居眠り猫
暗闇の中目を冷ました僕は、大きなあくびをかましたあとで、ゆっくりと首を振ってあたりを見渡した。
そこはとても暗いところだったから、流石のの僕でも目がなれるのにちょっとだけ時間がかかってしまって、それだから僕は一瞬だけ、「ここはどこだ?」なんて間抜けなことを考えてしまった。
しかしその後、すぐに目がなれてくると、僕はやっと、自分の状況を把握することができた。
「ああ、なるほど。そういうことね。僕はまた、やっちまった訳か。」
と、その時僕は自分の足元に転がる食べかけの魚の死体を見ながら思った。
どうやら僕は、またもやこんなところで、迂闊にも居眠りをかましてしまったらしい。
あれだけ気をつけていたというのに、なぜこうも同じ過ちを繰り返してしまうのかと、僕は自分の学習能力のなさを少々恨んだ。
今頃きっと、僕の飼い主である女は、僕の帰りが遅いことに強い怒りを感じていることだろう。
僕はそれからゆっくりと腫れ上がった自分の右足首へと視線を移し、ため息をついた。
この怪我を負わされてからは、僕はこれまで、きちんと決められた時間にあの女の家に戻るように気をつけていたのに、今日はちょっとばかりうっかりしていた。
気をつけていても、やはり体に染み付いた癖というものはなかなか抜けるものではないらしい。
食事をしたあとというのはどうしても体が重くなって、気を抜いたらすぐにでも眠ってしまうくらいには眠たくなってしまうんだよな。
外で食事をするとこういうことになるから、近頃僕は、食事はあの女の家に帰ってからすることにしていたのだけれど、如何せんあの女の出すご飯はとんでもなくまずいものだから、今日はそれがとうとう嫌になって、外で食事を済ませようとしてしまった。
しかしそのせいで、僕はまずい飯を食べること以上に苦い思いを、おそらくこの先しなければならないことになった。
そう思うと気分が沈んで、いっそのこと今日はこの闇に紛れるようにして、このままここで朝まで寝てしまおうかという気分に、その時僕は駆られた。
どうせどっちにしろ、怒られることは確定してるんだ。だったら、今帰って怒られるより、後で帰って怒られる方がいいに決まっている。
そう思い立った僕は、直ぐ様その場にもう一度寝転がって、そのまま深い深い眠りについた。
次に目を覚ましたとき、僕はどうしてか、あの女の家にいた。
はじめのうちは、意味が分からなかったが、賢い僕はその後すぐに自分の置かれた状況を理解した。
なるほどあれはどうやら夢だったようだ。
その証拠に、台所の方から聞こえる女の鼻歌には、全くと言っていいほど怒気が籠もってていない。
それを聞いて僕は、「怒られなくていいんだ、良かった」と、心の底でものすごく安心した。
それから僕はいつも通り、台所の方向に向かって「にゃー」と小さな鳴き声を上げた。
すると、これまたいつも通り、台所の方から「サスケ、起きたのね!」
という女の大きな声が聞こえてきた。
それから女は続けて、「今日も特訓特訓特訓よ〜。ほら、私昨日、あなたのために衣装まで作ってきたのよ。今日の特訓からは、あなたにそれを着て訓練を行ってもらうから。みんなの前で発表するのが、これでもっと楽しみになってきたわ」と言った。
振り返ると、背後の壁に赤とオレンジを基調とした猫用の衣装のようなものが、たしかに引っ掛けられている。胸元のあたりには、「サスケ」という僕の名前がしっかりと記されていて、無駄に作り込みが細かいのが分かる。
それを見た僕は、またまた大きなため息をついた。
というのも、僕は人前に出ることが好きなわけじゃないのに、この女はそんな僕のことを何と、事もあろうに見世物にして金を稼ごうとしているらしいのだ。
僕は今、その特訓中ということらしく、ここでの生活に僕はいよいよ、本格的に嫌気が差してきている。
それでもここを出て、自分の力で生きていくだけの強さは僕にはまだないから、嫌でも僕はここでもうしばらくの時を過ごすしかないのだ。
早く、ここを抜け出しても生きていくことが出来るだけの力を、僕は手に入れなければいけない。
そのために僕は今、外の世界で仲間を集めている。
終