第7話 不穏な薬草採取
「目的の薬草が生えている場所はこの先だ」
俺はフミカと共にギルドの採取依頼を受けることになった訳だが、まずは初歩の初歩、薬草採取から始めることにした。薬草採取は俺も何度かやったことがある。この辺りにもモンスターはある程度出現するが最低ランクのものがほとんど、まずやられるようなことはない。
とはいえ、危険が全くない訳でもない。非常時にも対応出来るように、街の外に向かう依頼を受ける時は、基本的に2人以上のパーティーが推奨されている。俺のようなサポート職なら尚更だ。……それなのに仲間がいなくなって、俺は今まで雑用係に甘んじていた訳だが。
だが、今日の俺は違う。フミカという仲間がいる。フミカのためにも、滞りなく採取依頼を達成しよう。
「ん? あそこにガサッソがいるな……」
ガサッソとは、体が雑草で覆われている丸い小型のモンスターのことだ。大陸のどこにでも湧くいわゆる雑魚モンスターだ。
数は3体。こっちには全く気付かず、のんきに歩き回っている。フミカに怪我をさせる訳にはいかないからな。ここは慎重に体勢を整えて挑もう。
「フミカ。俺が催眠術で奴らを眠らせるから、その隙に攻撃……」
「えいっ」
「フギャッ!」
「え……?」
俺が作戦を説明しているうちに、フミカに蹴っ飛ばされたガサッソたちは目を回しながら転がっている……。
「え、えっと……フミカ……?」
「あっ! す、すみませんスイマさんっ! トレジャーハンターをやっている時にもガサッソとはよく遭遇していたので、いつものノリでついやっつけちゃいましたっ!」
「いや、やっつけられたんなら良いんだ! あはははは……」
これ、俺必要あるのか……? 力を封じられた状態でも、フミカの戦闘能力はガサッソ3体を上回っている……。俺一人じゃ、催眠術で眠らせながらでも手を焼く数だ。
イラトのパーティーから追放された悪夢が蘇る。フミカからも必要とされないならば、俺はまた雑用係に逆戻りすることになるだろう……。浮かれていた気持ちは、一気に不安に塗り潰されていた。
「薬草はこの先ですよねっ?」
「あ、あぁ。この先だ」
そんな俺の不安を知る由もないフミカは、たまに現れるガサッソを軽快に倒しながら、順調に目的の場所へと突き進む。俺はフミカの後ろをただただ付いて歩いてるだけだ……。
「えいっ! ふぅ……。スイマさん! 安心してくださいっ! モンスターは全部あたしがやっつけるのでっ!」
(全部やっつけられちゃうから安心出来ないんだよ……!)
俺は心の中でそう突っ込む。そうだよな……。トレジャーハンターは、お宝を求めて様々な仕掛けが施された遺跡に潜る。下手をしたら冒険者より危険が付き纏う職業だ。彼女にとって、薬草採取なんかは朝飯前なんだろう。
素直で優しいフミカとこのまま冒険を続けられたら、さぞ楽しいだろう。そんな俺の淡い夢と期待はもう見事に打ち砕かれていた。
……とにかくフミカにまともな収入が入るようになればそれでいい。俺は本来の目的を思い出し、薬草採取をさっさと終わらせようと頭を切り替えた。
「ありましたっ! 薬草です! 良かったぁ……何事もなく辿り着けましたねっ!」
「あぁ。良かった……! じゃあ、俺が薬草を摘んでおくから、フミカはモンスターが来ないか見張っておいてくれ」
「分かりましたっ!」
本来は俺が見張りをするところだろうが、俺よりフミカの方が強い。ここは彼女に任せた方が合理的だ。さて、依頼の分の薬草を摘んでしまおう。
俺は鎌を取り出し、薬草の根元を刈っていく。この感触は何度味わってもなんだか気持ちが良い。俺は腰を屈めながら、俺にお似合いな地味な作業を淡々と進めていく。
「フミカ。異常はないか?」
「はいっ! 敵の気配なし! 平和そのものですっ!」
「よし、じゃあ引き続き頼むぞ」
少しは俺の見せ場も欲しかったが……。なんてくだらないことを考えながら、俺は薬草を刈り終えた。
「ふぅ……。終わったぞ。フミカ、ギルドに戻……」
フミカの方を振り返ると、フミカのすぐ近くに巨大な黒い塊が迫っていた。俺の声に反応して振り返っていたフミカの視界には入っていなかった。なんだあれは。頭が回らない。反応が追い付かない……!
「フミカ! あぶな……」
「えっ……!? きゃああああああっ!!」
巨大な塊はフミカに衝突した。フミカは大きく吹き飛ばされ地面に叩き付けられていた。ようやく頭が目の前の状況を飲み込み始める。
「あれは……ベアーガ……!?」