表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/115

72.引き寄せられて(アルフォンス視点)

 


無事盗人を捕まえたことで仕事を終えたので、家へと戻ることにした。


「団長、お戻りになられましたか」

「あぁ。何か異常なかったか?」


 業務連絡のように、いつもの流れで副団長に自分がいなかった間に関して何かあったか尋ねた。


「特段ありませんが、強いていうならまた過激な追っかけが来ていましたね」

「そうなのか」

「はい」


 追っかけ。

 副団長含むディートリヒ家の騎士達は皆そう言うのだ。自分があまりにも女性に興味がなく、関心も示さないことは彼ら曰く有名な話らしい。だからこそ、自分こそが射止めるのだとご令嬢から王都に住む小金持ちの娘までが、度々接触を図ろうとしてくる。


 今のところ実害が無いため、無難な対応か放置をしているのだか、たまに家にまで押し掛ける人物までいるのは少し困っていた。


「にしても今日の追っかけの方、何だか不気味でしたよね」

「不気味?」


 副団長と共に対応をした騎士も報告に加わった。


「はい。まず格好が怪しくて。ローブ被ってたのですが、その上一言も喋らなかったんですよ」

「……」

「そうだったな。ですが団長、話が通じないわけではなさそうでした。こちらの言葉は理解しているようで、団長がいないことがわかると帰っていきましたので」

(……ローブ、無言)


 それは先程、自分が助けた女性と特徴が一致していた。


(……同一人物、だろうな)

 

 まさかあの女性がディートリヒ侯爵邸を訪れていたとは。面識が恐らくない上に、実際出会った彼女はそそくさと帰っていった。


(どういうことなんだ……?)


 意図がまるでわからない、フードの女性のことを思い浮かべた。


「……他に何かあったか?」

「特にはありません。……団長、ちなみに手にしてらっしゃる物は一体」

「確かに。スケッチブック、ですか?」

「……」


 二人の視線の先には、恐らくフードの女性が落としたであろうスケッチブックがあった。


(……悩んだ結果、結局持ってきてしまった)


 落とし物として管理するにも、果たして自分が持ってくることは正しい選択かわからなかった。ただそれ以上に理解できなかったのが、スケッチブックに強く惹かれたことだった。


(初対面の……他人の落とし物を、何で拾ったんだ)


 気が付けば自宅まで持ってきていた。


「落とし物だ。後で本人に届ける」

「そうなんですね」

「わかりました」


 善意で回収したんだという言い訳をしながら、深く考えることを一旦止めた。


 副団長と騎士が部屋を去ると、やはりスケッチブックに目がいってしまった。


「……不思議な力でも持ってるみたいだな」


 困惑しながら微笑して、スケッチブックに触れた。中身を覗き見るなど、普通に考えれば失礼極まりない行為なのに、無意識に手が動いていた。


「こんにちは……ありがとうございます」


 そこには、簡単な言葉が一枚一枚記されていた。


(……ローブの彼女は、もしかして話せないのか)


 稀にそういう病気があると、昔どこかで聞いたことがあった。その可能性を浮かばせながら、ページをパラパラとめくっていく。


 すると、あるページで手が止まった。


「……どうせ忘れるから、気にしないで」


 その言葉は、スケッチブックそのもの以上に自分を激しく惹き付けた。日常的に感じていたモヤモヤが消えると、今度は胸の鼓動が早くなった。


 胸が痛い。


 何故痛いかはわからず、自分の中での感情の変化に戸惑うことしかできなかった。


 どうせ忘れるから、気にしないで。


 その言葉があまりにも強く胸を突き刺すものだから、訳もわからないままじっと見つめてしまった。


「……うっ」


 見れば見るほど、言葉にできない感情が溢れだしてくる。その原因も理由もわからないのに、ただ胸だけが苦しかった。


(何なんだ、一体……)


 思わず目を閉じて視界からスケッチブックをよけて、何とか落ち着こうとした。呼吸を整えていると、誰かが部屋に近づく足音が聞こえて、慌ててスケッチブックを閉じた。


 響くノック音に反応すると、入ってきたのは先程報告に加わった騎士だった。


「団長」

「どうかしたのか」

「どうでも良い話かもしれませんが思い出したので」

「あぁ」

「先程のローブの女性なんですけど、珍しい髪色をしていたんですよ」

「珍しい髪色?」

「確か金だった気が。……でもよく考えると金髪はこの国で聖女様しかいませんから、光の反射で銀色と見間違えたんだと思います。どなたかお心当たりはありますか?」

「……いや。でも報告ありがとう」

「はいっ。では失礼します」


 金髪。その言葉を聞いた瞬間、スケッチブックをどこに届ければ良いのかわかった。


 締め付けられる胸の痛みは消えなかったものの、情報を得られたからか、少しだけ緩和してくれた気がした。




 更新が不定期になってしまい、大変申し訳ありません。なるべく毎日投稿を頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