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付与魔術師のある意味理不尽な追放!

作者: 佐崎 一路

ふと思い立って書きました。

「さて――」

 冒険者ギルドに併設されている酒場の丸テーブルを囲んで、A級クエストの成功やらを祝うべく着席した彼――マスター級冒険者パーティ『アットホーム』のリーダーで聖騎士(パラディン)のフィリベルトは、全員が着席するのを確認するやいなや、いかにも嫌々この場に同席しているパーティメンバーのひとりで、付与魔術師のディーノに向かって(ほが)らかに言い放った。

「ディーノ、悪いがお前との契約はここまでだ。本日満期終了ということで、この場をもってパーティから退会してもらう」


「なっ……!?!」


 藪から棒の追放宣言(by:ディーノ主観)に、無理やり散歩に連れてこられた子供のように、不機嫌そうな顔でソッポを向いていたディーノも、弾かれたように立ち上がってフィリベルトに詰め寄る。


「ど、どういうことだ。いきなり追放だなんて……僕の意見も何も聞かずに、いくらなんでも横暴だ! これが冒険者ランクでもマスター級冒険者パーティのやることかよっ!」


 ちなみに冒険者ランクは『狩猟クエスト』『討伐クエスト』『採集クエスト』『護衛クエスト』『配達クエスト』『雑用クエスト』などの多様な実績を勘案した【総合ランキング】として、

・F級(ド素人。一般人。お試し)

・E級(冒険者モドキ。健康なら誰でもなれる)

・D級(初級冒険者。農民兵とどっこいレベル)

・C級(プロ冒険者。下級の魔物相手なら問題なく戦える)

・B級(一流の冒険者。どこに行っても恥ずかしくない)

・A級(準貴族と等しい。一国に百人いるかどうか)

・S級(天才の中の天才がなれる階級。英雄級。一国に一人いると抑止力になるレベル)

 というのが一般的だが、それを決めるのは各冒険者ギルドの裁量に委ねられているため、ある程度忖度や水増し、国の思惑や利権が絡んでいるため額面通りに受け取るのは怪しい……とも言われている。


 そのため現在は聖女様(大陸各国の皇帝や王の上に存在する、文字通り女神の地上代理人)の提唱を受けて、それとは別に『大陸冒険者ギルド』が定めた完全に実力制の【世界ランキング】というものも採用されている。

 内容的には、

・アイアン(初心者(ビギナー)

・ブロンズ(アイアンで挫折しなかった大部分が繰り上がり)

・シルバー(一年くらい続けるとだいたいなれる)

・ゴールド(三年くらい死なずに頑張れば上がれるが、三年以上頑張ってもなれない場合は冒険者は向いてないので辞めることをやんわりと周りがすすめてくる)

・プラチナ(大陸冒険者ギルド順位上位二十万人以内。持っているとそこら辺の冒険者ギルドで威張(エバ)れる)

・ダイヤモンド(大陸冒険者ギルド順位上位七万人以内。大都市の冒険者ギルドでも一目置かれる)

・マスター(大陸冒険者ギルド順位上位一万人以内。このレベルになると遊ぶ暇なく鍛錬と実戦の日々になる)

・グランドマスター(大陸冒険者ギルド順位上位三千人以内。国内で知らない者はいない英雄も同然)

・チャレンジャー(大陸冒険者ギルド順位上位百人以内。秘密兵器。一人軍隊(ワンマンアーミー)。国内に敵がいないので大抵が他国へ遠征や王命で出向したりしている)

 という具合であり、『狩猟クエスト』『討伐クエスト』『護衛クエスト』といった実力が何より優先される仕事は、こちらの【世界ランキング】をもとに優先して(なおかつ報酬も割増しで)斡旋されるのが常であった。


 ディーノ非難に対して、フィリベルトへげんなりした顔で頬杖をしながらため息をついた。

「――だから、そういうところだよ。なんだ『追放』って? 『満期終了』って言っただろう。あと勝手にっていうけど、最初の契約で『あくまで半年間の試験採用であり、試験期間終了後の延長または本採用については、“冒険者パーティ『アットホーム』(代表フィリベルト・ヴォルタ)の裁量に委ねられる”という一文があり、お前も事前にサインしたはずだろう?」

