6
家に帰ってから、落ち着かず部屋をうろうろしていた。イライラしてじっとしていることができない。いつもの私ではないなと思う。
たかが一本の樹が見せているであろう幻覚に、なぜここまで心が動かされているのだろう。
「…………っ!」
ふと目についたポスターをはがすと、びりびりに破り捨てた。
そこに笑顔でいる女の子を見ていると、無性に怒れてきた。
ただ、破っても破っても、私の怒りは収まらなかった。
どうして。
どうして。
そんなことばかりが自分の頭の中を駆け巡る。ぐちゃぐちゃになってしまっていた。
次の日も、当たり前に繰り広げられるいじめに、私はだんだん耐えられなくなってきていた。
叩かれるのが痛く、髪を引っ張られると嫌な気持ちになる。
なんでこんな気持ちになるのかわからず、ただただ困惑してしまう。
いつもは気にならなかった周りからの視線がとても怖く、ふとしたら涙を流してしまいそうになってしまう。
何もかもが嫌になっていって、学校に来るのも嫌になってきていた。
どうして、私はこうなってしまったのだろう。
どうして、私はいじめられるのだろう。
どうして、私じゃなければならないんだろう。
いじめてくる女の子を責め、河野くんを責め、自分を責める。
もう、どうでもよくなってしまった。
これ以上人に見られるのも嫌になってしまった。
自分が自分じゃなくなって、自分が壊れてしまいそうだった。
生きているのが辛い。
河野くんと話すのが辛い。
誰とも、話したくない。
誰にも、見られたくない。
「やめなさい!」
樹が叫んでいるが、もう私には届かない。
人が何か言ってもそれがわならなかった。
「どうして、そんなことするの!」
私は人気のない樹がある場所に来ていた。
樹が先ほどから盛んに私に話しかけてはいたが、もう何も気にならなくなっている。
近くにある石を運んできて、周りにあった樹の中からちょうど良い樹を選んでそこに置く。石の上にのって、用意していた紐を巻き付ける。
私は、死のうとしていた。
もうこれ以上は辛い思いをしたくはなかった。
もう、誰にもいじめられたくなかった。
とにかく嫌で嫌で仕方がなかった。
河野くんのことが頭をよぎるが振り払うように息を吸う。
これで、終わりだ。
そう思って、私は死に手をかける。
「なんで?」
私は横たわっていた。死ぬ寸前に誰かに飛びつかれてそのまま地面に投げ出された。
何もできないままぽかーんとしていると、飛びついてきた――河野くんにぎゅっと抱きしめられた。
それはとてもとても強いハグで痛かったけれど、今までで、一番感情を感じる行為だった。
「そんなの、遠野のことが好きだからに決まってるだろ!」
いつしか、自分の頬が濡れていることに気づいた。
私は、河野くんのことが好きなんだと、そのとき感じた。
初めから、ずっとずっと好きで、一緒にいたかったのだと思った。
河野くんに抱きしめられて、初めて生きたいと強く感じよけいに涙が止まらなくなっていた。