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57.揺るがない決意



 レビノレアといる空間から意識を教会へと戻された。目を開けずとも、感覚で礼拝堂に着いたのだとわかる。


(……戻ってきた)


 段々と体の感覚が鮮明になっていくものの、まだ目を開けることはできない。確か神像に向けて真剣に祈りを捧げた結果、倒れ込んだはず。その記憶は恐らく正しく、感覚的には自身の体は横たわっていた。


(……でも何か不思議な感触?)


 それは決して冷たい床ではなく、温かな体温があった。感覚を確かめたくて、動こうとするものの、まだ指先しか動かない。


「ルミエーラ様……?」

(アルフォンス……! すぐ近くにいるんだ)


 声の距離からはすぐ傍にいることがわかったが、確認しようにも目を開けられない。


(う……早く開いてほしい)


 その願いが届いたのかは定かではないものの、アルフォンスの不安げな声が響く中、ようやく目が開いてきた。


(……?)


 うっすらと目を開ければ、温かな感触の正体がわかった。私はアルフォンスの膝に頭を乗っけて横になっていたのだ。


(……ありがとう、アルフォンス)


 アルフォンスが私の動いた手の方に視線を向けている隙に、彼の顔をそっと見上げていた。ぼんやりと目を開けていけば、こちらに気が付いたアルフォンスと目があった。


「ルミエーラ様……!」

(ただいま)


 小さく微笑むと、安堵の笑みが返ってきた。段々体の力が戻ってくると、ゆっくりと体を起こし始めた。


「お怪我はありませんか?」

(うん、大丈夫)


 その問いかけに頷けば、教会内のステンドグラスから朝日が差し込んでくるのがわかった。


(……もう、朝?)


 神像の前にいた時は確かに真夜中だった。慌ててアルフォンスに尋ねようとすれば、いつものように聞く前に答えが返ってきた。


「ルミエーラ様は何時間もお眠りになられていました。呼吸をされていたので、最悪の事態ではないことはわかったのですが……それでも不安で」

(……ごめんね)


 私が空間にいる間、ひんやりとした空気の中一人で孤独に待っていたのだ。それが途端に申し訳なくなって、ゆっくりとアルフォンスを抱き締めた。


「ルミエーラ様……」

(待たせてごめん。でも、その分しっかりと情報はもらってきたから)


 ぎゅっと回した腕に力を入れながら、謝罪を唱えた。一人でいて冷えきったアルフォンスの心を温めるため、少しの間そのままでいた。


「……ありがとうございます、ルミエーラ様」

(ううん、私の方こそありがとう)


 アルフォンスの声色が明るく戻ったことを確かめると、私はそっと体を離した。


「……何があったのか、お聞きしても良いですか?」

(うん。できる限り正確に伝えるから)


 さすがにこの情報量を指で書いて伝えるのは無理があったので、二人で仕事部屋に移動した。そこにある紙とペンを使って、レビノレアと会ったことと教えてもらったことを次々に書いていった。 


「……つまり、ルミエーラ様はもう、神を嫌ってはいないのですね?」

『嫌う理由がなくなってしまったもの』

「お二人の関係が修復されたようで何よりです」

『そうだね』


 考えてみれば、レビノレアという神を今まで何も知らなかったのだとわかった。知らずに嫌っていたことに対する申し訳なさもあったが、それくらいは許してほしいという思いの方が大きかった。


「……それで。回帰を終わらせるには、前大神官様を止めるしかないということですね」

(そう)


 頷きながら手を動かすと、私の心境を語った。


『まずはサミュエル様がどうして回帰をしているのか、突き止めたいの。何も知らずに止めろといって説得できる相手ではないから』

「そうですね。本人に直接聞くのが最も早い方法ですが、取り敢えず調べてみます……といってもかなり時間がありませんね」

(そうなんだよね……)


 ここまで情報がわかって、やるべきことも整理できていても、私達には圧倒的に時間が足りなかった。


(祝祭まであと四日……ううん、三日しかない)


 私達が何もできなければ、祝祭の朝には、また回帰が始まってしまう。それ故に、私達に残された時間はかなり少ない。


(こればかりはレビノレアでもわからないと言っていた……最悪、アルフォンスの言う通りサミュエル本人に、直接聞かなくてはならないかもしれない)


 教えてくれるとは限らないが、それでも引き出すほかない。


『この前の話』

「前大神官様に会いに行くかどうかという話ですね」 


 そう、と頷きながら答えを書いた。


『会いに行こう。時間がない今、本人に聞くしかできないと思うから』

「……危険です。以前は、前大神官様に手がかりがあると思ってお誘いいたしました。しかし、彼が今、神に等しい力を持っているなら、むやみに近付くことはーー」


 パシッと彼のアルフォンスの手首を掴むと、私は首を横に振った。


(でも、行かないと。答えを知らなければ、止めることもできないから)


 全てはこのループを止めるために。強い意志の眼差しをアルフォンスに向ければ、彼は一瞬困った表情を見せながら、目を閉じると、決意を固めた。


「……ルミエーラ様がそこまで仰るのなら、これ以上止めることはできませんね。……必ずや守り抜きます」

(ありがとう。……でも、絶対殺させはしないから)


 感謝の裏に強い思いを秘めながら、笑みを浮かべるのだった。




 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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