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第48話 新しい生活

こんにちは。

頭の中の物語を文字にしてみます。

ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。


よろしくお願いします。

~2013年3月24日~


 マサくんの家と千紘の家はまた隣通しになった。

この地域も昔は人気の別荘地だったのだろうが、今では空き家も多い。

それでも大切に建てられたであろうログハウスは、千紘もマサくんも一目で気にいる程、素敵な造りだった。


 丸太が抜き出しになった壁。木のぬくもりのあるオレンジ色に包まれた室内。はじめて見る大きな薪ストーブ。吹き抜けになったリビングからは高い天井が見える。千紘の家には二階に上るらせん階段があり、異空間へ入るような特別な気分になった。


 マサくんの家も造りは違うが全体的な印象は同じだった。

唯一違うのが、二階の奥の部屋に大きな天窓がある事だった。

マサくんの両親は見上げると天窓が見える位置にマサくんのベッドを置いた。


「すごい! 星空を独り占めしたみたいだね!」

千紘は天窓から見える夜空に興奮して声が大きくなる。

「僕もこんなにたくさんの星、今まで見たことがないよ……」

マサくんも嬉しそうだった。


「それ図鑑?」

マサくんの膝に置いてある分厚い本を見ながら千紘が聞く。

「うん。小学生の時の図鑑。今まで星空なんて見上げた事がなかったから開くこともなかったんだけど、色々見てみたくなって……」

「そっか」

千紘はマサくんの様子が嬉しくなり、ふふっと笑った。





 千紘の高校生活も本格的に始まった。

通学にかかる時間は片道二時間以上。通えない距離ではないが、慣れない高校生活と合わさると中々きつかった。

それでも千紘は毎朝5時に起き、父と一緒に駅まで行って電車に乗る生活をしている。

クラスメイトからは「なんでこの学校にしたの?!」と驚かれた。


 そして千紘は学校から帰るとすぐにマサくんの家へ行き、ほとんどの時間をマサくんの部屋で過ごした。

マサくんは最近、体調が悪くなる事がしばしばあり、寝込む日も増えていた。

その度に千紘は「マサくんが5月20日を乗り切れますように……」と、星空に向かって祈るのだった。





 千紘は学校から帰り、マサくんの部屋をのぞく。

マサくんは珍しく身体を起こして図鑑を見ていた。


「マサくん。ただいま」

千紘が声をかけると、マサくんは「おかえり」と笑顔になった。

「学校どうだった?」

「今日はね……」と千紘は学校の様子を話す。

マサくんは病気のために高校を休学していた。

千紘は時々、マサくんのクラスメイトから手紙を預かったりもしているが、マサくんが治療法もない病気だという事は学校でも伏せられていた。


 ふとマサくんが下を向いたので、千紘は「きっといつか一緒に通おうね……」とマサくんの手を握って言った。

「そうだね……」とマサくんは小さくつぶやく。



 5月20日はもう目前だった。

千紘は毎晩、ベッドに入る度に不安に押しつぶされそうになっていた。

「明日目覚めて、マサくんがいなくなっていたらどうしよう……」

何もできず、ただその日が来るのを待つしかできない自分がもどかしかった。



「この星座ってなんだっけ? 見たことあるよ!」

千紘はわざと話題を変える様、マサくんの図鑑を指さしながら明るく言った。

「北斗七星だよ。よく、ひしゃくの形って言われるよね。それでこれが北極星。今日も天気が良いから暗くなったら見てみよう」

ふーんと千紘は図鑑を覗き込む。


「春の星座って書いてあるけど、季節によって見える星が変わるの?」

「地球は太陽の周りを1年かけて回るでしょ。だから地球の位置で見える星座も変わる。でも実際には季節ごとに星座が見えなくなるわけじゃなくて、日暮れすぐだったり、明け方には他の季節の星座もほとんど見えるみたい。夜の時間に南の空に見える星座をその季節の星座って言うんだって」

「詳しくなったね」

千紘が笑いながら言うと、マサくんは「まあね! 一日中読んでるから」と笑った。



 しばらく二人で図鑑を眺めていると、マサくんがぽつりと言った。

「本当は……死にたくない……」

千紘ははっとマサくんを見た。

「自分では、もう覚悟はできてると思ってた。だって、本当ならちーちゃんが僕の最初の後悔にたどり着いた時点で、僕は空に昇るはずだったから……でも、こうやってちーちゃんと一緒に過去をやり直して、覚悟がどんどん揺らいで来たんだ。怖いよ……」


 見るとマサくんは泣いていた。千紘はマサくんをぎゅっと抱きしめる。

千紘の目からも次から次へと涙がこぼれ落ちていた。

「マサくん……私も怖いよ……マサくんを失いたくないよ……だからこそ、希望を捨てずにいよう。私は諦めないから……」


千紘は図鑑を指さしながら言う。

「この夏の天の川も、秋のカシオペヤ座も、冬のオリオン座も……必ず、必ず一緒に見よう。私、星座見つけるの苦手だから、マサくんがいないと見つけられないよ……」

千紘の頬を伝う涙をマサくんがそっと手で拭った。

「ありがとう……ちーちゃん」



その晩、天窓からのぞく春霞(はるがすみ)の夜空には、北斗七星がやさしくうるんで見えていた。

お読み頂きありがとうございました!!!→つづく


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