第57話 ホテルに泊まりたい
ついに来てしまった。
あまりに突発的なことだったから、部屋が空いてるか不安だったけど、渚が予約してくれていたみたいだ。
最初、ホテルに誘ったのは渚なのだから当然だろう。
だけど、冗談だとも言っていたから予約してくれていたなんて思っていなかった。
「……来ちゃったね」
「……来ちゃったね」
あたしはあまりの緊張で、渚から投げられた言葉をそのまま返すことしかできなかった。
それくらいドキドキしていたのだ。
でも、それはきっと渚も同じだと思う。
だって……ほら。
顔を見てみるとわかる。
渚の顔は真っ赤に染まっていて、その瞳には恥ずかしさからか涙まで浮かんでいるように見える。
そんな彼女を見た瞬間――
――あ、すごく興奮する。
あたしの中のSなスイッチが入ってしまったのを感じた。
「あ、あのさ、花恋ちゃん……私、こういうのははじめて――でっ!?」
「ごめん、渚。あたし今異様に渚の血がほしい♡」
「えっ!? いや、今日は私がエスコートしようと思ってたんだけど!?」
あたしは渚をベッドに押し倒し、恍惚な表情で舌なめずりをする。
そんなあたしの様子に顔を青ざめさせた渚は必死に逃げようと抵抗する。
だけど、あたしが注射器を取り出すと、途端に大人しくなった。
そうして、あたしは渚の首筋に噛み付いた。
「うあっ……! や、やめ……」
痛みに耐えるような声を出す渚だが、すぐに甘い吐息に変わる。
あたしは夢中になって彼女の首を甘噛みし続ける。
そしてある程度満足したところで、彼女の首から離れ、腕に刺した注射器から血を取り出して飲む。
甘くて濃厚な味。
身体中に力がみなぎってくるようだった。
やっぱり、渚の血は格別だ。
他の人の血を飲んだことはないけど。
「もう……いきなりなんだもん。びっくりしたよ」
「ごめんね? 我慢できなくて」
「いいよ。それだけ私のことを想ってくれてるってことだもんね?」
「うん! もちろんだよ!」
満面の笑みを浮かべるあたし。
すると、渚はふわりとした微笑みを浮かべたあと、そっとあたしの頬に手を添えてきた。
「ねぇ、花恋ちゃん……もっと吸ってもいいんだよ?」
「えー……これ以上したら歯止めがきかなくなっちゃうから駄目だよ」
「大丈夫だよ。もう私、怖がらないから」
「んー、じゃあ……ちょっとだけね」
あたしは再び渚の首元へ吸い付く。
彼女は小さく苦しそうに喘ぐと、あたしのことをぎゅっと抱きしめてきた。
「……大好きだよ、花恋ちゃん」
「あたしも大好き」
あたしたちは多くを語らず、そのまま唇を重ね合わせる。
そしてお互いに見つめ合いながら、再び口づけを交わし合うのであった。
「花恋ちゃん、どうしよう」
「ど、どうしたの?」
「……お腹すいた」
「……え、今?」
あたしはてっきり血を吸いすぎたと思って焦ったけど、どうやらそうではないらしい。
色気のない発言に、あたしはすっかり冷めてしまった。
「そっかー、渚はあたしより食べ物の方取るんだー」
「ご、ごめん、ほんとにお腹空いちゃって……このタイミングで言うのもどうかと思ったんだけど……我慢できなくて」
しゅんとする渚。
その姿を見ると許さないわけにもいかなくなる。
まあ、さっきの言葉は冗談なんだけど。
遊園地の閉園時間が17時でギリギリまでそこにいて、そのままホテルに直行したから、お腹が空くのも無理はない。
せっかくだし、このままホテルの部屋で夕食を食べようということになった。
ルームサービスを頼んで、食事を済ませた後、シャワーを浴びてから二人でベッドに入る。
疲れていたのか、すぐに眠気が襲ってきた。
渚も同じようで、ぐっすりと寝息を立てて眠っている。
「おやすみ、渚」
あたしは起こさないようにそう言って、一緒のベッドで眠ったのだった。