 と言いつつ、フィリベルトがチラリとギルド職員の顔を窺うと、窓口の受付嬢たちと上役と思しい中年の事が一斉に頷いた。


「嘘だ! そんなの聞いてない!」

 適当に契約書を斜め読みしたのだろう――字の読めない庶民向けにはギルドの代読サービスもあるが、仮にも魔術師であるディーノは当然のこととして読み書きができる――自分の迂闊さを棚に上げて「知らなかった」「なんで教えてくれないんだ!」と、いまさらながらの抗議をする。


「……ちゃんと契約書は内容を頭に叩き込んでからサインしろよ。だいたい俺はお前の親でも先生でもないんだから、いちいち教え諭す義務はない。ただ単に雇用者と被雇用者の関係だ。だから使えないとなれば他の人材に切り替えるだけ。わかるか?」

 ま、言ってもわかんねーだろーなー、と言いたげに大仰に両手を上げて肩をすくめるフィリベルト。

「とにかく本日をもってお前さんとの契約期間は終了。『アットホーム(うち)』としては契約更新の気はないので、これをもって円満に退会していただくということで、今日までの報酬は多少の色をつけてギルドの口座に振り込んでおくので……ああ、あとパーティホームの部屋は早めに引き払っておいてくれ。次のメンバーが控えているから」

「そんな! いきなり無一文で放り棄てるのか! それが仲間にすることかよ!!」


 この世の終わりのような絶望的な表情で悲痛な声を張り上げるディーノ。


((((((だから報酬と退職金は振り込んでおくって言ってるじゃないか))))))

 テーブルについている他のパーティメンバーと一部始終を眺めていた第三者たちが一斉に心の中でツッコミを入れる。


「だーかーらー。そうならないように直前にA級クエストを終了させて、報酬もギルド資金の他は均等に山分けしただろう? 試験期間中の報酬は通常の六割程度なのを正式メンバーと同額なのは、俺たちからの餞別なの。厚意なの。最後の恩情なの。わかってるのか、ディーノ?」

 そんな周囲の意見を代弁するかのようにフィリベルトが噛んで含めるように言い聞かせる。


「あんなはした金、借金で一瞬で棒引きされるよ!」

 打てば響く感じで喚き立てるディーノに対して、

「「「「「いや、それ自業自得だし」」」」」

『アットホーム』の他のメンバーが思わずツッコミを入れた。


「なにが自業自得だ! 借金の一因は他でもないお前らのせいだろう!! だったら最後まで責任持てよ! だいたい僕がいなくなったら困るのはこのパーティだぞっ!!!」

「「「「「???」」」」」

 一切身に覚えのない逆切れに、首をひねるフィリベルト以下メンバーたち。


「……よくわからんが、この半年でディーノ(お前さん)の実力と人間性は理解した。で、別にいなくてもいいかなとのことで、全員一致で契約更新はないとなったわけだ」

 フィリベルトの最後通告に合わせて、女僧侶で副リーダーであるアデリーナが厳かに手を組んで、淡々とした口調でディーノに向かってお祈りを捧げる。

「この度は、多数の冒険者パーティから弊パーティへご応募頂きまして、誠にありがとうございました。厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回は本採用を見合わせて頂くこととなりました。ご期待に沿えず大変恐縮ではございますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。ディーノ様のより一層のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます」


 思いっきりテンプレートのあしらい文句に、振り上げた拳をテーブルに叩きつけてディーノは歯ぎしりするも、アデリーナは涼しい顔で給仕を呼んでマイペースに注文を伝えるのだった。

