21.怪訝と好奇心
第二王子とのお見合い当日。
目覚めは最悪なもので、精神的疲労を感じながら目を開けた。というのも、既に夢の中でお見合いをしたのである。
(うぅ……終わったと思ったのに夢だったなんて)
なんとかなったと安心したのは、全部幻だったのだ。その事実が虚しくて、気分的に落ち込んでしまう。
(なんだか、無駄に労力を削がれた気分)
暗くなる気分と気持ちをどうにかしながら起き上がる。そしてお見合いに備えて準備を始めるのだった。
「あら、聖女様。緊張なさってますか?」
(緊張はしてないけど、そういうことにしておこう)
今暗い表情をしていると、そう捉えられても仕方ないだろうなぁと思いながら、ソティカになんとも言えない笑みを向けた。
「大丈夫ですよ。いざとなれば大神官様の代わりに神官長様がどうにかしてくれるようですので」
(バートンが? ……あぁ、そうか。ルキウスに頼まれたんだろうな)
それを聞くと、少しだけ気分がましになってきた。そのおかげで少しだけ表情にも余裕がでてきた。
「できました! とってもお綺麗ですわ聖女様……!!」
(こんなに気合いいれなくても……)
生誕祭の時と比べて遜色ないほど、今日の衣装は華やかなものだった。その上、ソティカによって所々お化粧や髪のアレンジも入って、より素敵な仕上がりになった。
手元にあった紙に言葉を記す。
『ありがとう、ソティカ。でもやりすぎじゃない?』
「ご安心ください。大神官様より秘密の装備を預かっております」
(秘密の装備?)
初めて聞く言葉に首をかしげると、ソティカは気合いの入った勢いでそれを取り出した。
「これです!」
(……ヴェール?)
テッテレーという効果音が聞こえてきそうな紹介をされると、ソティカは再び私の後ろに回ってそれをかけた。
「大神官様曰く、病弱設定の演出だと」
(なるほど……?)
ヴェールを被った自分を鏡で見ると、心なしか儚さが増した気がする。確かに効果はあるなと感じて、ソティカにお礼を告げた。
(この作戦が上手く行ったら、後でルキウス・ブラウンにもお礼を言おう)
あくまでも上手く行けばの話だが。
準備を終えると、ソティカに見送られて部屋を出た。
「ルミエーラ様、ご準備ーー!!」
部屋の前で待機していたディートリヒ卿は、目が合うと固まってしまった。
(あれ、大丈夫かな。……私もしかしてどこか変なのかな?)
そんな不安を覚えると、即座に否定するようにディートリヒ卿は褒めてくれた。
「とても……お似合いです。ルミエーラ様の美しさが全面的に出されていますね。ヴェールでは隠しきれないほどに」
(……やっぱりこの顔が好きなのかしら?)
そんな邪推をしながら、感謝を伝えるために笑顔で会釈をした。
今日は私のことを何も知らない第二王子が来るため、スケッチブック及びメモ帳は決して持ち出さないと決めた。そのため、今日は細かい会話をすることは諦めている。
ディートリヒ卿に、礼拝堂の方を指して行く旨を伝えた。
「向かいましょう」
意志疎通が出きると、私達は歩き始めた。
神殿と自身の未来がかかったこのお見合いを、どうにか無難に終われるよう何度もシュミレーションしてきた。それでも、不安になってしまうというもの。
(あぁ……どうして夢だったんだろう)
朝の落ち込みを引きずっていると、ディートリヒ卿がゆっくりと口を開いた。
「何か、がっかりするような事がありましたか?」
(……なんでわかるんだろう。ソティカみたいに緊張しているとも見えるのに。……勘かな?)
少し驚いて立ち止まってディートリヒ卿の顔を見れば、そこには心配だと言わんばかりの表情になった彼がいた。じっと見つめながら本意を探る。
「元気がないように見えたのですが、私の勘違いでしたかね」
(……なんでわかるのかと問い詰めたいところだけど、あいにく今は聞く手段がないから)
取り敢えず、心配してくれた気持ちに対して感謝を表現した。
「大丈夫ですか?」
(わからないけど。……いざとなったら、バートンがどうにかしてくれるから。多分?)
少し間を空けてから笑みを作って首をかしげると、不思議と気持ちが伝わった。
「多分、ですか……」
(うわっ、凄い)
もはやある種の才能なのではと思い始め、怪しむな感情は薄れていった。
「……ルミエーラ様、これはただの一騎士による呟きです」
(なんだろう)
励ましてくれようとしているのだとわかり、すぐに頷いた。
「ルミエーラ様ががっかりするような出来事は、実はそうでもないのかもしれません」
(……どういうこと?)
「意外と自分が暗い印象を受けた出来事に、解決の鍵があることもありますので。どうかその出来事が、ルミエーラ様を傷付けるだけでなく、道しるべになることを祈っております」
(道しるべ……)
その言葉は不思議と落ち込む気持ちを引き上げてくれる力があった。
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