42.祈りという名の報告
無事に朝の祈りの時間に間に合った。
いつものように、祈りを捧げる。といっても今日は無感情ではなく、報告を兼ねて語りかけてみる。
(レビノレア……私は昨日、貴方の本拠地であろう神殿に行ってきましたよ。神像には会いに行きませんでしたけどね。……いつか私の力が、本当に祝福と言えるようになったその時には、会いに行くかもしれませんね)
当然返事はないものの、私はそれで満足だった。何気ない、けど本心からの思いを心の中で珍しく吐露することができた。
お祈りが終わると、私はディートリヒ卿と二人バートンの執務室に呼び出された。
「ルミエーラ。体調は問題ないのか」
『大丈夫です』
「ならよかった。今日の仕事は無理をしなくて良いからな」
『ありがとうございます』
日常用のスケッチブックを駆使してバートンとの会話をこなしていく。
バートンの様子からは、私とディートリヒ卿が昨日いなかったことは知られていないようで、作戦は上手く行ったようだった。
どことなく安堵のため息をこぼした。
教会に到着してから、休む間もなく動いていたので、正直疲労が負担になるほどに気になり始めていた。
(でも、馬を走らせ続けてくれたディートリヒ卿は一睡もしてないのだから、私が眠くなるのはよくないな)
ディートリヒ卿は、寝ていないのが嘘のように、いつも通りの身のこなしで問題なさげに護衛として役割を果たそうとしていた。
今日の仕事は、幸いにも出発前に溜め込んだものがあるため、仕事部屋で二人して休むことができそうだった。
(頑張って追い込んでおいてよかった……)
安堵するのも束の間で、バートンが気遣う言葉を必要以上にかける理由を語った。
「もうすぐ我らが仕える神、レビノレア様の生誕を祝う祝祭だろう」
(祝祭……そうだった)
祝祭は毎年の恒例行事ではあるものの、聖女が特別な役目を果たすものではなかった。本来であれば、大神官と共に神殿にお祝いと感謝の言葉を伝えなくてはならない。
しかし、私を嫌う神殿の者達からすれば「お飾りにその資格はない」とのことで、私が神殿に来るのを酷く嫌っていた。
(にもかかわらず、行ったんだよな……神殿に)
もし誰かに知られようものなら、とんでもない勢いで批判を食らうかもしれない。だが少なくとも、神殿に潜り込んだ最中誰かに捕まるということはなかった。
(気付かれるとしてもルキウスなら……大事にはしない、はず)
だからといって不安は消えることなく、むしろ押し寄せる一方なのだが、払拭する方法はないと思う。
(これくらいなら我慢できる。なんてったって、得られた情報が私にとっては大きかったから)
無意識に振り返っていたが、バートンの言葉が私を現実に引き戻す。
「祝祭といっても主催は神殿で、我ら教会も間接的に祝うだけで、毎年特別な仕事を任されることはなかったな」
(うんうん)
そうなのだ。神殿の一部によく思われてないこともあって、私達はお祝いの言葉を紙に書いて送るだけ。神に対して、この方が失礼極まりないのだが、一部の人間は私が神殿の神像に近付くことの方が許せないらしい。
「なんだが、今年は何かしらの仕事があると聞いている」
(…………え?)
私は思わず、目をパチパチとさせてしまった。それほどまでにバートンの言葉は理解ができず、予想だにしなかった話だったのだ。
(ど、どういうこと!?)
思考が動き出すと、慌てて文字を書く。
『何かしらってなんなんですか』
「それがわからないのだよ。神殿に問い返しても、お飾り聖女にも仕事があると言われるだけでな……。今までこんなことはなかったんだがな。私も疑問がつきないんだ」
あまりにも急すぎる状況に、何一つ神殿の意図がわからなかった。
「もしかしたら、ルミエーラが成人したから、節目として何かしてほしいのかもしれないな」
(私の成人とレビノレアって別に関係ないと思うのだけど……)
一瞬、成人しても何の力も発現しないことを咎められて聖女を解雇される絵が浮かんだ。
(……その場合、偽物を聖女としたことで、神殿も泥を被らないといけない。それが嫌で何年もお飾りにしたんだから、さすがにないか)
悩んでも結局ピンとくる答えにはたどり着けなかった。
「まぁとにかく。一ヶ月後の祝祭に備えて、無理はしないでくれ。そう言う話だ」
『わかりました』
話に一区切りがつくと、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで、執務室の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
(……!)
入ってきたのは、ディートリヒ卿の話ではまだ神殿にいるはずのソティカだった。
「おぉ、どうしたんだ」
「大神官様が急ぎの用事で訪問されました」
「だ、大神官様が!?」
(思ってたより来るのが早いわね)
そう感じているのは恐らくディートリヒ卿も同じだが、ソティカに悟られまいと動じることなく、いつもと変わらないような表情で彼女を見つめる。
これが駆け引きなのかはわからないが、ソティカもふんわりと微笑みながら、用件を告げた。
「至急聖女様と、護衛騎士様。お二方をお呼びです」
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