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 家に帰ると、だいたい私は部屋に閉じこもる。

 かといって特にやることはない。夕食までの時間、ぼーっとしているだけだ。

 家では、私は普通の女の子と演じていた。少し会話が少ない――けれど普通の年頃を向かえた女の子。別に変ったところはない。友達は少ないけれど、いじめられているなんて思われない。そんな偽りの自分を作っている。

 部屋には今流行っているアイドルのポスターが貼られていた。弟が私がよく聴いているため好きだと思って買ってきてくれたものだ。別にこのアイドルが好きではなく、年頃の女の子が聞いている音楽が知りたくてインターネットで調べていたら出てきたものだ。

 私は弟にも、自分のことを隠していた。親より会話は多いし、色々なことを相談したりされたりする。かわいい弟だと思う。弟に恋の悩みを相談されたこともあった。どこからどう見ても仲が良い姉と弟。姉がいじめられていることなんてもちろん知るはずもない。

 もし弟がいじめのことを知ってしまったら、必ず私のために何かをしてくれようとする。私のことを大切に思ってくれているから。

 こんな姉で正直申し訳ないと何度思ったことだろうか。今好きな女の子への恋が結ばれてほしいと思った。


 部屋でぼーっとしていると、なんとなく外に出てみようという気になった。ちょっと出かける年頃の娘。ずっと家にいても親に心配されそうになるだろうから、たまには外に出て普通の女の子だと思われることが必要かなと思ったのもあった。そこまで思ってもらう必要は、本当はないのだけど。

 母親に、ちょっと出かけてくると声をかけて、家を出た。私の居場所はどこにもないんだろうなとなんとなく感じた。

 のんびり歩いて街並みを見る。普通だなと思った。私が一人いなくなったところで、何も変わらないだろう。ただただ、変わりのない毎日が過ぎていくだけ。それだけのはず。

「…………」

 私は何も考えないようにして歩を進める。

「…………なあ」

 気づいていた。先ほどから男の子に盛んに話しかけられていることに。私は聞こえないふりをして歩き続ける。

「おい遠野!」

 男の子は私の前に回り込んできて、私の名前を叫んだ。私は視線だけで「なに?」と問いかける。別に大きな声を叫ばれたところで驚いたりはしなかった。

 先ほどから私にかまってきていたこの男の子の名前は河野陽人という。私の幼馴染だ。背は高くて顔つきが整っている。いわゆるイケメンという存在。学校中でも女の子から人気があった。私は昔からの付き合いで別にどうとも思ったことはなかった。ただ、時々こうやって私に話しかけてくるというだけの存在。

「なあ、一人で何やってんだよ?」

「べつに。あんたに関係ないでしょ?」

 私がいじめられていることはもちろん知っている。別にだからどうしてというわけでもない。彼は隣のクラスで、私の幼馴染。それ以上の関係はない。

 幼いころは、一緒に遊んだりしていたが、もうそういうことも高校生なんだからなくなると思っている。

「大丈夫なのか?」

 もちろん彼が聞いているのはいじめのこと。心配そうな表情を浮かべていた。

 彼が心配することなんて何にもないのに。

「べつに」

 やっぱり私はいつものようにぶっきらぼうに答える。これ以上関係を深めると、彼のほうにも何かと厄介なことになりそうだったから。学校というのはそういうもの。彼との付き合いももう終わり。

「さよなら」

 私はこの話はもう終わったとばかりに目を切って歩き出した。

「おい、待てよ! なんでそんな適当に答えるんだよ?」

 またまた私の前に回り込んできて私の手を取った。なんでこんなにも私にかまおうとするのだろう。私はだんだん嫌気がさしてきた。手を振りほどこうと強く引っ張る。こっちがほっといてくれと言っているのに、なんで構うのだろう。私は――独りでいいのに。

「ほっとけないだろ!」

 彼は私の手を離さない。私はその態度にカチンときた。久しぶりにこんな感情になったなと頭では思ったが、口は予想外のことを言った。

「じゃあ、私のいじめ止めてみてよ? どうせあなたにはそんなことできっこないでしょ? わかんないのに。私のことなんにもわかんないのに、もう私にかかわるのはやめて!」

 自分にもこんな大声が出せるのかと、久しぶりの感情の高ぶりにひどく驚いた。

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