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 焦げ茶色の、細い木の指輪だった。アクセントとして、小さな白い石が埋め込まれている。翡翠だろうか。高価な宝石ではなさそうだが。


「これ……あの子が作ったの?」


 上手さんは、デザインが同じでサイズが一回り小さい指輪を見ながら、目を輝かせている。


「まあ、きなこの腕なら、これくらい造作もないだろうな」

「す、すごくない!? こういうの、お店で買ったら普通に一万円とかするよ! こんないいもの、貰っちゃっていいのかな?」

「あいつにとっては肩慣らしみたいなもんだ。もらっていいと思う」


 と僕は言っておいたが、数日間でこのような指輪を作るのは、普通に難しい。天才のきなこだからこそできる芸当で、僕は関心した。


「これって、ペアリングだよね?」

「ああ。デザインは同じで、サイズだけ違うからそうだろうな」

「南條くん……つけてくれる?」

「ん? せっかくもらったんだから、つけないと勿体ないだろ」

「そ、そうだよね、そうだよね。何指につけよっか?」

「左手の薬指じゃないのか?」

「それは結婚指輪だよ! たしか、何指でなきゃダメって決まりはないんだけど……小指とかどうかな? これならあんまり目立たないでしょ」


 上手さんが自分の小指に指輪をはめて、僕に見せた。確かに、他の指よりは主張が少なそうだ。指輪をつけるなんて考えたことなかったので、参考になる。


「じゃあ、僕も小指にする」


 僕も小指に指輪をはめてみた。その瞬間、近づいていた上手さんの小指がぐっと近くになり、二つの指輪をはめた指が並んだ。

 急に、ふわっと体が浮くような、これまで経験したことのない感覚に襲われる。

 なんだろう。同じ指輪を身に着けただけだというのに。

 僕と上手さんの距離が、ものすごい勢いで縮まったような気がして――実際触れ合ってもいないのに、ほとんど一緒にくっついているような。


「っ~」


 どうやら上手さんも似たような感覚に襲われたらしく、真っ赤になって手で顔を隠した。


「お、思ってたより恥ずかしいな、これ」

「うん……で、でも私、これ気に入ったよ! 学校だと校則が厳しくて怒られちゃうから、せめてデートの時だけは一緒につけよ?」

「う、うん。そうするか」


 自分からつけると言った手前、外す訳にもいかず。

 僕たちはペアリングをして、駅前に戻った。

 きなこが遅刻したり、木材を厳選していたため、すでにお昼前になっていた。


「昼飯、食べて帰ろっか」

「う、うん!」

「何がいい!」

「なんでもいいよ! 南條くんの好きなやつで」


 駅前にはハンバーガー店や、チェーンのカフェなどが揃っていた。気軽に入れるが、こういうのはデート向けの店ではないよな。


「駅ビルのほう入ろうか」

「えっ? そのへんのカフェとかでいいよ? なんならマッ◯とかでもいいし」

「うーん。通りの前にあるから、なんか人に見られそうなんだよな」

「私と一緒にいるところ、見られるのは嫌……?」

「いや、そういう訳じゃないんだが、なんとなく落ち着かない」

「ふうん。まあいいや、駅ビル行ってみよう」


 僕たちは駅ビルのレストランフロアまで登り、ちょうどランチをやってるイタリアンレストランを見つけ、二人で入った。

 

「ほんと、すごいよね、これ。どうやったらこんなもの作れるんだろう」


 料理を注文したあとも、上手さんは指輪に夢中だった。


「南條くんも、こういう指輪作れるの?」

「作れなくはないと思うが、一度も作ったことないから時間かかると思う」

「ふうん……きなこちゃん、不思議な子だと思ってたけど、いい子だったね」

「まあ、悪いやつではないな」

「私ね、南條くんときなこちゃん、もうカップルみたいに仲良いんじゃないかと思って、ちょっと嫉妬してたんだよ」

「嫉妬?」

「うん。でも別にそうじゃなかったね。謎が溶けたよ」

「何が謎なんだ?」

「どうして二人、男女なのにあんなに仲が良いのか。もしかしたらお互い好きなのかも、って思ったけど、全然そうじゃなかった。二人は、同じ彫刻をやっていて、一緒に彫刻のことを考えてるだけなんだね」

「まあ、そうだけど。何かおかしいか? 美術部は男子より女子が多いから、もう女子と話すのに慣れてしまって、あんまりそういう気持ちにはならないよ」

「うん。それはいいんだけど。南條くんも、きなこちゃんみたいに美術のことしか考えてないんだな、って」

「僕はきなこほどじゃないぞ。空き時間は普通にゲームとかしてるし、しばらく製作に取り組まない時もある。あいつは本当に製作のことしか考えていない」

「そういう意味じゃないってば」

「じゃあ、どういう事だ?」

「えっとね……なんていうかな、生きていて最優先の目標が、南條くんの場合は美術なんだなって」

「まあ、それは認めるけど。上手さんだって、医学部医学科行くための勉強が最優先だろ」

「私は……」


 ふと、上手さんは何か言おうとしたが、ちょうど料理が運ばれてきて、言うのをやめてしまった。

 その後は、お互い黙々とパスタを食べた。

 なぜだろう。上手さんは指輪をもらった頃、とても喜んでくれていたのだが。急にしんみりとした空気になり、そこから戻る方法を、僕は見つけられなかった。

 結局この日は、適度に雑談をしながら青柳駅まで戻り、そのまま解散した。


「じゃ、またね」


 帰り際、手を軽くふった上手さんの小指についている指輪が、一等星のように輝いて見えた。

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