第5話 すいませんでした
フミカを狙うイラトたちをなんとか撃退することが出来た。さらには、フミカの狼化の力の鎮静化にも成功し、俺はフミカを連れてギルドへと向かった。
フミカの狼化の力がまたいつ暴走するかも分からない。しっかりと事情を説明して、何か打てる対策を探さなくては。
「……という訳なんですけど。ギルドマスター、呪いの方、なんとかなりませんか?」
「うーん……。この古代文字はまだ解読されていないタイプの物だから、呪いを解くのは難しいと思うよ……」
「や、やっぱりそうですよね……」
ギルドマスター。知見の多さと腕っぷしから、まだ若いながらも、数年前からここのギルドの責任者を任されている女性だ。スタイルが良く、その容姿も人気があるようだが。
「そんなに悲観することもないよ。力を抑えることには成功したんだから。私も詳しい人間に話を聞いておくよ」
「……だそうだ。こんな俺にもなんとか出来たんだ。きっと何か良い方法が見つかるさ」
「は、はい! スイマさん! 本当にありがとうございます!」
「ご苦労だったねスイマ。フミカの宿だが、ギルドの宿舎に滞在出来るように手配しておくよ」
「ギルドマスター、ありがとうございます。そんじゃ、俺はこれで……」
「と、ちょっと待ちなよ」
「な、なんですか……?」
クールに立ち去ろうとしていたところを呼び止められ、俺は蹴躓いてしまった。なんなんだ一体……?
「ほら、これ」
「こ、この金は……?」
「イラトたちはさっき依頼の中断を申告しにきた。結果的に、スイマが狼事件の依頼を引き継いだことになる。それなら、お前に報酬を受け取る権利がある」
「あ〜……。ありがたいんですけど、それはフミカに渡してください」
「え……!?」
「だって、狼化に苦しみながらこの街に流れ着いて、今までまともな生活を送れてなかったんですよ。しかも今は肩を怪我している。諸々の費用は必要でしょうから」
「スイマさん……! でも……!」
「フミカ。そういうことなら貰っときなよ。あいつなりにカッコつけてるんだから」
「そういう言い方しないでもらえますか……?」
「スイマさん……。本当に、何から何までありがとうございます……!」
頭を下げるフミカに、俺は落ち着かない右手で頭を掻きながら、クールとはいかなかったが今度こそギルドを後にした。
◇
昨晩、魔力を多く消耗した俺は疲れ果て、俺は昼過ぎまで自宅でぐっすりと眠りこけていた。そんな時、玄関からドアをノックする音が聞こえた。俺は寝起きで半分寝ぼけたままドアを開けた。
「はい……? どなたれす……?」
「ど、どうもこんにちは。フミカです……」
「フ、フミ……!?」
だらしなく玄関に出たことを後悔した……。俺の家を訪ねてきたのはフミカだった。想定外の出来事に、俺は慌てて身なりを整え、咳払いで誤魔化そうとした……。
「えっと……。な、なんで俺の家に……?」
「ギルドマスターに教えてもらいました……」
いや、聞きたかったのはそこじゃなくて、俺になんの用なのかってことなんだが……。
「た、立ち話もなんだから、良かったら上がっていくか……?」
俺の家に女性が訪ねてくるなんてことはまずありえない。テンパった俺は、もう立ち話と家に入れるのとどっちが正解なのか分からなくなっていた……。
「い、いいんですか? では、お邪魔します……」
正解だったのか……? 大丈夫か? 家に入れても……? こ、ここは本人の意思を尊重しよう……! とはいえ、本当にこんな狭くて汚い家に入れていいのか……?
「散らかってて悪いな……。ちょっと疲れて今まで寝てたから……」
「あ……! や、やっぱりあたしのせいで消耗してたんですよね……! すみません! 本当にありがとうございます……!」
「い、いや。雑用とか、いろいろやってたからさ……。気にしなくて大丈夫だから」
女の子に気を遣わせるとはなんたる失態……。これ以上ボロを出す前に、フミカの用件を聞くことにしよう。
「それで、どうしたんだ……? なんで俺の家に?」
「あのう……。実は……」
フミカは言いにくそうに顔を伏せている。なんだ? 俺は何かやらかしたのか……? いや、まさかな……。
「トレジャーハンターのスキルが全部使えなくなってたんです……」
「え……?」
「昨日からトレジャーハンターに必要だったスキル一式、鍵開けやトラップ探知、運の良さなんかも全部、ステータスカードを確認したらゼロになっていて……」
ステータスカードというのは自分の能力値の一覧みたいなものだ。特別なカードに自分の微量の魔力を吸わせると、それぞれの力を数字や文字で確認することが出来る。……それがゼロになったというのは。
「狼の力を封じてもらってから、他の力も全部使えなくなっちゃったみたいで……」
「もしかして……俺のせい?」
「う……」
フミカは答えにくそうに目を逸した。あの目は、お前のせいだと言ってるようなもんだった……。
「そ、それは……どうも……」
「すいませんでしたァッ!!」
俺は渾身の土下座をした。トレジャーハンターにとって必要なスキルを封じてしまった。それはつまり、俺は彼女の仕事を奪ったのと同じだった。