第32話 複雑な心
こんにちは。
頭の中の物語を文字にしてみます。
ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。
よろしくお願いします。
~2010年9月24日~
日が傾きだし、海斗と正樹の影が前に伸びている。
それを見ながら海斗がゆっくりと話した。
「ねえ。正樹。前に『過去にものすごく後悔した事がある』って言ってた話なんだけど。聞いてもいいかな」
海斗の真剣な表情に、正樹は少し戸惑いの色を見せつつ、しばらく黙っていた。
「それは……海斗でも言えないんだよ。というか、自分でもよくわかってないのかな……」
「どういう事?」
「うーん……『あの時、ああすれば良かった』っていうのが後悔でしょ? でもその時の気持ちが自分でもよくわからないんだ。何であんな事しちゃったのかも……だから過去に戻ってやり直したいって思ってたのかも知れない」
海斗は正樹を見て言った。
「過去には戻れるの……?」
正樹は笑いながら答えた。
「実際にはあり得ないでしょ? 幽霊にでもなったら別だけど!」
あははと笑う正樹のその言葉に海斗は何かが引っかかっていた。
そして海斗は語気を強めて言った。
「正樹! もう過去の事にとらわれるのはやめるべきだよ。正樹は今ここに生きてる。前を向いて進まなきゃ」
いつになく真剣な海斗の様子に、正樹は不思議そうな顔をしていた。
「どうしたの? 海斗……」
「いや……あの。もし正樹が前に進めない原因に誰かが関係してるんだとしたら、絶対に会いに行った方がいいと思うんだ……」
正樹は驚いた顔をして海斗を見た。
「海斗は、何か知ってるの……?」
海斗はどう答えたら良いかわからずに下を向く。
そんな海斗の様子を見て、正樹は静かに言った。
「でも、ありがとう。そんな風に言ってくれる友達ができて僕は嬉しいよ……」
正樹の言葉を聞きながら、海斗は思っていた。
きっと自分は正樹のためだって思いたいだけで、本当は自分ために動いているんじゃないか、と。
「全ては自分のためだ……千紘を見守っていた自分のためだ……」
海斗はそうつぶやいた。
だんだんとあたりは薄暗くなっていた。
「そろそろ帰ろうか」と正樹が立ち上がる。
海斗は正樹の後ろ姿を見ながら「それでも良いじゃないか」とつぶやく。
「たとえ自分のためだっていい。そうやって動くことが正樹を救う事につながるなら」
海斗は決心して声をかけた。
「正樹! やっぱり会いに行こう!」
「え??」と正樹が振り返る。
「正樹は誰かに会いたいけど、会えないでいるんでしょ?! それがずっと心残りで、正樹が前を向けない理由になっているんなら、やっぱり会いに行くべきだと思う。今は俺が変な事を言ってるって思ってていいから。それでも俺は正樹を過去の後悔から守りたいんだ!」
正樹はしばらく下を向いて立ち尽くし、何かを考えているようだった。
そしてまだ迷いのある目で海斗を見て言った。
「……うん」
◆
~2010年9月25日~
次の日、朝早くに海斗は正樹と共に歩いていた。
あの角を曲がれば千紘の家に続く一本道になる。
突然、正樹の歩くスピードが遅くなる。
「やっぱり、今更だめだよ……」と正樹がつぶやいた。
海斗は正樹の背中を押して言った。
「大丈夫。俺はここで待ってるから」
正樹は戸惑った声で「海斗は行かないの?」と言った。
「うん……ここから先は正樹が一人で行くのがいいと思う……」
海斗の言葉に正樹は小さくうなずき、そっと角を曲がった。
海斗は祈るように壁にもたれ、その場に座り込んだ。
正樹と千紘が再会して、2013年8月27日の未来が変わるように……
「でも……心は複雑だな……」
静かにそう、つぶやいていた。
◆
正樹はゆっくりと住宅街の家々を見ながら歩いていた。
昔住んでいた自分の家。今はだれか違う家族が住んでいるのだろうか。
そしてその隣に千紘の家が見える。
「でも……今更、突然家を訪ねてどうしたらいいんだろう……」
ふと目線を横に向け、正樹ははっとした。
あの石が今もそこに佇んでいるのを見つけたのだ。
正樹は石の前にしゃがみ込んだ。
「まだあったんだ……」
「いつもここで遊んでたんだ。思い出がありすぎるんだ……この石はずっと見てたのかな……」
そして手を伸ばし石に触れてみる。
「……?!」
何かを感じたような気がした。
いや、思い違いか……?
正樹が戸惑っていると、横から驚いたような声が聞こえた。
「もしかして! マサくんじゃない?!」
どきっとして振り向いた先には、千紘の母親が立っていた。
お読み頂きありがとうございました!!!→つづく
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