表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

 家に帰ってから、落ち着かず部屋をうろうろしていた。イライラしてじっとしていることができない。いつもの私ではないなと思う。

 たかが一本の樹が見せているであろう幻覚に、なぜここまで心が動かされているのだろう。

「…………っ!」

 ふと目についたポスターをはがすと、びりびりに破り捨てた。

 そこに笑顔でいる女の子を見ていると、無性に怒れてきた。

 ただ、破っても破っても、私の怒りは収まらなかった。

 どうして。

 どうして。

 そんなことばかりが自分の頭の中を駆け巡る。ぐちゃぐちゃになってしまっていた。


 次の日も、当たり前に繰り広げられるいじめに、私はだんだん耐えられなくなってきていた。

 叩かれるのが痛く、髪を引っ張られると嫌な気持ちになる。

 なんでこんな気持ちになるのかわからず、ただただ困惑してしまう。

 いつもは気にならなかった周りからの視線がとても怖く、ふとしたら涙を流してしまいそうになってしまう。

 何もかもが嫌になっていって、学校に来るのも嫌になってきていた。


 どうして、私はこうなってしまったのだろう。

 どうして、私はいじめられるのだろう。

 どうして、私じゃなければならないんだろう。


 いじめてくる女の子を責め、河野くんを責め、自分を責める。

 もう、どうでもよくなってしまった。

 これ以上人に見られるのも嫌になってしまった。

 自分が自分じゃなくなって、自分が壊れてしまいそうだった。

 

 生きているのが辛い。

 河野くんと話すのが辛い。


 誰とも、話したくない。

 誰にも、見られたくない。



「やめなさい!」

 樹が叫んでいるが、もう私には届かない。

 人が何か言ってもそれがわならなかった。

「どうして、そんなことするの!」

 私は人気のない樹がある場所に来ていた。

 樹が先ほどから盛んに私に話しかけてはいたが、もう何も気にならなくなっている。

 近くにある石を運んできて、周りにあった樹の中からちょうど良い樹を選んでそこに置く。石の上にのって、用意していた紐を巻き付ける。


 私は、死のうとしていた。

 もうこれ以上は辛い思いをしたくはなかった。

 もう、誰にもいじめられたくなかった。

 とにかく嫌で嫌で仕方がなかった。

 河野くんのことが頭をよぎるが振り払うように息を吸う。


 これで、終わりだ。

 そう思って、私は死に手をかける。




「なんで?」

 私は横たわっていた。死ぬ寸前に誰かに飛びつかれてそのまま地面に投げ出された。

 何もできないままぽかーんとしていると、飛びついてきた――河野くんにぎゅっと抱きしめられた。

 それはとてもとても強いハグで痛かったけれど、今までで、一番感情を感じる行為だった。

「そんなの、遠野のことが好きだからに決まってるだろ!」

 いつしか、自分の頬が濡れていることに気づいた。

 私は、河野くんのことが好きなんだと、そのとき感じた。

 初めから、ずっとずっと好きで、一緒にいたかったのだと思った。

 河野くんに抱きしめられて、初めて生きたいと強く感じよけいに涙が止まらなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