまだ何も遂行されていないことに」
「はっ、何を言う。負け惜しみか?」
「事実を述べているまでです。貴方は確かに自身の神聖力を放ちました。ですがそれに対抗して、レビノレアの光も出現したはずです。まさかそれに気付かなかったと?」
「……馬鹿な」
間違いなく、あの場には二つの光が存在した。神であると豪語するのであれば、確認できないはずがない。
「あの瞬間、貴方の光とレビノレアの光がぶつかり合いました。そしてその結果……」
サミュエルの瞳を真っ直ぐと捉えて、揺るぎない事実を言い放った。
「サミュエル。貴方の光が負けたのです」




