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18.勝手に追加された設定




 王国の第一王子は王太子として次期国王に内定しており、婚約者もかなり前に決まっていた。第三王子は私と婚約するにはまだ少し幼く、確か年齢は十二歳だったはず。


 第二王子。年齢は十八歳。私はてっきり、彼にも既に婚約者がいると思っていた。非常に残念なことに、その座は空いているらしい。


「最初は当然断ったさ。うちの聖女は、まだどこかに出せるほどの人材じゃないって」


 ルキウスの落ち込む声を聞くと、彼はなんとか阻止をしようと頑張ったことが伝わってきた。


「王家としても印象あげるために、を聖女は手元に置きたいんだろうな。前任の大神官の話を出されて引くしかなかった。二十歳になったら解禁する話だろうってな」

(……それを言われると、返す言葉がないものね)


 話を聞きながら、手を放してしまったスケッチブックを拾い上げる。


「近い内に来ると言っただろう? 生誕祭の後は王都や王城に行く用事があったんだ。その帰りにふらっとよるつもりだつまたのに……すまないな、悪い報せを持ってくることになって」


 なにもルキウスが全て悪いわけではない。そう思うと、首を横に振った。


「そういうわけで……ルミエーラ。お前に難題を押し付ける」

(難題?)

「絶対に、第二王子に喋れないことを悟られるな」

(いやそれは無理じゃないかな!)

 

 お見合いとは、当事者二人で会ってお互いを知るためのもの。それなのに、喋らないのはもちろん、筆談もするなとルキウスは言うのだ。


「お前が喋れないことはまだ王家に伝えていない。神殿中には、それがバレれば弱みを握られると嘆く者もいてな。けど、その意見は正しい」

(……神殿と王家は仲がいいんじゃなかったの)


 てっきり私は、王家とお見合いするのをしぶしぶ受け入れたのは、私の背景を説明済みで、筆談可能になったからだと思っていた。


「王家と神殿の仲は良好といえど、相手に軽々と弱みを見せる訳にはいかない」

(まぁ、ルキウスの言いたいことはわかる)


 聖女が喋れないことに加えて、その秘密を長年神殿が隠してきたという事実は、確かに知られると危うい。


「だからな。絶対にバレないでくれ。これはルミエーラの立ち回り次第で決まるんだ」


 その思いは理解できるが、私にどうしろと言うのか。そう思いながらペンを持った。


『バレないようにしたいですけれど、厳しくないでしょうか』

「とにかく体調の悪いフリをしろ。国王に断る時、うちのルミエーラは酷く病弱で長時間姿を見せられないほどだと言っておいたからな」

(勝手に設定ができてるんですけど) 


 だがその設定は、バートンのおかげもあって筋は通る。私が教会で長時間姿を見せていないのは事実だから。


 喋れない以外は至って健康そのものなのだが、お見合いの場を問題なく終わらせるためには、その設定に乗っかるしかない。


『わかりました、頑張ります』

「頼んだぞ」

(さすがに礼節は守らないとと思ったけど、やっぱり無理かな。会話が始まった瞬間私は詰むだろうから)


 とにかくバレないことを第一にするようにと何度も言われ続けた。うんうんと真剣に見えるように頷きながら、同じ話は聞き流していた。


 ルキウスの話が終わりかけたところで、私は手を動かした。


『それで、日程はいつですか』

「三日後だ。急で悪いな。着ていく服装は用意してあるから、頑張ってくれ」

(ご丁寧にありがとうございます)


 お見合い自体は、第二王子と聖女の安全面どちらをとるかとなった時、ルキウスが譲らなかったおかげで、教会で行うことになった。


 ただそのせいで日程の選択権を王家に取られ、恐らくわざとルキウスが教会に来れない日にされたと本人は言っていた。


「前任の大神官は、ルミエーラが二十歳になったら王家との婚約を結ぶことについて、前向きに考えていたらしいからな。そうでない俺は、王家にとっては邪魔なんだろう」

(確かに。普段はともかく、婚約に関してはルキウスは心強いもんな)


 少し残念に思いながらも、なおさら当日は自分でどうにかしなければと、気合いをいれるのだった。


 お見合いの話が一区切りつき、これで呼び出しも終わったかと思えば恒例の話が始まった。


「……ちなみにだが。何か目覚めたか?」

(相変わらずだな、この男)


 内心ため息をつきながら、いつも通りのページまでめくろうとする。一瞬今朝の夢に重なる出来事が頭を過ったが、ただの偶然とすぐさま振り払った。


『目覚めてないです』

「……ルミエーラ」

(珍しく引き下がらない……?)


 いつもなら、そうかと言って終わるところなのだが、今回はなぜか話を続けようとした。


「もしかして気が付いてないだけじゃないか? 二十歳になって時間が経ったんだ。何か力が芽生えてもおかしくないだろう。……そうだ、少し祈ってみろ」

(……いつに増してしつこい)


 スケッチブックを押し付ける気力さえなくすほど、なぜかルキウスの目は真剣だった。それをじっと白い目で見る。


「祈れば神が答えてくれるかもしれない。これだけ神聖力があるんだから。むしろ頼むのもいいかもしれないな、うん」

(…………はぁ)


 いつにまして饒舌に語り始めるルキウスを横に、文字を書き起こした。


「ただ祈るだけじゃ駄目だぞ。心の底から神への敬意を表すんだ。……ここで祈っても仕方ないか。神により届くように神像にーー」


 そして、本人が話に夢中になっているのを無視して立ち上がる。


「ルミエーラ? 神像に行くのか?」

『目覚めてないので、これで失礼します。本日はありがとうございました』

「え」


 ペコリと頭を下げて最低限の礼節を守ると、にっこりと笑顔を貼り付けたまま、扉を開けて、部屋を後にするのだった。



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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