 給仕の方も荒くれ揃いの冒険者相手は慣れているのか、平然と受けた注文を復唱してから一礼をして去っていく。


「全員一致ってことは、お前らも僕を追放するのに賛成ってことか?!」

 次にディーノはテーブルに座った顔ぶれを順に眺め回すと、斥候にして遊撃手でもある半妖精族(ハーフエルフ)のエミーリエが、いつもの飄々とした態度と口調で真っ先に肯定するのだった。

「あたしも賛成 つーかアンタ何やってんのか分かんないし」


 続いて洞矮族(ドワーフ)の戦士兼鍛冶師であるバジャルドも、長い顎髭を手で()きながら重々しい動作で頷く。

「そもそも付与魔術師なんぞいるのか? 普段は後ろでウロチョロしておるだけじゃろう」


 最後に元素魔術師(エレメンタラー)である黒髪のマチアスが、眼鏡のブリッジをくいっと持ち上げて吐息混じりに言い放った。

「敵を殲滅できるだけの魔術は使えない。かと言って特筆すべき特技もない。おまけに……私も人の事は言えませんが、チーム意識がまったくなく不協和音しか奏でない。となると擁護すべき点はないでしょう」

 そう謙遜込みで伝えたマチアスに向かって、

「いやいや。お前さんはぶっきら棒だが、ちゃんと仲間としての節度を持っておるっ」

「そーよ。アレと一緒にできるわけないでしょう!」

 バジャルドとエミーリエが慣れた調子で味方するのだった


 さて、そんな風に全面的に存在を否定され言いたい放題言われたディーノは、あっけにとられた表情を浮かべたのち、顔を真っ赤にして半キレで言い放った。

「好き勝手言いやがって! いいか、お前らが強かったのは僕がものすごい高度な補助魔法かけてたからであって、お前らの実力じゃないんだぞ! 僕がいなくなったらお前たちに実力なんて、マスター級どころかゴールド級がせいぜいなんだぞ(ドヤァ)!!」

「「「「「…………」」」」」


 無茶苦茶自分の事を過大評価して、他のメンバーを過小評価……というか、内心では見下していたことを臆面もなくさらけ出したディーノのドヤ顔を前にして、『アットホーム』のメンバーどころか酒場にたむろしていた冒険者と、隣接する冒険者ギルドの職員たちも唖然としたのち、度し難い馬鹿を見る目で押し黙ってディーノ(バカ)を注目する。


「……いや『アットホーム(うち)』はお前が試験採用される前からマスター級なんだが……」

 曰く言い難い表情でフィリベルトが反駁した。

「今回のA級クエストの成功は、縁の下の力持ちをやっていた僕のサポートのお陰だろう! どうせ気が付いていないだろうけど」

 やさぐれた態度でソッポを向きながらディーノが吐き捨てる。


「サポートと申しますと、すでに全員が各自で準備していたポーションやら野営用のテントやら(まき)やらを山ほど持ってきたことですか?」

 アデリーナが小首を傾げたのに合わせて、我が意を得たりとばかりディーノが何度も首肯する。

「そうだよ。お前ら何の事前準備も打ち合わせもせずに、ノープランでダンジョンアタックをするつもりみたいだったから、僕が全部の準備をしておいたんだ!」


 それと同時に注文された飲み物が入ったカップと、ちょっとしたおつまみがテーブルに並べられた。

「――うわっ、酒だ! お前ら昼間っから酒を飲むつもりか!?」

 途端、吐きそうな顔でテーブルから距離を置くディーノに向かって、『アットホーム』のメンバーが不可解な表情で言い返す。

「「「「いや、やったぞ(やったわよ)事前ミーティング」」」」


「――へっ……?」

「念のためにレジュメも作成して、各自の部屋にある連絡ポストにも入れておいたのですが……どうやらご覧になられていないようですね」

 さもありなんという口調でアデリーナがため息をついた。


「ぼ、僕を爪弾きにしてミーティングをしたのか!?! それで非難するなんてフェアじゃないだろう!!」

「二巡週前の翼虎の日に集会すると儂は再三伝えたはずだが、『飲み会だろう、パス』と言って当日すっぽかしたのはお前さんの勝手じゃ。儂は保護者じゃないのじゃから、首に縄付けてでも連れて行く義務はないわな」

