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69.侯爵邸を目指して


 昨日は更新できずに大変申し訳ありませんでした。


 かつてないほど迅速に一日分の業務を終わらせた。


(夕方までに戻らないと。そこでバートンに仕事を渡せば、バレることはまずないから)


 タイムリミットは夕刻。そう確認すると、作業部屋を出た。


(……今までアルフォンスやソティカに準備してもらったから、かつらがない。……外套があっただけでも良しとしよう)


 ローブを着て頭を隠すと、そそくさと隠れ扉へ向かった。誰にも遭遇することなく無事教会から抜け出すと、ディートリヒ侯爵邸を目刺し始めた。


(こっちには来たことないのよね……)


 神殿に向かう方向とは真逆なので、知らない道になる。しかし、教会からよく見ていた町並みではあったので、全くわからないという程ではなかった。


(えっと、地図からすれば……)


 図書室の中にあった地図付きの本を開くと、現状進むべき方向は間違っていなかった。


(見ればわかる。……今のところはまだ見えてこないけど)


 不安を抱き続けながらも、商店街へと出た。王都なだけあって、とても高そうなお店が並んでいる。


(ここで貴族様は買い物をするんだろうな。……まさかアルフォンスはいないよね?)


 できる限り気配を消して、目立たないように商店街を通り抜ける。基本的には女性ばかりで、あまり男性はいないように思えた。


(……こういうお菓子のお店で、いつか食べてみたい)


 チラリとお店を見れば、とても美味しそうなお菓子が並んでいた。店の内装も可愛らしいもので、多くの女性が店を訪れていた。


 そんな平凡をどこか羨ましく思いながらも、言葉にすることなく通り過ぎた。


(商店街を抜けた先、右に曲がってそのまままっすぐ……かな)


 こまめに地図を確認しながら侯爵邸を目指す。目立ってはいけないが、人通りの少ない場所を歩くことは危険なので、道を選びながら進んでいた。


(ここで左に曲がる。……あ、違う。もう一つ先ね)

「お嬢さん、こんなところで一人何してるんだ?」

「一人は危ないねぇ、俺達が家まで送ってあげるよ」

(……私じゃなかった)


 地図に夢中になっていると、嫌な声色が聞こえた。そっと振り向けば、一人の女性が男二人に絡まれていた。静かに物陰に隠れる。


「け、結構ですわ!」

「そんなこと言わずにねぇ」

「警戒しなくていいよ、親切心からだからね」

(怪しさ満点ね。……こんな昼間から暇なのかしら)


 あのような迷惑な輩が出始めるのは、てっきり夕刻から夜の間だと思っていた私は、あきれながらに彼らの方を見た。周囲の人も関わりたくないからか、目をそらしたりしてしていた。


(人通りがあるからと言って、安全ではないのね。……王都は治安が良いと勝手に思ってたのに、違うみたいね)


 それに加えて、今いる通りは他の道と比べて異質な空気を放っていた。人がいるから大丈夫かと安易に判断して選んだ道だが、よく周囲を見渡すと、所々お店は閉まっていた。


(どうしよう。警備隊を呼びに行くべきかしら)


 悩んでいる間にも、彼らの話は進んでいった。


「おいおいお嬢さん。見るところ貴族のご令嬢だろう? 不用心だねぇ。護衛もつけずに一人で出歩くなんて」

「あ、貴方には関係ないでしょう!」

(ご令嬢が一人出歩くなんてあり得ないから……もしかして家出かな)


 そんな憶測をたてながらも、警備隊に行くのでは間に合わないと判断した私は急ぎ地図を見た。


「そう言わずにねぇ」

「きゃっ! は、離しなさい!!」

(ここは……第三通り!)

 

 声から察するにご令嬢と思わしき少女は、男に腕か手を掴まれたようだった。


(落ち着いて詳しく、でも早く言うのよ!)


 今にも連行されそうな少女の方を見ながら、高速詠唱のように声を出した。


「オルローテ王国王都の第三通りで、幼気な少女に悪意ある接触をする、不届き者の男性二名、今すぐ彼女から離れて!」


 本来ならば命ずるように、厳格な言葉を選ばないといけない。しかしあまりの焦りから、最後は感情的な言葉になってしまった。

 

 その瞬間チートが発動し、男二人が勢いよくぶっ飛んだ。


「うわっ!!」

「ぎゃあっ!!」

「……え?」


 手を掴まれていたはずのご令嬢だけがその場に残る形となった。しかしぶっ飛んだと言ってもそんな長距離ではない。時間が経てば起き上がって戻って来れる、そんな距離だったのだ。


(これはまずい……!)


 咄嗟にそう判断した私は、少女まで近付いて慌てて手を引いた。


「な、何ですの!?」

(ごめんね、黙って着いてきて!)


 急ぎ走ると、今度こそしっかりと人通りの多い道まで来ることができた。


「は、離してくださいませ」

(……疲れた)


 滅多に走らないこともあって、足を止めると疲労が一気に襲った。少女は先ほどまでの口調とは異なり、どこか申し訳なさそうに告げた。


 そっと手を離した瞬間、彼女から疑問を次々と言葉にされた。


「貴女は何者なんですの。私を助けてくれたんですのよね」

(……名乗れない)

「……お待ちになって。その髪色ーー」

「オ、オルローテ王国第三通りで起きた、男二人を吹き飛ばしたさっきの出来事を、忘れてください……!」

「あ……あれ?」


 少女の瞳が淀んだ瞬間、私はそそくさとその場を去るのだった。




 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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