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真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない  作者: M・A・J・O
第一章 吸血少女は傷つけたい
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第12話 わからない

「さっき百木先輩が探してたよ?」

「あ、うん、知ってるよ。でもね……思ったように身体が動かなくて……」


 あたしはそう言う渚の制服を躊躇なく脱がす。

 みんなの王子様らしからぬピンク色の可愛らしい下着が目につくが、今はそこに注目すべきではない。

 渚は戸惑いながらも、されるがままになっている。


「……ごめんね」

「へ?」


 あたしがポツリとこぼすと、渚はポカンとした様子でこっちを見てきた。


「あたしが……やりすぎたんだよね……」


 今の時期は真冬で、辺りは冷たい風が吹き荒れている。

 あたしは渚が寒くないように、ゆっくりと傷だらけのお腹を隠すように抱きついた。

 まあ、あたしが制服のボタンを外したんだけどね。


 でも、それは傷を確認するためだ。

 決して寒さでもっと弱らせようという気はない。

 渚はたまに古傷が痛むことがあるらしい。

 寒くなると、それが顕著になるという。


 渚は看護師を目指しているから、ある程度自分で傷の処置をすることができる。

 だけど、それでは限界が来る。

 病院に行こうにも、そうするとあたしが傷をつけていることを言わなければならない。

 渚は優しくて頭がいいから、きっとあたしのために我慢してくれているのだろう。

 ……あたしのせいだ。


「ちょっ、花恋ちゃん? どうしたの?」

「……あったかい? もうちょっとだけこうしてていいかな?」

「え、う、うん……」


 渚が大人しく受け入れてくれたことに安心しつつ、あたしはぎゅっと抱きしめながら耳元で囁いた。


「……あたし、もうそういうの控えるから。だからお願い、これ以上無理しないで」

「……ありがと、花恋ちゃん」


 お礼を言う声には少し嗚咽が混じっていた気がするけど、あたしはそれに気付かかないふりをした。

 渚は昔から優しくてあたたかくて、いつもあたしを照らしてくれる。

 そんな彼女にあたしはずっと憧れていた。

 いつだって自分のことより他人を優先してしまうような彼女のことを、あたしはずっと傷つけてきたのだ。


「ねぇ、渚」

「どうしたの?」

「あたしじゃ、やっぱり渚の恋人は務まらないのかな」

「なに言ってんの花恋ちゃん!?」


 渚がびっくりして目を丸くしている気配を感じる。

 そりゃそうだ。こんな話急にするなんて、わけがわからないよね。


「……ごめん、変なこと言ったね」

「あのね、私も花恋ちゃんのこと好きなんだよ?」

「……うん、知ってる」

「ふふ、ありがとう。私の気持ちわかってくれてるみたいで嬉しいよ」

「……うん」


 渚の言葉を聞いて、胸が張り裂けそうなくらい嬉しかった。

 だけどそれと同時に悲しくもあった。

 彼女は優しいから、こうやってあたしのことを好きだと言ってくれる。

 その言葉に嘘がないということもわかっている。

 でも、本当にそれでいいのかなと思う時があるのも事実だ。


 現に、あたしは渚のことをここまで苦しめている。

 でもあたしはやめることができない。

 少しすれば、あたしはまた彼女のことを傷つけに行ってしまうだろう。


 それが怖かった。

 このままだといつか愛想を尽かされてしまうんじゃないかと思うと不安で仕方ない。


「あ、あの、花恋ちゃん? いつまでこうしてるのかな?」

「もう少しだけ……」

「もー、仕方ないなぁ」


 呆れたように笑いつつも許してくれる彼女に感謝しながら、あたしは泣きそうになるのを堪えて、ただひたすら抱きしめ続けた。


「ねえ、花恋ちゃん」

「……なに?」

「……私の方こそ、ごめんね」


 なんで謝ってるのか意味がわからなかった。

 謝るのはあたしの方なのに。


「花恋ちゃんがこんなに苦しんでるのに、私じゃなにもできないから。こんな私……情けないよね」


 渚はそう言うけど、それは渚のせいじゃない。

 あたしが好きな人を傷つけたくなるのがダメなのだ。

 そこがすべてのはじまりで、渚が謝ることなんかなにもない。

 だけどあたしはなぜが声が出ず、ただひたすらに渚のことを強く抱きしめ続けたのだった。


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