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「なんでこんなに綺麗な髪してるのよ?」

「そうよ! あんたなんか可愛くなる必要なんてないでしょ?」

 私は罵られながら髪を引っ張られていた。

 その言葉に何も感じないし、髪を引っ張られて少しだけ痛いなということしか頭に浮かんでこない。

 毎日のようにこんな汚い言葉を浴びせられていた。普通なら傷つくだろうし、女の子が髪を引っ張られたら涙を流すかもしれない。今髪を引っ張っている子も、自分がされたら泣きわめくだろう。

 けれど、私はそれをしない。何となく、いつかは飽きて辞めるだろうと思うからだ。人間はずっと同じ行動をとることはできないだろう。

「痛いでしょ!」

 そんな叫ぶほど痛くはない。この子たちは泣いて叫ぶのが嬉しいのかもしれないが、私は何も言わない。言う必要もないだろう。これ以上ひどいことはしないだろうし。

 この子たちは本当に何をしたいのかなと思う。暇つぶしで人を傷つけるなんてことはしないだろうし。

 ただ、おびえているのかもしれない。生きていることに。これから先のことに。

 なんて、私の空想だけど。


 以前、小さなハサミを渡されたことがあった。そのハサミを漠然と見ている私に、

「これで、切ってみてよ!」

 なんて言ってきたことがあった。

 おそらく怯えて何もできない私が見たかったのかもしれないが、私はそっとなでるように、自分の肌を傷つけた。

 ちくっとするだけ。それだけで十分だろう。

 昔ハサミで自分の手を切ってしまったことを思い出した。そのときは痛くて泣き叫んだ。それが今でも覚えている。そうならないようにほんの少し血を流すくらいだったら今の私ならできるだろうと思った。

「ひっ!」

「……っ!」

 少しだけ流れた血に目の前の女の子たちの顔がゆがんだ。

「き、気持ち悪い……」

「ち、ちょっと待ってよ」

 一人の子が青い顔をして逃げだすと、それを追いかけるようにもう一人の女の子が逃げ出した。

 脅かすだけだったかもしれないが、まさか私がそんなことをするとは思わなかったのだろう。

 後には、私一人だけが残された。

 今日のいじめはもうこれで終わりだろう。

 血が少しだけ流れるのを見て、ちょっとだけ痛かったなあと思った。血を見るのも久しぶりで、何となく生きているなという感覚がわいた。

 そこまで血が好きではないが、この色を見るとぞくっとする。

 絆創膏が鞄の中に入っていただろうかと思い出しながら、私は教室にゆっくり戻った。


 そんなことがあったため、髪を引っ張るだとか、頬を叩かれるだとか、そういったことしかしてこない。そして、私は気が狂ったおかしいやつだと思われた。

 別にそれはそれで構わない。どう思われようが、私には関係なかった。

「…………」

 何にも反応がない私をいじめて面白いのだろうか。やむことのないいじめを見て、ふと思った。この子たちの心の中はわからないため、どうすることもできないが。私もどうすることもしないだろうし。

 彼女たちは授業開始直前まで、私の髪を引っ張り続けていた。散々汚い言葉を吐き続けて満足げな顔をしていた。

 時間がもったいないなとふと思った。なんて、それも私のただの戯言かもしれなかった。

 教壇に教師が立って授業を進めている。私はそれを聞くともなしに聞いている。

 学校の教師は私がいじめられていることを知っている。知っているけれど、それに対して特に何かをするわけでもない。

 周りのクラスメイトも見て見ぬふりをする。自分に被害が及ばないように、汚い物は見えないようにする。

 それが悪いことだとは思ない。声をかけてしまったら、自分が悪者にされてしまったら、自分が傷つく。私はそれを望んではいなかった。

 私のことはいないものとして、授業はのんびりと進んでいる。


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