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32.神殿への道とあふれる感情



 神殿へ出発する当日。


 私はディートリヒ卿が用意した侍女に挨拶をして、彼と馬に乗ることにした。


 髪色を隠すためにローブを着ているが、気温は暑すぎないため苦ではなかった。


 肩掛けのバックに中くらいのスケッチブックを入れ、手元にはそれよりも小さいメモ帳があり、馬に乗る前に一つ気になることを尋ねた。


『侍女さんとソティカは面識があるんですか?』


 思えば、ソティカが手紙を読んで実家に帰るとして、私という特殊な存在を他人に任せるのかと疑問に思っていた。喋れない問題は基本的に隠さなければいけないものだから。


「いえ。ですがソティカさんに徹底した業務内容を伝えたところ、我が家の侍女が採用されました」


 話によると、代わりのお世話係といっても、常に聖女の傍にいるのではなく、必要最低限の世話をすることを提示したという。


「ルミエーラ様はとても繊細で人見知りという設定にし、関わらせない方向のお世話方法を取ることにしました」

(……そういえば、ソティカに身支度は自分でできるのか聞かれたけど、そういうことだったのか)


 密接な距離になってしまう支度だけは、私が自分でやることを。これらを条件に、ディートリヒ卿がソティカを説得したのだという。その上、バートンもソティカが長らく休んでいないことを知っていたから、休暇の後押しをしたようだ。


 何はともあれ、ソティカが無事教会を空けてくれたので、私達も急いで神殿に向かわなくてはならない。


「すみません。本来なら我が家の馬車で送迎するべきなのですが、それだと目立ってしまうので……。家紋を外した馬車も考えたのですが、検問に引っ掛かったり、混んでる時が厄介ですので」


 ディートリヒ卿の意見は真っ当で、今回の神殿行きは急を要する。できるだけソティカが教会に戻ってくるまでに、私達のほうが先に帰らなくてはならないから。


「馬に乗るのは初めてですよね?」

(初めてです)


 こくりと頷いて馬を見た。


(……大きい)

「触ってみますか?」


 ディートリヒ卿の提案を受けると、そっと手を伸ばしてみた。暴れる様子は全くなく、静かに撫でさせてくれた。


(……凄い、この子良い子だ)


 自然と笑みをこぼしながら、今日は神殿までお願いします、と内心で挨拶をするのだった。


「では、乗せますね。お体失礼します」

(わっ!)


 一人で乗るのは難しかったので、ディートリヒ卿にお願いして乗せてもらうと、その後すぐに彼も後方に乗った。


「では急ぎましょうか。ルミエーラ様が初めて乗られる分、最初はゆっくりの速度で行きますので」

(お願いしますっ)


 こうして私達は、教会を出発するのだった。


(わぁぁ……!!)


 別棟の出入口から外に出ると、そこはいつも窓から眺める景色が広がっていた。その景色は、見慣れたはずなのに、何故か胸がじーんとして、感動していた。


(そっか、こんなに近くで見るの……初めてなんだ)


 窓から見える景色が劣るわけではないけど、これだけ至近距離で見るとより美しく感じられるものだと思う。


「ルミエーラ様が……最後に教会の外に出たのは、いつなのでしょうか」

(最後……)


 最後。それはきっと、神殿から教会に移動したあの時。あれ以来、私はずっと教会の中に居続けたから。出ることはきっと許されなかったけど、それ以前に私が出ようと思わなかった。


 そう思うと、首を横に振った。


「……そうなんですね」


 後ろから、悲しげな声色がそっと聞こえた。

 確かに考えてみれば、あまり良い出来事ではないとは思う。それでも、私からすればそこまで自分を不憫に感じなかった。


(それに、今まで見なかった分、この瞬間が凄く楽しい。……楽しいんだけど、笑顔だけで伝わるかな?)


 乗馬中なので、さすがに物を書くことはできない。馬の動きがゆっくりになったタイミングを見計らって、振り向いて笑顔を見せた。それを見た瞬間、ディートリヒ卿は優しく尋ねた。


「……いらない心配、ですか?」

(うんうん)


 これはディートリヒ卿を気遣う笑みじゃなくて、本当に本心だから。そう思うと、自然と私の表情や雰囲気は明るくなっていった。


 その様子を見たからか、ディートリヒ卿も段々と温かな声色へと変化していった。


 初めて本格的に見る街並みや、オルローテ王国という場所が不思議で、面白くて、飽きることは全くなかった。


「少しだけ休憩しましょうか」

(そうしましょう)


 ディートリヒ卿曰く、神殿までの道のりは半分以上越えたという。そのタイミングで、私達はある町で休憩することにした。


「後もう少しです。飲み物をすぐそこの出店から買ってきます」

(じゃあここから絶対動きませんね!)


 なんとなく私の思いは伝わったようで、ディートリヒ卿はいつもの爽やかな笑みを浮かべると、颯爽と出店に向かった。


 すれ違うように、三人の子ども達が走ってくる。


「おい! 早く遊ぼうぜ!!」

「えぇ、まだ遊ぶの?」

「いいじゃん。俺まだ元気だよ?」

(確かに。元気そうだね)

 

 なにも考えずに、ただその様子を眺めていたーーはずだった。


「俺は遊ぶのは疲れた!」

(あ……)


 忘れていた記憶。


 呼び起こされることは決してないと、避けて遠ざけて、仕舞い込んだはずの記憶。それが、今、鮮明に思い出されて。


(その言葉は……駄目……)


 鼓動が早まって、胸が痛くなって、息ができなくなってしまった。




 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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