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11.日常用のスケッチブック




 これで私の生誕祭は終了した。おめでたい日だというのに、労働をさせられた気分になるのは毎年同じことだった。


「ルミエーラ」

(まだ何かあるんですか)


 面倒に思いながら隣に立つバートンの方を見れば、用件を告げた。


「ご苦労だった。今日はもう休みなさい。明日だが、一日休みとしよう」

(え、本当に!)


 バートンからは滅多に聞かない休暇を意味する言葉が出てくると、気分が上がり始める。どうやら明日は、教会全体を休みにするようで、神官見習い達も仕事がないようだった。


「ただ、一つだけ。明日はディートリヒ卿に教会内を案内するといい。これから護衛騎士としてだが、教会で働くのも同然。少々大変だとは思うが任せたぞ」

(私の護衛騎士だしな……他の人がやるのもおかしな話よね)


 それくらいなら問題ないと判断し、バートンに了承の意味で頷いた。明日の仕事を引き受けると、ようやく私は自室に戻ることができるのだった。


 部屋までディートリヒ卿に送ってもらうと、入り口で感謝のお辞儀をしてから自室へと入っていった。


「おかえりなさいませ、聖女様!」

『ただいま!』


 満面の笑みでスケッチブックを見せると、ソティカはすぐに装飾を取り始めてくれた。護衛騎士が決まったことを書いて見せる。


「護衛騎士……アルフォンス・ディートリヒ卿ですか」

(知ってるのかな)

「とても優秀な方と聞いたことがあります。清廉潔白で真面目な方、と。良い方を護衛になされましたね。さすがです」

(おっ。これは当たりくじを引けたのでは……?)


 嬉しい情報を耳にすると、笑顔はさらに深まっていった。装飾を取り、着替えも済ませると、ソティカは湯浴みと夕食の準備を続けざまにやってくれた。


 もう後は寝るだけの状態になると、やるべきことを思い出した。ソティカは今日使った装飾品と服を片付けに、別の部屋に向かった。


(明日、教会内を案内するのよね。事前に場所を書き込んでおこう)


 ルキウスに使い回したスケッチブックは、事前に自分が何を言うのか予想して準備しておいたものだった。


 私は喋れないという設定なので、時々こうして円滑に会話を行えるように、事前準備をしている。


(……あ。このスケッチブックはもう終わっちゃう。新しいのを用意しないと)


 自室の角にある、机へ向かった。机の上には、今まで自分が使ったスケッチブックと新品のものが分けて置かれていた。


 椅子には座らずに、机の橋に並べられたスケッチブックに手を伸ばす。


(新しいのは……あった)


 スケッチブックだが、普段自室では大きなものを使っている。私が喋れないことがわかっている相手には、大きさは特に気にしない。


 ただ、部屋を出て教会内となると、神官見習いや信者達の目がある。そこではさすがに小さなものを使用している。見られても隠せたり、不思議に感じられないように。


(明日は……神官見習い達もお休みなのよね。それなら大きくていいか)


 そう判断して、大きめのものを取り出した。それと同時に、既に書き込まれているスケッチブックめ用意する。表紙に日常用と書かれているそれは、普段使いしているものだ。

 

(おはようございます、よろしくお願いします、ありがとうございます、ごめんなさい、大丈夫です……)


 事前に作られたスケッチブックなのだが、万能に使えるために何度も使い回していた。


(……あれ? なにこれ)


 ぱらぱらと確認のためにめくっていたのだが、見覚えのない言葉が書かれたページを見つける。


(“どうせ忘れるから気にしないで”)


 何のことだかわからずに、首をこてんと右に傾けた。


(こんなこと書いたっけ。それか誰かに言ったのかな)


 使うとしたら、思い当たるのはソティカしかない。きっと冗談でも言ったのだろう。そう思ってスケッチブックを閉じた。


(よし、書こう!)


 今度は新しいスケッチブックを持って椅子に座った。ペンを手に取ると、教会内にある各所の設備名を書き出していった。


(終わった……眠い)


 パタンとスケッチブックを閉じると、ふらっと立ち上がってベッドに向かった。ゆっくり横になると、明日よりも先の未来について考えた。 


(……神殿、どうやって行こうかな)


 私にとって深刻な問題。

 

 ルキウスには頼れないとわかった今、別の方法を考えなくてはいけなくなった。


 教会に書物がないわけではないが、神に関するものや、いわゆる禁書や持ち出し不可のものは神殿にしかない。


(絶対に……神殿に……答えが)


 眠気に襲われると、まぶたが重くなっていく。


(……協力者……作らなきゃ……)


 ルキウス以外に力になってくれる人物を。神殿に連れていってくれる人材を見つけなくては。


 そう思いながら、意識は静かに消えていくのだった。



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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