 ビールの小樽をグイグイと水みたいに飲みながらバジャルドが投げやりに答える。

「つーかさ。ミーティングに参加しなかったんだから、クエストにも参加しないと当然思っていたのに、なんでディーノ(あんた)当たり前のような顔で付いてきたわけ? それも必要もない大荷物を担いで。お陰で予定が滅茶苦茶よ」

 林檎酒(シードル)で喉を潤しながら、唇を尖らせるエミーリエ。


「お前らが軽い手荷物しか持っていかないから、僕がいざという時に備えて非常食や各種ポーション、地図、薬草なんかを気を利かせて準備しておいてやったんだ! ――つーか、酒臭いな! 僕の目の前で酒は飲まないでくれっていつも言っているだろう。僕は酒の匂いでも酔って気分が悪くなるんだっ!!」

「「「「「それだっ!!!」」」」」

 その途端、溜まっていた鬱憤(うっぷん)が一気に爆発した感じで、『アットホーム』のメンバーたちが各々注文した祝杯を持った手でディーノを指さした。


「な、なんだよ……!?」

 鬼気迫る迫力と苦手なアルコールの匂いに辟易して、数歩後ずさるディーノ。


「ディーノ、お前が勝手にパーティに参加することも、無駄な荷物を持ってきて邪魔するのも百歩譲って認めたとしても――きちんと管理できなかったリーダーである俺の落ち度だからな――その協調性のなさは致命的だ。同じパーティとして到底背中を預けられん!」

「協調性って――僕は僕なりにみんなの事を思って、パーティの助けになればと……」

「なら、ディーノ。お前、これまでパーティの打ち上げや親睦会に何回参加した?」

「…………」

「ほぼゼロだろう。――俺の覚えている限り、顔を出したかと思えば果実汁(ジュース)か清水だけ飲んで、さっさとおさらばする愛想のなさだ」

 苦虫を嚙み潰したような表情で、ワイン(混ぜ物の多い密造酒ではなく、そこそこの値段のする中級品)をあおりながら、これが最後とばかりフィリベルトが本音をさらす。


「だから、それは……僕は酒が全然飲めないんだよ。匂いを嗅ぐだけでも具合が悪くなる。酒宴とかに呼ばれても居場所がないから最初から行かないか、酒以外のもの頼むしかないだろう!」

「飲めないというのならせめて慣れるように訓練されたらいかがですか? この間のご領主様からの依頼を成功させた宴の席でも、ご領主様自らが注いでくださった杯を固辞した挙句、やっと一口飲んだかと思えば、宴席の初っ端にご領主様やゲストの皆さまの前でリバースするという不敬……」


 口調は穏やかだがアデリーナの背後に見える修羅を前にして、晴れがましい凱旋の舞台が一転して地獄絵図と化した当時を思い出して、『アットホーム』のメンバーの目がどんよりと闇に染まった。


「貴族のお屋敷でのやらかし。完全に首が飛ぶかと思いましたわ、私たちは。幸い酒の席での無礼講ということで、ご領主様が取りなしていただいたので賠償金とパーティーの費用、汚れたカーペットの交換などの補償で済みましたが。――ああ、カーペット代はディーノさんの個人負担として冒険者ギルド経由で請求させていただいております。ついでに勝手に購入して経費として領収書を切っていた、使いもしないポーションやその他こまごまとした費用、あとやたら高価な魔術師用の杖や魔石などツケで買ったものも、あくまで個人の買い物としてディーノさん宛にしておきましたので」

