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64.回帰した聖女



 ふわふわとした、そんな感覚。何も考えずに、考えられずに

 

「ーーエーラ、ルミエーラ!」

(!!)


 聞き覚えのある声に意識を引き戻された。パッチリと目を開く。


「大丈夫か?」

(……バートン)


 そこはバートンの部屋で、私はバートンに向かい合うように座っていた。バートンは、心配そうな表情をこちらに向けている。取り敢えずゆっくりと頷く。


(……教会に戻ったの?)


 すぐにわかったのは、自分が今いる場所が教会だということ。


 サミュエルが明らかに禍々しい力を殺意と共にこちらに向けていた。アルフォンスを守るように前に出た瞬間、私から出た光と相殺されるようにまばゆい光があの場を覆った。


(……あれは私の力じゃない)


 あの時、声を発するよりも先に体が動いた。


(……サミュエルが神に準じる力を持っているなら、私の力じゃ叶わないから)


 ぎゅっと手のひらに力を入れる。悔しい気持ちを感じながらも、守ってくれた光に感謝をするのだった。


(ありがとう、レビノレア)


 まばゆい光に包まれた時、レビノレアと会ったあの日に渡された加護が無事に発動したのだとすぐにわかった。


(あの光が安全な場所まで戻してくれたのかな)


 先程までの出来事を整理していると、バートンが安堵のため息をついた。


「少し激務だったな。だがもう仕事は終わりだから、安心しなさい」

(……仕事)


 バートンの言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が過った。そして、手元を見れば持っていないはずのスケッチブックを持っていることに気が付いた。


(……何かがおかしい)


 そう思うと、恐る恐るバートンに不自然にならないように疑問を尋ねようと、手を動かした。


『午後からは何かありますか?』

「あぁ。大神官様がいらっしゃる」

(ルキウスが……?)


 バートンの態度には違和感しかなかった。私の記憶の中に映る最後のバートンは、ルキウスに対する不信感を露にしていたのだ。


 そんな人の態度とは思えない、まるで大神官を敬うような()()()()()の様子。


 心に引っ掛かる理由を探そうと手を動かす。


『何用でしょうか』

「何って……ルミエーラ、大神官様は毎年しっかりと祝いにきていただろう」

(え……)


 バートンは間髪いれずに続けた。


「ルミエーラの誕生日には」

(……あぁ、最悪だ)


 その言葉は、今日が私の生誕祭だと伝えていることが明らかだった。


 ーー戻ってきてしまった、生誕祭の日に。


 あの日助けてくれたレビノレアの力の反動か、はたまたサミュエルによった意志かはわからない。けど、再び戻ってきてしまった、これは確実だった。


(……終わらせようと思ってたけど、少し見通しが甘かったな)


 何せ祝祭前日に、サミュエルに抗議しに行ったのだから。


(今回は、もっと早くから動かないと)


 思っているよりも落ち込むことはなかった。私にとって回帰は何度も経験したことなのが、大きい理由かもしれない。だから、そこまで深く気にせずに切り替えることにした。


(どうやら生誕祭午前の部は終わったみたい)


 回帰したてだからか、記憶がおぼろげでハッキリしない。その上何度も繰り返された記憶が邪魔をして、今回の記憶が上手く抽出されない。


 毎回そうだが、回帰したての頃は記憶がハッキリしないのだ。時間が経つことで、何とか記憶を整理して、状況を理解するのがお決まりの流れだった。


(えぇと……そしたら、この後アルフォンスと再会するのよね)


 果たしてアルフォンスが私のことを覚えているかはわからないが。


(……生きていてくれるなら。それだけでいい)


 アルフォンスに会える、彼が傍にいてくれる。私にとってはそれだけで十分だったから。

 ぎゅっと胸の前で服を掴むと、本音を心の中で吐露した。


(でもやっぱり……忘れられるのは寂しいかな)


 欲張れば、覚えていてほしいというのが本心だった。


「さてと……ルミエーラ。大神官様がお越しになるまでは少し時間があるだろう。ゆっくり休みなさい」 

(……あれ、護衛騎士の選定はルキウスに会ってからだっけな)


 ぼんやりとしている記憶を何とかたどりながらも、コクりと頷いた。


「ん? 何だ?」


 そんな中、部屋がノックされた。バートンが扉の方へ向かうと、私はそっと視線を向けた。


「どうした?」

「神官長様、大神官様がお越しです」

「大神官様が! だ、大神官様!!」

 

 どうやら早めに到着したルキウスが、わざわざバートンの執務室を訪れたようだ。


(……)


 今まで、そんなことがあっただろうか。


 そんな違和感に襲われながらも、私からは見えない扉の向こうには大神官がいるので、挨拶に備えて立ち上がった。


「はい、ルミエーラならここに。中に入られますか? ど、どうぞ」


 困惑しながらもバートンは部屋の中へと案内した。大神官が踏み入れたその瞬間、私は背筋が凍った。


(ーー!!)


 目を見開きながら、大神官を凝視する。

 そこにいた大神官は、ルキウスではなかった。


「変わりないか? 聖女よ」

(サミュエル!!)




 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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