第21話 届かない声 海斗のループ:高校3年生
こんにちは。
頭の中の物語を文字にしてみます。
ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。
よろしくお願いします。
千紘はとにかく走った。
あてもなく。
そしてふと立ち止まる。
「やみくもに走ってもダメだ。でも、どこへ行ったらいい?
あぁ、わからない……ゆっくり考えるんだ、千紘!」
千紘は自分の頬をぱんぱんと叩いた。
そしてゆっくりと母の言葉を思い出す。
母は「さっき」と言っていた。
という事は、そんなに時間は経っていないはず。
マサくんは千紘に会いに来たが、母の言葉で千紘の不在を知ったはずだ。
まだそんなに遠くには行っていないはず。
そしてマサくんの母親が言っていた、事故にあった時の説明を思い出す。
「横断歩道に信号無視のトラックが突っ込んだって。
そしてマサにぶつかった……見ていた人は大勢いた」
「信号無視ってことは、横断歩道にも信号機がついていたはず? 人が大勢いたって事も考えると……ここら辺で信号機が付く大きな横断歩道はバス通りが一番近い……」
千紘は方向をくるっと変え、バス通りに向かって走り出した。
◆
~2013年8月27日~
海斗は、はっと目を覚ます。
「あれ? 眠っていたのか?」
身体はがたんがたんと振動で揺れていた。
慌てて周りを見回すと、すぐに自分はバスの座席に座っていることがわかった。
急いで鞄からスマホを取り出そうとして、あれ? と気がつく。
床に置かれたスポーツバッグにジャージ姿。
「高校生に戻ってる……」
鞄を急いで開く。出てきたのはスマホではなく、ガラケーだった。
部活ばかりで世の中の流行りに鈍感だった海斗は、周りからかなり遅れてスマホに変えたのを思い出し、この時はまだガラケーか、と笑ってしまう。
そして携帯を開き、「え……」とつぶやいた。
「2013年8月27日」の文字が目に飛び込んでくる。
「もしかして、この日って……」
海斗は急いでメールを確認する。
やはり「海斗に一緒についてきて欲しい所があるんだけど……」という、正樹からのメールが届いていた。
自分の送信履歴を確認すると、まだ返事はしていない。
海斗は急いでバスの降車ボタンを押し、大学行きのバスを降りた。
大学の練習に急遽参加することになって、正樹の誘いに付き合えなかった日。
この日に正樹は事故にあっている。
「間に合ってくれ……」
海斗はそうつぶやきながら、バスの停留所の看板を見ながら自分が今どこにいるのかを確認した。
とにかく千紘の家に向かった方が良い、そう思い海斗は大通りを走り出した。
◆
千紘はバス通りに来ていた。
交通量が多く、人通りも多い。
「マサくん……どこにいるの……」
千紘は家から一番近い横断歩道から順に目を追っていく。
その時、目線の端にすっと向かいの通りを横切る人物が映った。
千紘は振り返り、はっとする。
深緑色のブレザー、チャコールグレーのズボン、黒髪の背の高い華奢な男の子。
「染田くん……マサくん!!」
千紘は叫んだ。
向かいの道路の先を行くマサくんの後ろ姿は、街行く人達に遮られ、見え隠れしていた。
だめだ、これじゃ追いつけない。
「マサくん! マサくん! 気がついて!!」
千紘は必死で叫んだが、声は車の音にみるみるかき消されて行くようだった。
マサくんは平然と歩き、そしてそのまま、こちらに渡る横断歩道の前で止まる。
千紘は向かいの横断歩道までたどり着いた。
「だめだ! こっちに来ちゃだめだ!!」
千紘の心臓が激しく脈を打ち始めた。
しばらくして信号が青になり、マサくんは歩き出した。
「待って!! 来ちゃだめ!! 止まって!!」
千紘は声の限り叫び続けた。
「やめてーーーーー!!!!」
千紘がそう叫び、横断歩道に飛び出そうとした瞬間……
千紘の身体はものすごい力で歩道に引き戻された。
どさっと手を引いた人の上に倒れ込み、千紘は反射的に顔をあげる。
「海斗さん……」
・・・・・・
その瞬間、大きな衝撃音が耳をかすめる。
千紘はびくっとして横断歩道を振り返った。
歩いていた人達も立ち止まり、息をのんでその場を見つめている。
そして、千紘も海斗もその場から動けなかった。
大きな衝撃音を立てたトラックは、明らかに何かにぶつかった様子で横向きに止まっている。
それでも、そこに、さっきまで歩いていたマサくんの姿は見当たらなかった。
ただ一つ、横断歩道には学生鞄だけが残されていた。
「マサくんが……マサくんが……」
千紘は歩道に座り込んだまま、声にならない声で泣き続けた。
千紘を抱きしめる海斗の身体も震えていた。
「助けられなかった……間に合わなかった……」
そして千紘はつぶやいた。
「声が……届かなかった……」
お読み頂きありがとうございました!!!→つづく
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