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真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない  作者: M・A・J・O
第二章 吸血少女は愛されたい

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第52話 感謝したい

「あの、百木先輩……」

「ん? なにかしら?」


 放課後。あたしは百木先輩のいる教室へお邪魔した。

 つまりは渚もいる教室なのだが、渚の姿は見当たらなかった。

 しかし、今日は渚に用じゃなく、あたしの目の前にいる百木先輩に用がある。


「ありがとうございます。助けてくれて」

「なんのことかしら」

「あたし、クラスメイトたちから聞きました。あの日のことをマジックで片付けてくれたこと」


 百木先輩はただクールに、優しげに微笑むだけ。

 多分百木先輩は知らんぷりを続けるだろう。

 だけど、助けてもらえたのは事実である可能性が高い。

 だから、あたしは精一杯の感謝を伝えに来たのだ。


「ほんとに助かりました。あのままだったら、あたしは学校にいることも難しかったでしょう」


 深々と頭を下げる。

 すると、百木先輩はゆっくりと口を開いた。


「私はなにもしてないわ。強いて言うならあの時の借りを返しただけよ」


 やっぱり、この人は優しい人だ。

 あたしを助けてくれた。

 そう思うだけで、心が暖かくなる気がする。


 こんな人が身近にいたなんて……

 きっとこれからも仲良くできるかもしれない。

 そんな期待を込めて、あたしは言った。

 これが今のあたしにとって一番素直になれる言葉だと思うから。


「先輩……あたしと、友だちになってくれませんか?」


 すると、百木先輩は驚いたように目を見開いたあと、静かに笑った。


「もちろん。こちらこそよろしくね、黒衣さん。うーん、こっちの方がいいかしら――花恋ちゃん」

「はい! よろしくお願いします!」


 こうしてあたしは友だちを作ることができた。

 そのことに嬉しくなって、思わず頬が緩んでしまう。

 そんなあたしを見て、百木先輩もまた優しく笑ってくれた。


「お、花恋ちゃんに百木さん?」

「あ、星見さん。じゃ、花恋ちゃんだけの王子様が来たところで、私はとっとと退散させてもらいましょう」


 そう言って、百木先輩は席を立つ。

 そして去り際に、そっと耳打ちされた。


「花恋ちゃんはもっと自分に正直になったほうがいいと思うわ」


 それはどういう意味なのか分からなかったけど、なんだか不思議な気持ちになる一言だった。

 あたしはその言葉を胸にしまい込むことにする。

 でもいつかその意味を知るときが来るんじゃないかという予感めいたなにかも同時に感じていた。


「なに話してたの?」

「あー、感謝の言葉を伝えに来ただけだよ。百木先輩がフォローしてくれなかったら今頃どうなってたかわからないし……」

「うーん、確かにね……」


 渚の表情が曇る。

 きっと、この前のことを思い出しているのだろう。

 あたしは気を取り直すために、明るく振る舞うことにした。

 だってもう終わったことだし。


 それに、あたしには新しい友だちができたんだから。

 渚とはまた違う意味で信頼できる相手だと思っている。

 だから今はそれで充分だと思った。

 だけど、渚は少し不満げにつぶやく。


「なんか花恋ちゃん、すごく明るいね。あの時のことでダメージ受けてないの?」

「うーん……昨日までは見てたやつぶっ殺すって思ってたけど、今はあんまりかな。百木先輩が助けてくれたし」


 あの時は絶望しか見えなかったが、今は希望が見える。

 それだけで気分が違うものだ。

 百木先輩に感謝しないと。


 すると、渚はさらに眉を寄せた。

 一体なんなんだろう。

 あたしは首を傾げるばかりだ。

 だけどすぐにその理由はわかった。


「私じゃ花恋ちゃんのこと安心させられないのに、百木さんは安心させられるんだ……」


 拗ねる子どもみたいな口調で言うのだから、可愛いと思ってしまった。

 しかし、ここで笑うわけにもいかない。

 いつも渚がやってくれているように、あたしも渚を支えなくちゃ。


「そんなことないよ。あたしは渚がいてくれるだけで心強いもん」


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