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第22話 あの石の前で

こんにちは。

頭の中の物語を文字にしてみます。

ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。


よろしくお願いします。

~2021年8月27日~


「千紘ちゃん! もう定時過ぎてますよ。帰らないの?」

突然顔を覗き込まれ、千紘はびくっと顔をあげた。


 見慣れた机に目の前のパソコンの画面。

いつもの会社のフロアだった。


 千紘は声をかけてきた人物に目を向ける。

「私、先に上がるね。また来週」

そう言い残して出て行ったのは、派遣仲間の先輩の明美だった。


「もしかして……一番最初に戻ってる……?」



 千紘は心の動揺がまだおさまっていなかった。

次から次へと溢れる涙を慌ててタオルで押さえながら、パソコンの画面を操作する。

手慣れた手つきで社内スケジュールを確認した。

「2021年8月27日」


「やっぱり、戻ってきている……」

千紘はまた溢れる涙を押さえ、机に肘をつき頭を抱えた。



 するとフロアの奥、千紘の背中の方から大きな声が聞こえてきた。


「海斗! どうしちゃったの? 急にぼーっとして」

亜理紗の声だった。

「今日はみんなで飲み会の日でしょ。一緒に出ようよ」


 亜理紗の問いかけに対する海斗の声は聞こえない。

千紘は思わず振り返って立ちあがった。

涙が溢れ、真っ赤になった目で海斗を見つめる。

海斗の顔も、今にも泣きだしそうな顔だった。



 千紘は急いでパソコンをシャットダウンし、荷物をまとめると「お先に失礼します……」と誰にでもなく声をかけ、フロアを出た。

エレベーターに乗り込もうとすると誰かが走って乗り込んでくる。

フロアの中からは「海斗!!」という呼び止める声が聞こえていた。





 エレベーターの中で千紘は感情を抑えきれなくなり、わぁ……と声を出して泣いた。

海斗はそんな千紘の肩を抱き「ごめん……間に合わなくて、ごめん……」と何度も言った。





 駅に向かう途中でベンチを見つけ、海斗が「ちょっと座ろうか」と言った。

千紘は頷き二人で座る。

まだ明るさの残る空には一番星が光って見えた。


 海斗は口を開く。

「あの時、咄嗟に千紘を歩道に引き戻した……千紘もトラックに撥ねられると思ったから……でも……」

海斗の目は潤んでいた。

「でも……正しかったのかわからない。千紘が正樹の手を引いていたら、正樹も助かったのかな……?」


 海斗は自分の事を責めている。

千紘は海斗の手を握って何度も首を振った。

「海斗さん。海斗さんは何も悪くないです。私の事を守ってくれた。あの時、私の声も手も、マサくんには届かなかった……」



 しばらく二人はぼーっと夜空を眺めていた。

だんだんと空の黒が濃くなっていく。


 どれくらい時間が経っただろう。

千紘は「あ……」と声を出した。

「もしかしたら……」そして海斗に向き直って言った。


「いつもループから戻って来た8月27日の夜、あの石の所に染田くんが……マサくんが立っていたんです! もしかしたら、今日も会えるかも知れない。そうすれば、何か救う方法がわかるかも知れません」


 千紘の心は半信半疑だった。

前回、石の所で染田に会った時、染田は目の前から消えてしまった。

「会えないかも知れないけど……」と千紘はうつむく。


「行ってみよう。一緒に!」海斗が答え、千紘はぱっと顔をあげた。





 家の最寄り駅を降り、道を急ぐ。

千紘も海斗も気持ちが焦り自然と速足になっていた。


 家のすぐ側の角が見えてくる。

海斗が千紘に手を差し出した。

千紘は頷き、二人はぎゅっと手を握り角を曲がった。



 そこには、いつものように染田が立っていた。

深緑色のブレザー、チャコールグレーのズボン……

「染田くん!」千紘が声を出す。


 はっとして染田は顔をあげ、千紘と海斗の方を見る。

染田の顔は少し驚いているように見えた。


「染田くん……マサくんなんでしょ?! 私たち、マサくんを助けたい。どうしたらマサくんを救えるの?!」


 マサくんは千紘の問いかけには答えず、二人を見てゆっくりと言った。

「よかった。出会えたんだね」


「正樹。正樹が千紘と俺をつないでくれたんだろ。今のお前はどこにいるんだ? 高校生の時に消えたお前はどこに……?」海斗が呼びかけた。


 マサくんは穏やかに微笑んでいた。

千紘が前に会った時のような、とても深い悲しみを抱えた顔つきではなかった。


「僕はね、たどり着いたんだ。最初の後悔に……そこで、待ってる……」


 マサくんが言い終わるか終わらないかの内に、ふっとマサくんの姿は消え、暗闇だけがそこに(たたず)んでいた。

「え……」

残された千紘と海斗は、ただ茫然と石を見つめていた。

お読み頂きありがとうございました!!!→つづく


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