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68.厄介な世話係



 

 翌日、集中して三時間で一日の仕事を終わらせた。 


 王都にディートリヒ侯爵家があるとわかっていても、具体的な場所まで知らない私は、急ぎ図書室に向かい資料集めを始めた。


(王都に関する地図とか、侯爵家に関する歴史とかに載ってるかもしれない)


 その予想は当たっていたが、記されていた地図はなんとも大雑把なものだった。


(……教会からどれくらいかかるんだろう)


 王都内とはいえ、遠く離れていれば神殿に行くのと変わらなくなってしまう。


(その日の内に帰って来れないと、各所の監視から怪しまれる)


 地図を何度も眺めながら、道のりを確認する。書物によれば、侯爵家というだけあって、見ればわかるらしい。それだけお金のかかっている、大きな屋敷ということだ。


(その見ればわかる範囲にまでたどり着ければ良いのだけど……)


 地図を見る限りでは、教会からそう離れていなさそうだった。


(とにかく、明日から教会を抜け出そう)


 警備や監視の目がある中、そんな簡単には抜け出せない。そうサミュエルは考えていることだろう。


(甘いわね。やり直し含めて何年この教会にいると思っているの。緊急時の裏道くらい把握済みよ)


 そしてその道はバートンしか知らず、過去に一度だけ教えてもらったことがあった。そして昨日確認したところ、抜け道に監視は見られなかった。


(外からも決してわからない抜け道だから、ここに監視じゃない警備がいなくても大丈夫なのよね。……現に今回まで、抜け道関係で問題は起きなかったから)


 図書室にこもりながら計画を立てていく。


(よし。明日から早速実行しよう)


 決意と共に立ち上がると、バートンに午後の分の仕事を渡してから自室へと戻った。


 部屋の扉を開けると、椅子に座る世話係がいた。


「あら、戻られたんですねぇ」

(……今日はいるのね)


 ソティカではない、サミュエルが用意した世話係が怠惰そうな声で私の帰りを確認した。彼女の名前はジュリア。はっきりとした顔立ちの美人だが、性格は難ありの十八歳。


 貴族の出身らしく、他人の世話係をするのが向いてない少女だった。抜擢された理由は、神聖力があるかららしい。それが一体何の関係があるのかと不明だったが、力があるが故にサミュエルの目に止まったのだと勝手に判断した。


(……サミュエルのことだもの。私に対する情は一切ないから、適当な人材を世話係に選んだんでしょうね)


 そして選ばれた当の本人は、不本意だと言わんばかりの態度だった。


(記憶をたどると、彼女がいつかこんなつもりじゃなかったのにって悪態ついてる場面があったのよね)


 何はともあれ、関わりたくない人間であることは間違いない。


「私、そろそろ寝るので。後は勝手にしてくださいねぇ」

(言われずともそうするわ)


 一人で勝手にお茶する彼女を白い目で見ながら、その横を静かに通りすぎた。


(世話係というかただの穀潰しよね)


 何も仕事をしない、自堕落に日々を送るだけ。そんな彼女に愛想をつかしたのは、配属されてすぐだった。その記憶も無事整理できたので、感情は無事引き継がれている。


(……サミュエルって見る目ないのね)


 サミュエルが見る目がないのか、私に対する当て付けなのかはわからないが、ジュリアのことは好きになれそうになく、その気もなかった。


(……この子、貴族にしても品が無さすぎよね。人の部屋で勝手にお茶飲むなんて神経がわからないわ)


 そんなことを考えながら上着を脱いだ。


「それじゃ。おやすみなさい」

(…………早く出てって)


 一応この子を警戒して図書室にこもっていた。実はジュリア、は世話係の仕事はまるでしないくせに、サミュエルへの報告はこまめにするのだ。


(はぁ……厄介だわ)


 だがおかげでわかりやすいというのはある。以前のソティカは、結果的に協力してくれたが、彼女がルキウスに報告していたことはわからなかったから。


 役立ちたいという欲があるからか、ジュリアは勝手に私の机をいじるのだ。そこから何とか情報を得ようとしているのが、非常にめんどくさい。


(普通、いじったらバレないように綺麗に元に戻すでしょ)


 それをしないのが彼女なのだ。


(貴女がいじると思って、絶対に見られたくないものは既に執務室に移動済みよ。さすがに部屋を荒らそうとは思ってないみたいだけど)


 ふうっとため息をつきながら椅子に座った。


(あの子のことを気にするのは止めよう。とにかく今は、明日に備えてしっかり寝ないと)


 パンッと頬を叩くと、自分で夕飯を始めとした就寝までの準備を一人で行って、いつもより早めに眠りにつくのだった。

 



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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