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41.騎士の独断と聖女の心



 どれだけの速さで馬を走らせたのはわからなかったが、気が付けば教会の前へと到着していた。


(……あれ、着いた?)

「ルミエーラ様、起きましたか?」


 ぼんやりと目蓋を開けると、優しく温かな微笑みが真っ先に視界に入った。その笑みに不思議と癒されながらも、意識がハッキリとしていく。


 すると、ディートリヒ卿が私を力強く腕の中に収めていることに気が付いた。


(…………!!)


 穏やかな心情から恥ずかしい感情へ一変すると、勢いよく飛び起きた。馬が止まっていたこともあってか、その反動で馬から下りてしまう。


「……お元気そうでなによりです」

(……げ、元気です)


 突然下りたことが驚いたせいか、一瞬ディートリヒ卿から暗い雰囲気が見えたものの、すぐさま気遣う言葉をもらった。


 苦笑いを浮かべながら周囲を見渡すと、日が昇りそうだった。


「始業までには間に合いましたね」

(……そうだ。今日はさすがに朝の祈りの時間を無視できない)


 昨日は体調不良で欠席をしたわけだが、聖女が連日祈りを捧げないのはさすがにバートンが許さない。それ故に、今日の朝に戻ってくることが目標だったが、無事に間に合ったようだった。


 それを可能にしたディートリヒ卿に、すぐに言葉を伝えようとメモ帳を取り出そうとポケットに手を入れた。


(……あれ?)


 ない。


 常備しておいたはずの、メモ帳が。


 気のせいかと思って今度は肩掛けのカバンを覗くものの、中に望みのものは見当たらない。


(……ない、ない)


 メモ帳がないという事実が、ある懸念へと繋がる。


(もしかして……神殿で落とした?)


 その瞬間、焦りが増してパニック状態になってしまった。


「ルミエーラ様」

(どうしよう……! 本当に神殿に落としていたとしたら、ルキウスに行ったことがバレてーー)

「ルミエーラ様の懸念は、不必要かもしれないです」

(……え?)


 ディートリヒ卿の突然すぎる言葉に驚いていると、いつの間にか馬から下りた彼と向き合っていた。


「実は、結局大神官様とのやり取りの方の手紙に細工をしました」

(!!)

「申し訳ありません。ルミエーラ様を裏切るような形になってしまいました。ですが、確実な方法を取らざるを得なかったこで」

(…………)


 ディートリヒ卿の言い分がわからない訳ではなかった。ただ、裏切られたと感じるのも事実なので、ほんの少しだけ胸に穴が空いてしまった気がした。


「ですので、例え何か落とし物をしても問題ありません。そもそも大神官様はこの手紙の違和感から教会に来ることは間違いありませんから」

(確かにその状況なら、ルキウスは必ず来るだろうな……というか気になるのは)


 チラッとバックに目線を移してから、再びディートリヒ卿の方へ目線を戻した。 


(お、落としたってどうしてわかったの……?)

 

 疑問符を浮かべていると、ディートリヒ卿は柔らかな笑みを浮かべて告げた。


「ちなみにルミエーラ様。反対のポケットはご覧になられましたか?」

(反対の……?)


 メモ帳を入れていたと思っていたポケットとは逆のポケットに手をいれると、そこには何枚かの紙がある感触があった。


 すぐさま取り出して中身を確認すると、私の不安と懸念は薄まることになる。


(えっ、これって!)


 そこには、神殿で記したはずの紙のページが何枚か破かれてあった。どういうことかわからず、反射的にディートリヒ卿に説明を求める視線を向けた。


「万が一を考えて、ルミエーラ様が記した重要なページは、勝手ながら取っておいたんです。不躾な行動にはなりますが、念には念を入れた結果のものになります」

(……)


 初めて、ディートリヒ卿の手のひらに力が入るところを見た気がする。恐らくそれは、私が一連の行動をどう思うか見越してのものだったのだろう。


 悲しげな表情、苦しそうな言葉の選び方と手のひらを見ると、一概に責める気持ちにはならはかった。


 その瞬間、私はディートリヒ卿の強く握りしめた手のひらに触れた。


「ルミエーラ様……?」


 無理矢理拳の状態から、手のひらをひらかせると、その手を紙代わりにして指で文字を記していった。


「私は……怒って……います?」

(はい。怒ってます)


 その確認に頷くと、続きを書いた。


「けど、許します」

(……裏切られたという感情が消え去るわけではないけど、彼の行動の全ては、結局は私を助けてくれたものだから)


 小さく笑みをこぼすと、私は感謝を伝えた。


(だから、ありがとうございます。破ってくれたことにも、感謝を伝えたいです)


 メモ帳という個人的なものを破られれば、気分を害する人間ももちろんいるだろう。けれども今回は特殊な状況な上に、ディートリヒ卿がわざと嫌がらせをするために破るような人間ではないことを、私はよく知っているから。


 その旨を伝えながら、もう一度感謝を指で伝えれば、私はディートリヒ卿の胸の中に強く引き寄せられた。


「……ありがとうございます」

(私の方こそ、ですよ)


 今度は胸の高鳴りよりも、胸が温かなる感覚の方が強かったのだった。


 



 大変申し訳ございません。明日、月曜日の更新をお休みいたします。次回更新は火曜日となります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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