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真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない  作者: M・A・J・O
第一章 吸血少女は傷つけたい
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第15話 お肉を食べたい

 足りなくなった鉄分を補うべく、渚の実家がある海谷市にやってきた。

 あたしとしてもこの街は慣れ親しんだ場所だけど、やはり一年二年経てば街の景色も様変わりする。

 渚の実家があるからこの街に来た……のではなく、ただなんとなく来てみたくなったのだ。

 美味しいと評判のステーキハウスがあるらしいし。


「わぁ……懐かしいなぁ……」


 様変わりしたと言っても、すべてが変わっているわけじゃない。

 変わらないものも確かに存在していて、なんだか不思議な気持ちにさせられる。

 あたしと渚が生まれ育った街だと言うだけで、なぜだか特別なものに感じられた。

 そんなことを考えながら歩いていると、見覚えのある顔を見つけた。


「あ……」


 向こうもこちらに気付いたようで、小さく声を漏らしている。

 その人物は、あたしがよく知っているクラスメイトの……


「夏樹ちゃん?」

「え、花恋ちゃん!? どうしてここに!?」


 この前あたしと渚の関係を問い詰めてきた夏樹ちゃんだった。

 夏樹ちゃんも驚いているようで、この前の弱々しい声とは別人のような感じがした。

 いや、いつもは割と今のような感じに近いんだけど。


「もしかして、夏樹ちゃんってこの辺に住んでるの?」

「うん、そうだよ。『ステーキの店 ガーデン朝倉』が私の家なの」

「え、あたしが行こうとしてたとこだ」

「え、そうなの?」


 思わぬ偶然に驚きつつも、せっかくだから一緒に行くことにした。

 ちょうどお腹空いていたし、ちょうどよかった。


「そういえば花恋ちゃんはどうしてこの街に来たの? 確か花恋ちゃんの家って学校の近くだったよね?」

「あー……さっきも言ったけど、夏樹ちゃんの店に行こうと思ってね。ネットで評判よかったから」

「なるほど。なんか嬉しいなぁ」


 嬉しそうにはにかみながら、夏樹ちゃんは笑う。


「花恋ちゃんとはあんまり話したことなかったもんね。でもこうして話す機会があって良かったかも」

「あー、そうだっけ。あたしいつも色んな人と話すからだれと話してだれと話してないかわからなくなっちゃった」

「あはは、花恋ちゃんらしいね」


 それからしばらく世間話をしていたら、あっという間に店に着いた。

 お店の外から見る限り、結構繁盛してるようで、お客さんもたくさん席に座っている。

 店内に入ると、食欲を刺激する匂いが鼻腔を刺激してくる。


「うわ、いい匂いだね。あたしお腹すいてきちゃったよ」

「せっかくだし、花恋ちゃんの好みを聞きながら私がよさげなメニューを選んでみようか?」

「え、いいの? ありがとう、助かるよ」


 大勢のお客さんで賑わっているみたいだけど、幸いにも空いていた席があるからそこに座ることにした。

 席について早速メニューを見る。

 どうやらランチセットが一番安くてお得なようだ。

 夏樹ちゃんもこれをおすすめしてくれたし。


「あ、焼き加減選べるんだね」

「まあ、だいたいのお店はそうなんじゃないかな。ちなみに好きな焼き加減とかある?」

「うーん、レアかなぁ。赤……じゃなくて柔らかいのが好きで」

「えー、そうなんだ。お肉はよく焼いた方がいいと思うけど……まあ、レアでも肉の表面をしっかり焼けば食中毒の心配はないか……」


 あたしがレアという単語を口にすると、夏樹ちゃんの目付きが変わった気がする。

 なにがいけなかったのだろう。

 なにやらブツブツつぶやいていて心配になる。


「えっと……夏樹ちゃん?」

「あ、ご、ごめんね。私お肉はじっくり焼いた方がいいなって思う派で……あ、でも好みは人それぞれだもんね。気にしないで」


 そう言いながらも、彼女はどこか納得いかないような顔をしていた。

 だけど、あたしは気にせずにレアステーキを注文した。

 渚の肌のように柔らかいレアステーキってやみつきになるんだよね。


 それからほどなくして、ランチセットが運ばれてきた。

 夏樹ちゃんはもうお昼ご飯は済んでいるようで、「私のことはお気になさらず〜」と言っている。

 そりゃ実家がステーキハウスなら、いつでも食べ放題だよね。

 運ばれてきたレアステーキを口に含むと、中まで火が通りきっていない柔らかな旨みが口いっぱいに広がった。


「お、美味しい〜!」


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