第29話 ループへの決意
こんにちは。
頭の中の物語を文字にしてみます。
ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。
よろしくお願いします。
海斗は街中を歩いていた。
家に帰る気になれず、ただただ歩き続けていた。
頭の中ではいろいろな事がぐるぐる回っている。
でも、考えても考えても答えはひとつしかなかった。
「過去に戻るしかない」
そこからは逃れられないのだ。
後は、自分が決断するだけ。
海斗はどこかで次に戻る時は一人で行こうと思っていた。
きっと次は中学生に戻るだろう。
そこで正樹と会い「過去に戻る方法を見つける」という呪縛から、正樹を救いたい。
そして正樹の最初の後悔の要因である千紘と、もう一度出会わせる。
それができればきっと状況を変えられると思っていた。
そのためには、現代の千紘ではなく、何も知らない過去の千紘と出会った方が良いはずだ。
たとえそれが、自分と千紘とのつながりが消えてしまう結果になったとしても……
ふと見上げると、ビルの壁面に設置されたビジョンからオリンピックのニュースが流れていた。
インタビューを受けている選手の顔を見て、海斗ははっとする。
「中村だ……」
中村は陸上トラック競技の代表として、試合に出場していた。
海斗は監督が言っていた言葉を思い出す。
「あの時、海斗が中村に声をかけてくれてなかったら、今の中村はなかったと思ってる」
海斗は拳を握りしめた。
大丈夫。ほんの些細なきっかけでも、人は、未来は、明るい方へと足を向けることができる。
海斗はスマホを取り出し、千紘の連絡先を押していた。
◆
千紘は石の前に立っていた。
「海斗さんに連絡しよう」
そう思ってスマホを取り出す。
……と、同時に海斗からの着信が表示された。
千紘は慌てて電話に出る。
「もしもし!」
海斗は少し驚いた声で「呼び出し音が鳴らずに千紘の声がしたからびっくりした!」と言ってから笑った。
千紘は海斗の笑い声を聞き少しほっとした自分に気がついた。
「よかったです。海斗さんの笑い声が聞けて……」
千紘がそう言うと、海斗は「そっか……」と安心した声を出した。
「ちょうど今、連絡しようと思ってた所だったんです」
「どうしたの?」
一旦息を吸ってから千紘が言った。
「私……過去に戻ろうと思います」
その言葉を聞き、海斗も返事をする。
「うん。俺もそう言おうと思ってた」
「今どこにいるの?」と海斗が聞いた。
「石の前に立ってます」
「じゃあ、俺も今から行くから。待ってて」
海斗の言葉に力がこもる。
千紘もはっきりした声で「はい」と答えた。
◆
千紘と海斗は石の前で向かい合って立っていた。
もう辺りは暗くなり、人通りは少なくなっている。
「本当は……」と海斗が口を開いた。
「今回は、一人で行こうと思ってたんだ。正樹に会って、『過去に戻る』事をやめさせる。そして、正樹と千紘をもう一度会わせようと思って……」
海斗がそこまで話したところで千紘が声を出した。
「嫌です!」
「千紘……?」
「海斗さんが一人で行くなんて、嫌です……」
「でも、それが一番、正樹にとっては良いんじゃないかと思って……」
「海斗さんが一人で過去を変えても、マサくんと私がまた元通りに戻れる保証はありません。そして海斗さんと私は未来で出会えなくなっているかも知れない。海斗さんの記憶が、私から消えてしまうかも知れない……それはマサくんが望んだことではないはずです」
千紘は目に涙をいっぱいに溜めながら続けた。
「私は変わりたい。もっと強くなりたい。このループは、私から始めたものです。私も一緒に行きます」
千紘の言葉を聞き、海斗はしばらく考え込むように黙っていた。
そしてふっと笑ってから言った。
「わかった。一緒に行こう。それと……」
海斗は千紘の涙をそっと手で拭って言った。
「千紘はもう十分に強い。ちゃんと自分の考えをもっていて、力強く生きている。自信をもって前に進んでいるんだよ」
千紘は顔をあげて笑顔になり「はい!」と言った。
◆
千紘と海斗は手を握って石の前に立った。
「次に会うのは中学生かな」海斗が笑いながら言う。
「会うのを楽しみにしてます」千紘も一緒になって笑う。
「マサくんを救うために……」千紘が手を伸ばす。
「出発だ!」
千紘の伸ばした手の上に海斗が手を重ねる。
そして二人は一緒に石に触れた。
一瞬にして突風が吹き、二人はその渦に飲み込まれていった。
お読み頂きありがとうございました!!!→つづく
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