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101.反対派の思惑




 神殿に向かう間、色々な不安から解放されたからか私は馬車の中で眠ってしまった。


「……エーラ」

「……?」

「ルミエーラ!」

「!」

(あ…………到着したのね)


 同じ馬車に乗るルキウスが、私を起こしてくれた。アルフォンスは馬を使い、馬車の後を着いてきた。


「ルミエーラ、祝祭は明日から始まる。今日はもう遅い。部屋を用意したからゆっくりと休みなさい」

 

 感謝の気持ちを込めながらお辞儀をしたところで、馬車の扉か開いた。


「ルミエーラ様」


 そこには、無事到着したアルフォンスがいた。彼の手を取りながら馬車を降りると、ルキウスより先に降りてしまったことに気が付いた。


(あっ)


 慌てて後ろを向けば、特に気にすることなく降りてくるルキウスがいた。


「部屋は私付きの神官に案内させる。ディートリヒ卿には待機できる部屋を隣に用意している。万が一に備えてほしい」

「もちろんにございます」

(ありがとうございます)


 今度はアルフォンスも一緒に頭を下げた。


「それとーーっ!!」


 何かを見つけたのか、ルキウスはピタリと固まってしまった。その視線の先である神殿の入り口を見れば、そこには年老いた神官が何人かいた。彼らは品定めをするように私に視線を向けていた。


 すると、ルキウスが小さく呟いた。


「……現聖女反対派だ」

「……なるほど、彼らが」

(あぁ、昔見たことがある。私のことを酷く嫌っていた連中だ)


 私が喋れないと伝えた瞬間、期待の眼差しから軽蔑の眼差しへ変えた者達だった。


「……すまない。避けて通るのも却って目立ってしまう」

(構いませんよ)


 その思いで首を横に振った。


「……ありがとう、ルミエーラ」


 伝わったことに安堵しながらも、私達は神殿の中に入る為に動いた。ルキウスを先頭に歩き出す。


「これはこれは大神官様。お戻りになられましたか」

「……皆様が揃って何かご用でしょうか」

「いやね。久しぶりにお会いする聖女様にご挨拶をと思いましてね」

(……)


 私はただ無表情かつ無言で小さく頭を下げた。


「はっ」


 馬鹿にしたような声が聞こえるが、その瞬間物凄い冷気が後ろから発せられた。


(ア、アルフォンス……!)


 恐る恐る後ろをチラリと見ると、浮かべる笑顔は綺麗なほどに無感情なのに、眼差しからは強力な殺気が放たれていた。

 

 その殺気に神官達が気が付くはずもなく。


「相変わらず、ですね。聖女様」

(……相変わらず無能、って言いたいのかしら)


 含みのある言葉には、私が反応するよりも先にアルフォンスの放つ雰囲気の威力が高まる方が先だった。


(ア、アルフォンス。わかっていると思うけど、手を出しては駄目よ……?)


 内心冷や汗をかきながら、アルフォンスに向けて小さく首を横に振った。そうすると、彼の笑みはますます深まってしまった。


(そ、それは了承の意味よね……?)


 胸の鼓動が高まるのを感じながらも、視線を神官の方に戻した。


「お元気そうで何よりですよ。どうかそのまま、明日も祭場にお越しください」

(……嫌な笑み)


 私に対してよく思っていないのはもちろん、何か企んでいるのは明らかだった。


「お話はそれくらいにしてください。行きますよ、ルミエーラ」

「では、また明日お会いしましょう」


 余裕たっぷりの笑顔を浮かべる神官達とすれ違いながら、私達は神殿の中に入っていった。その時、神官達の一番後ろにいた、ローブを被った人に肩を意図的にぶつけられた。


(なに……?)


 反射的にその人の方を見れば、彼……いや彼女は耳元でささやいた。


「可哀想なお飾り聖女様。それももう終わりですよ」

「……?」


 丁寧にクスリと笑い声まで残しながら、ローブの女性は神官達の後を追っていた。


(…………今の)


 じっとその者を見つめれば、ルキウスから声をかけられた。


「ルミエーラ」

「?」


 振り返れば、申し訳なさそうな表情をするルキウスがいた。


「……何故神殿に来ることになったか、まだ説明していなかったな」

(そういえば……そうでした)

「私の部屋でそれについて話そう」


 というわけで、部屋を移動してルキウスからの話を聞くことになった。


「……さっきのは、反対派が企ててる計画に関係している」

「企ててる計画、ですか」

「あぁ。ルミエーラにぶつかったあのローブの女は、反対派が用意した新たな聖女だ」

「!!」

(新たな聖女……)


 ルキウスは、反対派が長らく私のことを嫌っていたことに加えて今回の企みを祝祭を通じて行おうとしていることまで、全て包み隠さず教えてくれた。


「すまないルミエーラ……どうにかルミエーラが聖女であり続けられるように、私の方でも手立てを考えている」

「……」

「大神官様……」


 ルキウスの声色は真剣そのものだったが、同時にあまり上手く行っていないことまで感じ取れた。


(これは……反対派が容認派を買収した、とかかしら)


 私少し考え込むと、ルキウスに改めて向き合った。


「……最悪の場合は、必ず逃げてくれ。ディートリヒ卿、どうかルミエーラを頼む」


 その言葉に反するように、私はルキウスに伝えた。


「ご安心ください。逃げる必要などありませんから」


 


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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