表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/115

73.突き刺さる一言


 更新を止めてしまい大変申し訳ございません。体調が不調だったのですが、無事回復いたしましたので更新を再開したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。




 心がどんなに傷付こうとも、教会には急いで帰らないといけない。そう自分に言い聞かせながら、どうにか足を動かした。


(……駄目。切り替えないと)


 教会の隠し通路に着くと、ぎゅっと目を閉じて心を落ち着かせた。さっとローブを脱ぐと、バックの中に入れた。


(あれ?)


 バックを開くと、そこにはあるはずのスケッチブックが消えてしまっていた。


(ない……)


 元々少ない荷物だったので、バックの中は探しようがなかった。ないものはない。見て明らかだったのだ。


(……はぁ)


 普通は落とせば重さで気が付く筈なのに、今回はわからなかった。それ程までに自分が落ち込み、感情が複雑になっていたことを、改めて思い知らされた。


 日常用のスケッチブック。


 新しく作れば、良いのは頭で考えればわかる。だが、何回と共にしてきたスケッチブックには、私も知らない内に愛着が芽生えていたのだ。いつの間にか大切なものになっていたスケッチブックを落としてしまったことに、悲しさが増してしまった。


(……ついてないな、本当に)


 作戦初日にしてはとても色濃い一日だった。だが、初日にして進むべき道を見失っていた。今すぐに明日どうするかを決めるのは困難なことと判断すると、大きく息を吐いて散らかった感情を無理矢理まとめた。そして作業部屋へと向かった。


(……思ったより早い帰りになったな)


 自嘲のような笑みを浮かべながら、前も見ずに歩いていく。少し歩くと、どこからか女性の声が聞こえた。


「あらぁ? こんなところで何をしてるんですか」

(……ジュリア)


 できれば聞きたくない声が耳に入ると、はっと前を向いた。目の前に姿が見えなかったので、反射的に振り向けば、そこには厄介な世話係がいた。


 呼び止められたのは何とか誤魔化しがつく場所ではあるものの、普段であれば絶対に使わない道だった。その上作業部屋からも離れているので、この場にいるのがおかしくなってしまう。


 それをジュリアはわかっているからか、嫌な笑みを浮かべていた。


「怪しいですね。人気のない所にそんな荷物まで持って。何してるんですか?」

(……まずい。バックの中にはローブがある)

「あぁ。聞いても無駄でしたね、喋れないんですから。可哀想に」

(!!)


 ジュリアは見下す眼差しで、馬鹿にしたように笑った。それが今日は胸に突き刺さってしまった。いつもなら、少しも気にしない筈なのに。気持ちが脆くなっている今日に限っては、響いたのだ。


「まぁでも安心してください。自分で確かめますから」


 そう言うと、つかつかとこちらに向かって歩いてきた。どうにかしてバックの中を見せないようにするべきなのに、体は動いてくれなかった。


「失礼しますねぇ」


 ジュリアが手を伸ばした瞬間、威厳のある声が響いた。


「何をしているんだ」

(バートン!)


 反射的にジュリアは手を止めて振り向いた。


「し、神官長様」

「聞こえなかったか、何をしていると尋ねたんだが」

「わ、私は聖女様に用があって」

「用? 私には仕事を放棄してほっつき歩いているようにしか見えないが」

「ほっつき歩いてなんて!」

「では持ち場に戻りなさい。世話係だけでなく、教会の人間として割り振られた仕事がある筈だ」

「ーーっ」


 私の世話係以外にも教会に関する仕事があるはずのジュリアだが、彼女のことなので、貴族であることを盾に他人に押し付けて逃げているのがお決まりだった。


 それをバートンも知っていたが、こうやって本人に向けて直接苦言を呈したのは初めてだったと思う。


 サミュエルに報告する絶好のネタが目の前にあるというのに、確認できないという悔しさが顔に出ていた。


「何をしている。早く行かないか」

(……こんなに威圧的なバートンは初めて見たかもしれない)


 その威圧に耐えられなかったのか、ジュリアは小さく頭を下げると駆け足でその場を去っていった。それを見送りながら、バートンはそっと近付いてきた。


「ルミエーラ、お前もだぞ。何をしているんだ全く」

(どうしよう、言葉を返さないといけないのに)


 書くものを失った今、伝える手段が無いに等しい。でも今、詰められるわけにはいかない。そう焦っていると、バートンはただ頭にポンと手を乗せた。


「気分転換散歩もいいがな、あまり人気の無い所を歩くなよ」

(…………)


 予想外の言葉に固まると、思わず目をパチパチとさせてしまう。


「……ん?」

(どうして問い詰めないんだろう?)


 疑問を浮かべた顔を向ければ、それに気付いた様子のバートンは自分の考えを教えてくれた。


「なんで何も聞かないのか不思議そうな顔だな。安心しなさい。私はあの世話係の言うことを鵜呑みにするような人間ではない。……どうせ、大神官様への有益な情報を報告したさに、執拗にルミエーラに関わったんだろう」

(凄い。正解です)


 思ったよりもジュリアのことをわかっているバートンに、また驚いてしまった。


「……はぁ。どうしてあのような世話係が選ばれたんだろうか、疑問でならない。大神官様のことは尊敬するが、世話係を選ぶ感覚は例外だな」


 バートンはやれやれといった顔でため息をつくと、「疲れているならゆっくり休むように」という言葉を残してその場を去った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