 ついでのように付け加えるアデリーナ。


『ああ、それが借金の内訳か』

 聞き耳を立てていた野次馬たちが、一斉に腑に落ちた……と言いたげな清々しい表情で頷いた。


「なっ、なんだって!? なんでそんなひどいことをするんだよ!! 必要経費はパーティに請求していいって話だったろう!? 僕をペテンにかけたのか?!」

 借金の標高が高くなっていることは初耳だったのか、気色ばんで詰め寄ろう――として酒の匂いで口元を押さえて、おえっと軽く嘔吐(えず)くディーノ。


「当たり前じゃろう。使いもしないガラクタを買い込みおって。だいたい薪や食料なんぞ現地調達で済むもんじゃし、地図は頭の中に入っておる。武器や防具は当然として道具の(たぐい)も必要な分は最低限持参しておる。それと、儂はそもそも酒が一滴も飲めないなどという奴など、洞矮族(ドワーフ)はもとより人間族(ヒューム)でも見たことも聞いたこともない」

 まだ序の口ということで、地下室で冷やしたビールを立て続けにお代わりして、本来の髭の上にビール髭をたくわえながらバジャルドが小馬鹿にしたようにゲップと一緒に言い放った。


「あたしも百年生きていて『酒が弱い』って奴なら、まあ見たことはあるけど、一滴も飲めないとか一滴でも入っていたら飲めないなんて人間族(ヒューム)は知らないわね。子供だって水の代わりにブドウ酒の残り滓から絞った自家製ブドウ酒モドキを飲んで育つもんじゃないの?」

 エミーリエの素朴な疑問に酒場で飲んでいた冒険者から給仕までが一斉に頷く。

 このあたり(というか周辺諸国)では水が硬水なので、そのまま飲むと『腹を壊す=水は体に悪い』という意識が常識として馴染んでいる。


「僕の生まれ育った村は美味い清水が流れてたんだよ! 逆にこっちにきてビックリだよ!!」

 暗に嘘つき呼ばわりされたディーノが必死に抗弁するも、単に口から出たためを言い繕っているようにしか聞こえないのは、シラー―ッとした周囲の雰囲気からも明らかだった。


「それとパーティで負担する経費は事前に見積もりをもらってきて、それを精査して妥当だと俺かアデリーナの決裁がないと許可できない。最初に伝えておいたはずだが――どうせ都合よく聞いていなかったんだろう」

 諦観混じりで投げやりにフィリベルトが補足する。


「というか、その程度の会計は初級の魔術師学校で習ったと思うのだが、お前は学校で何を学んだのだ? だいたい付与魔術師というものは普通前線に出ないで、各自の武器や防具に『強化』や『軽量』などの魔術を施す、文字通りの“縁の下の力持ち”な職業という認識だったのだが、俺は」

 白ワインのグラスを傾けながら、心底不思議そうにマチアスが尋ねた。


「なに言ってるんだ! 僕が前線に同行して、各自に『剛力』とか『俊敏』とかのバフをかけ、魔物に『遅滞』とか『脆弱』のデバブを気が付かないようにかけたことで、皆は自覚しないまま楽々とクエストを達成できていたんだぞ!」

「「「「「いや、気が付かないわけないし。ぶっちゃけ邪魔っ!!」」」」」

 再度力説するディーノを全員一致で一蹴する。


「――へっ……?」

 素っ頓狂な表情を浮かべるディーノに向かって、次々と弾劾の矢が飛ぶ。


「大した相手でもないのにむやみやたらとデバブをかけるから、毎回途中で魔力切れを起こしてへばっては本末転倒だと、俺は何度も何度も忠告したよな?」

「勝手にバフかけられて、こっちは普段の調子と違ってエライ迷惑じゃったわい」

「それにディーノさんは『凄い付与魔術』とおっしゃいますけど、その代わり持続時間が非常に短いですよね。普通ならニ、三分もつところ、せいぜい三十秒ほどの超短期決戦型と申しますか……ちょっと使い道が限られますね。それこそ死ぬか生きるかイチかバチかという場面でもなければ」

「ボスクラスにはデバブなんて効かなくて、ほとんど意味ないのにちょろちょろ動いて、そのフォローであたしら後衛は普段の倍の仕事をしなきゃならないわけで」

「総じて貴様の付与魔術師としての技量は並みだ。そして団体行動にまったくの適性がない以上、間接支援型の魔術師である付与魔術師としては箸にも棒にも掛からぬ……と言っても差支えがない」

