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真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない  作者: M・A・J・O
第一章 吸血少女は傷つけたい
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第16話 おなかいっぱい

「はぁぁ……いっぱい食べた……」

「おぉ……花恋ちゃん、見かけによらずいい食べっぷりだね」


 外はまだ寒そうで、コートやマフラーで寒さを凌いでいる人をちらほら見かける。

 だけどステーキハウスの店内はあたたかく、おまけに熱々のお肉を食べたからあたしの身体も熱々だった。


「ほんとに美味しいね。これならネットの評判も頷けるよ」

「えへへ、お父さんもお母さんも頑張って作ってるからね。そう言ってもらえて嬉しい」


 夏樹ちゃんはさぞご両親に愛されて育ったのだろう。

 このお店と言い、夏樹ちゃんの態度と言い、なんだか夏樹ちゃんが羨ましく思えてきた。

 羨んだところでどうにでもなるものじゃないけど。


 あたしだって、親の愛情を感じていないわけではない。

 血は繋がっていないけど、実の親みたいに接してくれる。

 まあ、実の親はあたしが赤ちゃんの時に交通事故で死んじゃったから、実の親というのがどういうものなのかわからないんだけど。

 それでもこの前あたしが早退した時に母親が急いで迎えに来てくれたし、普段は全然家にいない父親も帰ってきて心配してくれたし。


 だけど、でも、なぜ夏樹ちゃんのことが羨ましくなるのだろう。

 それはきっと、彼女が幸せそうだからだ。

 幸せな家庭で育った人は、それだけで輝いて見える。

 そういうことなのかもしれない。

 もしくは『隣の芝生は青く見える』という現象か。


「あれ? なんか顔色悪くない?」

「ううん! 大丈夫!」


 いけない。考え事をしていたせいで顔に出ていたようだ。

 あたしは慌てて笑顔を作って誤魔化した。

 するとその時、スマホにメッセージが入った通知音が鳴る。

 なんだろうと思って画面を見ると、母親からのものだった。


『明日仕事休みになったから一緒に過ごせるわ』


 それを見た瞬間、心臓が大きく跳ね上がった気がした。


「……っ」

「花恋ちゃん?」


 急に黙ってしまったあたしを心配してか、夏樹ちゃんが声をかけてくる。

 その声でハッとなったあたしは、急いで返事を打った。


『わかった!』


 それから少しの間やりとりをして、あたしたちは店を出た。

 まあ、夏樹ちゃんはここが家だからもうお別れなんだけど。


「じゃあね、また学校で会おうね」

「うん、バイバイ」


 軽く手を振って別れた後、あたしはすぐに帰路についた。

 電車に乗っている間も、ずっとそわそわしっぱなしだった。

 いつもならすぐに着くはずの自宅までの距離が長く感じる。


 はやく会いたいような、まだ会いたくないような複雑な気持ちを抱えながら、ようやく家の前に辿り着いた。

 お母さんが休みなのは明日なのに、やけに今からドキドキしている。


「あ」


 そんな時に限って鍵を忘れたことに気づいてしまい、ドアの前で立ち往生してしまった。

 あたしの家はオートロックで一人暮らしのようなものだから、鍵を忘れたら中に入るすべがない。


 インターホンを押しても、当然だれも出てこない。

 そういえばお母さんの仕事場ってどこにあるんだろう。

 職場まで行ったことがないことにも気づいてしまった。

 これは完全に詰みだ。


 このままここで待ちぼうけするしかないのかと諦めかけたその時だった。

 ――ガチャリ。


「え!?」


 突然背後から扉の開く音がして、驚いて振り返ると、そこには……


「おかえりなさい、花恋」

「……ただいま、お母さん」


 なぜか玄関の扉を開けてくれたのはお母さんだった。

 家にお母さんがいるというのは嬉しいけど、どうしてもういるのかという驚きと戸惑いの方が大きい。

 家にはだれもいないというのがあたしの日常だったから。


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