表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/56

第8話 新しい部署

こんにちは。

頭の中の物語を文字にしてみます。

ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。


よろしくお願いします。


※千紘が新しい部署で仕事を始めます。

〜2020年3月16日〜


「それで、希望はどちらにしますか?」

目の前の女性から問いかけられ、千紘ははっとする。

慌ててスマホを取り出し、日付を確認した。


「2020年3月16日」


(過去に戻ってる……)


 千紘は「えっと……」としばらく沈黙した後、「すみません。もう一度お願いします……」と小さく言った。

女性は、少しため息をつきもう一度話し出す。



「野村さんのご希望から、派遣先としてこちらの企業がマッチしているかと思います。職種は営業事務と総務事務が現在募集中です。ただ総務の方は紹介予定派遣となっており、雇用期間は6ヶ月。その時点で直接雇用になるか再度企業様との話し合いがもたれます」



 千紘は(この女性は派遣会社の担当の人だ)と思い出していた。

当時、千紘は派遣会社で仕事を探す時、紹介予定派遣は選択肢になかった。

就活に失敗した新卒の自分が、6ヶ月の試用期間で採用される自信がなかったのもある。派遣で3年くらい経験を積んで何かやりたい仕事を探せば良い、と思っていたのだ。


 そして選んだ営業事務であの部長の下につき、ひどく後悔した。

(その後悔でここに戻ったってことか……)



 そして思う。今の千紘は「私は変わりたい。もっと、自分に自信をもって、強くなりたい」という思いがあった。

そして、海斗に言われた言葉も心に深く残っている。



「総務事務でお願いします」

千紘ははっきりした声で答えた。





〜2021年8月27日〜


「本当に野村さんがここに来てくれて助かってるのよ~」

穏やかな女性の声に千紘ははっと気がつく。



 目だけを動かして周りを見る。

小さな事務所の中、だろうか? 部屋の周りには棚があり、ファイリングされた書類がぎっしりと詰まっていた。

デスクは5つほど、今は上司席に座る男性と千紘の隣の女性、千紘の三人だけが座っていた。


 千紘は机の上のカレンダーを確認する。

2021年8月のページが開かれていた。


「あ、ありがとうございます」と曖昧に女性に向かって返事をした。

女性は「先にランチ行ってくるわね。今日は結構ファイリングが多いから、よろしくお願いね」と言いながら席を立った。

「はい。いってらっしゃい」と千紘は返事をする。



 千紘は急いでパソコンの画面を確認する。

社内システムの部署のスケジュール欄を見てみた。

女性の名前は鈴木 祐子(すずき ゆうこ)と言うらしい。

この大きな会社で総務部は部長を含め三名。


(営業部の大きなフロアに比べたら、ここが小さな小部屋なのはそのせいか……)と妙に納得する。


「鈴木さんが戻る前に仕事のある程度の内容を把握しないと……」

千紘は急いで過去のメール内容や業務マニュアルをチェックし出した。



 コンコン。という音が聞こえ扉が開く。

「はい」と振り返った千紘は、どきっとする。

入って来たのは海斗だった。


「お疲れ様です」海斗はいつもと変わらず笑顔だった。

もう営業事務ではない千紘の事は、きっと知らないのだろう、と心がチクッとするのを感じながらカウンターに近づく。



 ついさっき、海斗に抱きしめられた事を思い出し、恥ずかしくていてもたってもいられなくなる。

そして(でも、あの出来事も、もうない事になってるんだよね……)と思い出し寂しくなった。



「健康診断の結果をもらい損ねちゃって取りに来たんです」海斗が爽やかに言った。

千紘は「健康診断ですね……」と言いながらそっと見回す。

壁際の棚にそれらしき書類を発見し、その中から海斗の名前の封筒を見つけ出した。


 ほっとしながら「どうぞ」と渡す。

海斗は「ありがとう」と言いながら、ふと千紘の顔を見た。

そして「あれ? 昨日、名刺入れを拾ってくれた人?」と言った。


 え?? と千紘は思う。

(ここでも名刺入れを拾った過去は変わっていない?)

千紘は慌てて「はい。そうです」と笑顔で答えた。

海斗はぱっと笑顔になり「総務だったんだ! どこの部署の人だろうって思ってたんだよね」と言いつつ、千紘の顔を覗き込んだ。


 千紘は「えっっ」と戸惑い顔を赤くした。

そんな千紘の様子を見て、海斗は優しく微笑んで言った。

「君、頑張ってるんだね……」



 え?? と再度、千紘は思う。

(どういう意味だろう……)



 海斗は「じゃあ、これありがとうね」と笑顔で言い、さっと部屋を出て行った。

その後ろ姿を見送りながら、千紘の中で何とも言えない不思議な気持ちがわいていた。





 総務部での仕事は穏やかだった。

仕事自体は細かい業務が多く忙しいし、常に人手が足りない状況だ。

(それでも、あの部長の下で仕事をしていた頃なんて比べ物にならないほど、心は穏やか……)


 千紘は総務での仕事が楽しくなっていた。

同僚の鈴木はとても面倒見がよく、千紘と気も合って色々と話ができた。

千紘は庶務全般の業務や社内文書のファイリングなどを主に行っていた。



「鈴木さん。社内文書のファイリングなんですけど、ちょっと見出しをつけて探しやすくしてみたいと思うんですが、どうでしょうか?」千紘が鈴木に話しかける。

「良いんじゃない? 野村さんの思うようにやってみていいわよ」

鈴木は千紘の提案を大抵OKしてくれた。


 自分で考えて改善できる所は改善する。そんな働き方もあるんだと学んだ。

「ずっとここで働きたいな……」千紘はそう思っていた。

お読み頂きありがとうございました!!!→つづく


「面白い」「続きが読みたい」と思って頂けた方は、ぜひブックマーク、下の評価をお願いします!

最終話まで書き続けるモチベーションアップにつながります!

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