 フィリベルト、バジャルド、アデリーナ、エミーリエ、マチアス。元仲間だったマスター級冒険者パーティ全員からのダメ出しに、パクパクと反論しようとしても言葉にならないディーノ。


 それを肯定ととらえたのか、

「では改めて、A級クエストの成功とディーノの壮行会を兼ねて」

「「「「乾杯(チンチン)っ!!!」」」

 前置きは終わったとばかりディーノを無視して、フィリベルトの音頭で和気藹々と酒杯を合わせる『アットホーム』メンバーたち。


「どうしたー、ディーノ。お前も主役なんだから何か注文して参加しろよ」

「今日くらいは上等なシャンパンを注文しても、一杯だけなら問題ないとします」

 気を利かせてくれたフィリベルトとアデリーナの好意に対して、

「ち、畜生ーーーっ!!!」

 絶叫しながらディーノはその場を後に、脱兎のごとく駆け出し、あっという間に冒険者ギルドを飛び出していった。


「――何あれ?」

「僻んでいるだけだ」

「どーでもいいわい」

 心底不思議そうに首をひねったエミーリエに、マチアスとバジャルドがもはや他人事として答える。



 その後、ディーノはこの街から姿を消し、ほうぼうの冒険者ギルドでパーティ応募をしたそうだが、大陸冒険者ギルド各支部にはすでに要注意人物として問題人物として手配が回っていたため、ギルドが積極的にパーティを斡旋することはなく、まれに直接交渉でパーティに入会することはあっても、同様の問題を起こしてすぐに放逐されるということを繰り返し、いつしかその姿を見る者はいなくなったという。


 遠い諸島連合へと海を渡ったと言う者もいれば、故郷に帰って冒険者生活からはスッパリ足を洗ったと言う者もいた。

 いずれにせよディーノの名が世間に知られることは二度となかったのである。


 だがそれから数百年後――。

 ごくまれに酒がまったく飲めないという『アセトアルデヒド非活性型』という体質――通称“下戸(げこ)”と呼ばれる人間族(ヒューム)が現われ認知されるようになった頃、当時のメンバーは鬼籍に入っていたものの、孫や玄孫に囲まれて穏やかな生活を送っていた半妖精族(ハーフエルフ)のエミーリエは、ふと若い時分に少しだけパーティを組んでいた男(名前は忘れた)の事をつらつらと思い出した。


「あの時は嘘だと決めつけたけど、本当だったわけだねえ。もしかすると下戸ってのはあの男が祖先で、その血を引いている子孫かも知れないね。だったら数世代をかけた復讐が成功したってわけだ」

 そんな風に思うのだった。

英語で『下戸』という言葉がなかったので、もしかしてヨーロッパやアメリカには下戸という概念がないのでは!? と思って調べたところヨーロッパ、アフリカ系には下戸は存在しない。

そして世界一下戸が多いのは日本人(まったくアルコールが飲めないのが5%。極端に弱いのが30%)。なお日本でも呑兵衛の地域(秋田、山形、青森、高知、鹿児島、沖縄など)に稀に下戸が生まれると、まともなニンゲン扱いされないと聞いたので、まかり間違って下戸が一切いないヨーロッパに下戸が生まれたらどうなるか……という思い付きから書いたものです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 呑兵衛が多いといわれてる地域在住ですが、まともな人間云々は聞いたことないですが; 年配の人たちにも聞いてみましたが「なにそのデマ情報(笑)」的な反応でした^^;
[良い点] 世の中、面接通っても変なヤツ紛れ込むよね…というあるあるが見事に描かれておりました( ꒪⌓꒪) [一言] 中世的背景でアルハラなんて概念は存在しないですしねぇ そもそも外国は水に当たらない…
[良い点] まあそりゃあ解雇になるよねと納得しました。 [一言] 個人的には、契約終了に至る話と下戸の話は別々でも よかった気がします。 下戸の話が書きたかったのか、正当な契約終了話が 書きたかった…
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